召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

ちのそこ

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 暗い世界にあった光の柱。
 ノア達を先に脱出させて、オレとカガミは奇妙なゴブリンと戦うことになった。
 相手は死に忘れた存在で、戦いは少しだけ苦戦した。
 考えてみれば簡単な事だったのだが、魔改造した聖水を使うということに気づくまで時間がかかってしまい、何度殴り倒しても起き上がってくるゴブリンに手こずった。
 そうしてノア達からだいぶ遅れて光の柱に飛び込んだ。
 飛び込んだ直後、頭を殴られたような衝撃があった。

「……先輩! 先輩!」

 プレインの声で、ようやく我に返ることができた。
 熟睡中に起こされたような妙な不快感。
 もう少し眠りたいと本能の欲求が最初に来たが、それはすぐに目の前の光景によって吹き飛んだ。
 少し離れた場所で、ノアとセ・スが戦っていた。
 ノアは見たことのない鎖のついた2本の剣を手に取り、くるくると回りながらセ・スと戦っている。すさまじい早さでの攻防、目で追うのもやっとだ。

「現場は?」
 オレが眠りにつく前とくらべ、大きく違う状況に、プレインへ状況を尋ねる。

「一度、暗黒卿に追いつかれました。でもサムソン先輩が息を吹き返して、飛行島を急降下させています。それから、みんなでソウルフレイアと戦いながら、好きを見つけてタイマーネタを召喚しようとしたんですけれど、どうにも壊れた薬莢では物体召喚がうまくいかなくて……」
「そっか。それにしてもノアはめちゃくちゃ強いな」
「そうなんスよ。なんか凄くて。それよりも、エリクサー出してもらえませんか」
「エリクサーなら皆も持ってるだろ?」

 ここへ来る前に、皆がそれぞれエリクサーを持つようにした。10本程度、いつでも出せるように準備してここに乗り込んだはずだ。

「もう使っちゃったス」

 プレインの答えに、オレが暢気に寝ている間に、とんでもない状況になっていたと気がついた。
 すぐさま手に取れるだけのエリクサーを影から取り出して地面に置く。
 それからタイマーネタの触媒。これも、とりあえずとばかりに三つほど取り出して地面に置く。

「リーダ、起きたんですね」

 そこにカガミが近寄ってきた。来る前に準備した鉄製の盾をフワフワと動かして近づいてくる。盾はボロボロになっていて、残りはわずか3枚だった。

「厳しい状況みたいだな」
「えぇ。一緒に柱に飛び込んだはずなのに、リーダの目がなかなか覚めないので心配しました」
「そっか」
「早速ですが、守ってもらえませんか?」
「守る?」
「今から物体召喚でタイマーネタを召喚します」
「そういうことか。了解」

 カガミの言葉に大きく頷き、影から魔壁フエンバレアテを取り出す。
 巨大な鉄の板だ。魔法で動くこれを使い皆を守る。

「リーダ。武器だして、剣と……それからカガミの使ってる火柱のやつ」

 オレの目が覚めたことに気がついたミズキも近づいてきた。
 ミランダもこちらへとソウルフレイアを牽制しつつ近寄る様子があった。

「武器? あぁ、カガミの使っている火柱の魔法を放つ板か」
「そうそう」

 言われたものを取り出している途中に現状を教えてもらう。
 おおむねはプレインが言った話から外れることはなかった。
 ミランダからは、ノアが聖魔の炎を使っていること。それによりセ・スと互角以上の戦いをしていること。だけれど、ノアは何か別の存在に体を乗っ取られている可能性を教えてもらう。

「どうするっスか?」

 皆にエリクサーやら魔導具を渡しているとプレインが質問してくる。

「考えるまでもない。できることをやるだけだ。とりあえずタイマーネタを物体召喚する。そしてセ・スをなんとしてでも倒す。今はそれだけだ」

 カガミの詠唱する声が聞こえる。やはりというか、ソウルフレイアがパッパッと瞬間移動して近づいている。ミランダが凍らせたり、氷の塊をぶつけて対応しているが、暗黒郷の影響があるようだ。ソウルフレイアを無力化するほどの威力はだせていない。

