召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

閑話 収穫の顛末(後編)

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「姫様」

 ハロルドが呼びかけ、プレインがホッとした表情でノアを見た。

「おはようハロルド。怪我してるよ」

 起き上がったノアが落ち着き払った態度で、ハロルドの肩を指さす。
 穏やかなノアの声を聞いて、セ・スの笑みが消えた。
 セ・スだけではない、その場の誰もが違和感を抱いた。
 ノアの声がおかしいとハロルドを除く誰もが思った。

「リーダ達もすぐに起きるから頑張ろうね。プレインお兄ちゃん」
「リーダ達もすぐに起きるから、あと少し頑張りましょう」

 重なった声音に、プレインがノアの背後を見た。
 彼の目にはロンロが見えていた。
 ノアのすぐ側にロンロが立っていたのだ。
 そして、ノアとロンロはゆっくりとセ・スに向かって歩み出す。散歩するように、リラックスした様子で、小声で歌い歩きながら辺りを見回す姿に、緊張感は無かった。
 歩く途中で、ノアの服は魔法で出来たものに替わり、手に持った赤い剣は、鎖で繋がれた2本の細身の剣と姿をかえる。髪はゆっくりと伸び、ノアの片目を隠した。
 ロンロもまた、ノアと同じ服装で、同じ髪型で、同じ双剣を手にしていた。

「収穫の影響で酩酊……ではないか。それに後のホムンクルスは、何だ? この飛行島と同じようにウルクフラの作品か?」

 セ・スは近寄るノアとロンロを動かず静かに見つめていた。
 ボソボソと、小さく呟くセ・スの顔からは笑みが消えていた。

「ハロルド、ちょっと待っててエリクサーあげる」
「ハロルド様、エリクサーをお飲みください」

 ノアがハロルドを見上げつつ、飛行島の一方に手をかざす。
 すると、ノアの手に吸い寄せられるようにバッグを動いた。
 バッグを手に、ノアは手慣れた様子で中をまさぐる。

「姫様!」

 あっけに取られていたハロルドが声をあげ、剣を手に取った。
 ノアの背後に、ソウルフレイアが瞬間移動して近づいていたのだ。
 ところが、ソウルフレイアはノアに攻撃するが出来なかった。

「はい。ハロルド」
「どうぞ、ハロルド様」

 ノアがハロルドにエリクサーの小瓶を突き出したとき、彼が見たのは、バラバラに切り裂かれたソウルフレイアだった。

「服の帯が……」

 ソウルフレイアが倒れる瞬間をみていたミランダが呆然と呟く。
 彼女の視線は、ノアの服を飾る大きなリボンの先に注がれていた。
 シュッという風切り音がして、さらに襲いかかるソウルフレイアを切り裂く。
 彼女が見たのは、服のリボンが鋭く動きソウルフレイアを切り裂いた、そんな光景だった。

「ミランダ。物体召喚の魔法陣ってかける?」
「ミランダ様、物体召喚をお願いできますか?」
「え?」

 微笑んだノアの様子に、ミランダは怯えた。
 そこにいたのが、ノアでは無い気がしたのだ。言葉の意味はわかるはずなのに、ミランダは何を言われたのか理解できず混乱した。

「ノアサリーナは、君にタイマーネタを召喚せよと言っているのだよ」

 混乱するミランダに声をかけたのは、セ・スだった。
 続けてセ・スは表情を無くし、ノアとロンロへ問いかける。

「それで、君は何だ? ノアサリーナの体を使い、何を成さんとしているのかね?」
「お前を倒すの。命を捨ててでも」
「貴方を消し去ります。命を捨ててでも」

 セ・スの問いかけに、ノアとロンロの声音が重なる。その声は、先ほどよりも、さらに声音の差は縮まっていた。

「タイマーネタは狙いが付けにくい。たとえ、彼らがタイマーネタを呼べたとして、私には当たらない」
「問題になりません。なぜならば、病の王国モルススのセ・スよ。お前はこれから大きく傷つくのだから、タイマーネタの輝きを避けられぬほどに」

 ノアとロンロはまったく同じ声をあげる。
 ひどくノアに似た声なのに、それは別人の声だった。
 そして、ノアは滑るようにセ・スから距離を取る。続けて、つま先立ちになり、足を開きターンをした。まるでバレエを踊るように。
 一方の軸足を動かさず、もう一方の足で円を描いた。
 自分の体をコンパス代わりにして、つま先で地面を削り円を描いた。

「まさか!」

 その姿を見て、セ・スが大きな声をあげた。

「拙者が相手!」
「どけっ」

 大声をあげたセ・スは前に立ち塞がるハロルドを無造作に殴り飛ばし、ノアへと一足飛びに近づく。今まであった余裕の無いセ・スがそこにはいた。
 続けて高速で繰り出されるセ・スの攻撃、それをノアは2本の剣を巧みに使いしのいでいく。舞うように。
 セ・スは両手を使い攻撃するも、ノアには当たらない。それどころか、ノアは自らが描いた円から一歩もでることがなく、さらにはつま先で、円の中にいくつかの模様を書き記していく。

「やはり戦いなれていないようですね。セ・ス……お前は、神格を得たとしても、神々の座には至れもしない脆弱な神なのでしょう。そこに突き入る隙があります」

 ノアとセ・ス。2人の戦いを真上から眺めるように見ていたロンロが語る。
 彼女は下に向けた両手を開き、まるで人形遣いが人形を操るときのように指を動かし、語り続ける。

「さて、始めましょう。赤は身に流れる血の色にて……」
「魔力の色を変えた。やはり!」
「緑は風が舞い遊ぶ千草の色。さえずり訴える緑の音。姿を写す大海は青く、照らす月は白く光る。静かに囁き、世を飾る景色の音を、水のごとく流れる火へと形を変えて、我が身が及ばぬ存在を、無くしてみせましょう」

 ノアとロンロの言葉が再び重なり、魔法の詠唱となっていく。そして詠唱と同時に魔法陣が何度も色を変えていった。

「聖魔の炎!」

 その光景を見たミランダとゲオルニクスの声がかぶる。
 最後に口にしたノアの言葉は、2人の声にかき消されたが、魔法は完成していた。
 それは、ノアの持つ2つの剣が青白い魔法の火に包まれ、セ・スの手を切り飛ばしたことから明らかだった。
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