召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

あんこくきょう

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 宇宙飛行士に似た何かに絡め取られた左手。
 そこから走る激痛に、何も考えられなかった。

「自己発火を使って」

 焦ったようなロンロの声が聞こえた。
 永久に続くのかと不安になった苦痛は突如終わる。
 パッと左手に絡まった触手がバラバラになったのだ。
 さらに宇宙飛行士の本体もバラバラになって崩れ落ちる。

「申し訳ない。対処が遅れてしまった」

 頭上からスライフの声が聞こえた。スライフが倒したのか。

「そいつらはソウルフレイアだァ。魔法以外で攻撃しちゃならねぇ」

 続けてゲオルニクスの声が聞こえる。

「ソウルフレイア?」
「魔物の一種だ。理の外にいる存在だという。その特異な存在は、記憶に残らない特性をもつ。声を聴き続けると気が狂い、殴りつけると自らが傷つく」

 ゲオルニクスの言った耳慣れない言葉に首をかしげたオレにスライフが説明してくれる。
 スライフの言葉で、ようやく事態が飲み込めてきた。
 あれは魔物で、物理攻撃をすると逆に自分が傷つくのか。
 確かによく見ると、宇宙飛行士っぽいけど、別物だ。
 頭は特に触手がウニウニ動いていて、魔物といわれれば納得する。
 ミズキは復帰し、槍を手にセ・スへと突っ込んでいく。ハロルドはセ・スと高速で打ち合っている、剣戟の音はリズミカルに響き、互角といった感じだ。
 宇宙飛行士っぽいソウルフレイアに対しては、カガミが火柱の魔法で倒していた。
 さらにパッと飛行島の端にソウルフレイアが一体出現したが、なんとかなるだろう。
 ところがホッとしたのも束の間、さらに異変が起きる。

「あぁぁ!」

 最初は空耳かと思うほど小さな悲鳴だった。

「上だ」

 続けて聞こえたスライフの声につられ空をみた。
 ミランダが落下していた。さらにたくさんのソウルフレイアの姿が目に写る。
 奴らは空中浮遊するようにフワフワと浮いていた。まるで宇宙飛行士が宇宙に漂うように。
 だが、まずはミランダだ。

「スライフ! ミランダを激突から守ってくれ」

 スライフが持つ念力の力で彼女を助けることを考える。その程度は楽勝だろうと思っての提案だったが、予想外の答えが返ってくる。

「少しおかしい、吾が輩では完璧に対処できない」

 その言葉どおり、ミランダの落下速度は落ちるが、あのままだとオレ達の飛行島に激突してしまう。
 なんとか駆け寄り、ミランダを空中で受け止めたが、それは完全とはいかなかった。
 身体強化をしているはずなのに、勢いを殺すことができなかった。
 ミランダの下敷きになって、体に痛みがはしった。

「リーダ! 飛行島の様子がおかしい! 上手く操作できない!」

 さらに、飛行島にある家の2階で、飛行島の制御をしていたサムソンが大声をあげた。
 どういうことだ。
 今度は何が起こっているとあたりを見回していると、ギュッと抱きしめられた。

「おい、ミランダ!」

 抱きしめてきたミランダに声をかけると、彼女はガチガチと歯をならし震えていた。
 目には涙を浮かべ「助けて、助けて」と呻いている彼女は普通ではない。

「ぐぁぁ」

 さらにハロルドの叫び声が聞こえた。直前まで互角だった状況が一変していた。ハロルドが殴り倒されていた。そして、ミズキの攻撃を避けたセ・スは、タイマーネタの方へと進んでいく。
 追い縋るミズキを物ともせずに、タンと足音をたてて、一足飛びにタイマーネタとそれを抱えるスライフにセ・スは飛びかかる。
 対するスライフは応戦し、殴りかかるセ・スの攻撃を捌いていた。ところが次第にスライフの動きが鈍くなっていく。そして、バッと大きく後退したスライフが消えた。
 残されたタイマーネタが落下し、飛行島から落ちていく。

「落としてしまったか。仕方がない、破壊は後にしよう」

 消えたスライフを見て、セ・スが笑う。
 何が起こった?

「スライフ!」

 呼びかけてみるも無反応だ。
 それに、状況は考える暇を与えてくれない。

「リーダ! 助けて」

 バッと助けを求めるノアに顔を向けるが、何が起こっているのかわからない。
 カーバンクルが、ノアから離れて家の下に潜り込んだのが見えた。
 ノアの困惑の理由は、カーバンクルが理由かと思ったが、違うようだ。ノアは、カーバンクルが逃げたことに気がついていない。
 ただ不安そうにオレをみて、それから手に持った剣を両手に抱え、他の何も目に入らないかのように駆け寄ってくる。いつの間にか、魔法で作ったドレスも消え、ノアは普通の服装だ。
 そして、その後ろには……。

「ノア、ソウルフレイアだ!」

 駆け寄るノアの背後にソウルフレイアが立っていた。
 まずいとノアへと叫んだ直後、それは電撃によって打ち倒される。ゲオルニクスだ。
 電撃を放ちノアを助けた彼に、目でお礼をいう。
 ミランダは未だ抱きついていてオレは身動きが取れない。
 ハロルドはよろよろと力なく立ち上がり、剣を手にしていた。彼も息が荒い。息苦しそうだ。
 そして、あたりが暗くなる。
 何かが日の光を遮っている、そう反射的に判断し、上を見た。

「あれは! サムソン! 全力だ! 全力で下に、下に、降りるだ!」

 ゲオルニクスの叫ぶような大声が響く。
 いつのまにか、遙か頭上に得体のしれないものがあった。
 強いて言えば真っ黒いヒトデ。海にある星形のあれだ。
 巨大なソレは空を多い隠し、ウニウニと触手のように足を動かしていた。
 真っ黒く、光を反射しないソレは、まるで空間にできた裂け目のようにも見えた。
 さらに真っ黒ではない事に気がつく。

「キラキラとした煌めきに……あれは、土星?」

 輪っかを纏った大きな球体があった。煌めく星に、土星。テレビなんかでみる宇宙そのものだ。
 それをバックに、ソウルフレイアが漂う様子は、宇宙空間でただよう宇宙飛行士そのものだった。

「あぁ。これほど近づければ、さすがに気づいてしまうか。あれは我らにとって理想郷、君達にとっては絶望の地。最終型理想郷……暗黒卿だよ」

 唖然とするオレに、セ・スは無機質な声でそういった。
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