「あと少しなのに、結構むずい」

 ミランダが氷で動きを止めた直後を狙って、ミズキが火柱の魔法を使うがギリギリではずれる。
 凍らせても、氷の中から瞬間移動で逃げてしまうのだ。
 それでも戦況は悪く無い。ソウルフレイアも、こちらの攻撃を警戒しているようで、攻めあぐねているようだった。
 ハロルドもプレインからエリクサーを受け取ったようだ。
 剣を振り回し、ソウルフレイアの注意を上手く引きつけている。だが、魔剣の力はほとんど発揮できていないようだ。剣から噴き出す蒸気も、目くらまし程度にしか使えていない。
 そしてオレはフエンバレアテをぶん回して、ソウルフレアの攻撃から皆を守る。
 動きがすごく遅い。これも暗黒郷の影響だろう。
 でも無いよりかずっといい。そして、フエンバレアテをソウルフレイアにぶつけても、反射ダメージが来ないことが分かった。
 ただし、残念ながら、物理攻撃でソウルフレイアにはダメージを与えられない。
 だけどオレ達は状況に対応しつつあった。
 瞬間移動を続けるソウルフレイアを、オレ達は一体また一体と倒すことができた。
 敵が少なくなり、セ・スとノアの戦いにも注意を払えるようになった。
 すでにセ・スは防戦一方だった。

「本当に操られてるみたいだ」
 ホッとする反面、心配の言葉がもれる。
 ノアとセ・スの戦いを真上から見下ろすロンロが原因だ。
 彼女は2人の頭上で、両手を広げ下を見つめていた。手の指を素早く動かし、そのポーズもあって、まるでマリオネットを操作している人のように見えた。

「成功です!」

 詠唱を終えたカガミが声をあげる。
 小型の馬車程の大きさでバリスタの形をした石の塊が姿を現していた。
 魔導弓タイマーネタを呼び出すことができたのだ。
 もっとも、セ・スとノアが接近して戦っているためタイマーネタを発射することはできない。状況はノアの方が優勢なので使わないかもしれない。
 それでも、可能な限り準備は進める。
 ソウルフレアの撃退も、順調だった。

「あと一匹!」

 ミズキの大声が響く。
 そして、それは、そんなミズキの声がした直後だった。
 いままでにないほど飛行島が上下に大きく揺れた。
 ミランダが足を滑らせて倒れた。
 オレもあとわずかでこけそうなほどだった。

「やばい。底だ! これ以上降下はできない!」

 揺れの理由は、サムソンが2階の窓から身を乗り出して叫んだことで判明した。
 その言葉で、こちらが追い詰められたことに気づく。

「やぁぁ!」

 ノアの掛け声がして、ザクリという音が響く。
 大きく振るったノアの剣が、セ・スの肩から胸にかけて、深々と突き刺さっていた。

「やった」

 ミズキが声を上げる。
 このギリギリでなんとか勝負をつけることができたようだ。
 そう思った。
 しかし、それは間違いだった。セ・スの体が変容していく。
 大きく膨れ上がり、背中からカエルの体が生えてきた。

『ズルリ……ズルリ……』

 気味の悪い音をたてて、下半身はカエル。人の上半身にコウモリの羽、異形の姿に変化したセ・スは剣が深々と刺さっているのに笑いだした。

「ハハハ! この時をぉ、待っていたぞノアサリーナ!」

 聞いたことのないほど大きな声でセ・スが叫んだ。

「剣が!」

 一方のノアは、ノアではない大人の声を上げる。
 セ・スの体に突き刺さった剣が抜けないようだった。
 さらに、セ・スの体から2本の手が生えて、ノアの頭を掴んだ。さらに元からあった手がノアの体を掴む。

「ノア!」

 オレが叫ぶと同時、セ・スに突き刺した剣とは違うもう一つの剣で、ノアは自分の頭を掴んだセ・スの手を切り落とす。

「甘い!」

 ところがセ・スは怯まない。カエルの体から生えた4本の足を大きく広げググっとしゃがみ、タメを作った後で大きく跳ね上がった。
 ノアを掴んだまま、カエルが跳ぶときのように足がグンと伸びて飛び上がったのだ。

「まずい」

 直感的にセ・スの考えが読めた。
 奴の飛び先にはゲオルニクスの作った電流の壁があった。
 あれにぶつける気だ。
 奴はオレの予想を裏付けるかのように、電流の壁にノアを突き出すように動く。
 当たってはひとたまりもない。
 ゲオルニクスも同じ考えだったのだろう。
 ノアに当たる直前で、電流の壁が解かれる。

「ハハハハハ! 空間封鎖を解いたな! 私の勝ちだ!」

 セ・スがノアを掴み飛びゆく先、オレ達の頭上に、宇宙を模した不気味で巨大な暗黒卿が見えた。
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