召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十三章 未来に向けて

おさきに

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 海亀の背に乗せた小屋の屋根に寝転び、空を見上げる。
 流れる雲を眺めつつ、サムソンのメモ書きに目を通す。
 まだ先は長い。

「リーダ!」

 パッとあたりが暗くなって、ノアの声が聞こえた。
 サッと、クローヴィスに乗ったノアが手を振っていた。
 ノア達は、オレの頭上を飛び越えて、先に進む。
 茶釜と、茶釜の子供達がクローヴィスとノアを追いかけるように駆けている。
 モペアは地面を滑るように走って追いかけていた。
 クローヴィスに、精霊達、皆楽しそうだ。

「あっ、フィグトリカ様がいます」

 御者をしているピッキーが報告の声をあげる。
 ガバリと起き上がり、視線を彷徨わせると、ピッキーのいうとおり、遠くにグリフォンのフィグトリカがいた。ギリアの街が遠目に見えた。もう戻ってきたのか。
 さらに、魔法で視力を強化しつつ目をこらすと、フィグトリカにキンダッタが乗っている事がわかった。
 彼らもノアに味方をしてくれる。
 向こうもこちらに気がついたようで、ノアへと飛ぶ方向を変えた。
 のんびり旅行は、平和に終わった。
 最後は、クローヴィスとノアが、フィグトリカ達と空で遊ぶ様子を見ながら帰宅することになった。

「久々に飛ぶ空はやはり素晴らしいものでしたゾ」
「はい。キンダッタ様、フィグトリカ様、楽しかったです」
「ヌハハハ、ワシも楽しかった。また一緒に飛ぼうぞ」

 屋敷の前で、キンダッタ達と別れ、帰宅する。

「おかえりなさいませ」

 ギリアの屋敷に到着すると、ハイエルフの双子が恭しく出迎えてくれた。

「では、今日は私が晩御飯を作ろうと思います。何か希望あります?」

 屋敷につくやいなや、カガミがふわりと海亀の背から降りて振り返り質問してくる。
 もう、そんな時間か。

「じゃ、シチューで」
「せっかくだからボクはピザを作るっスよ」
「今日は温泉入れる日なんだっけ?」
「大丈夫だったと思います」
「だったら、食事より前に、温泉いこ、温泉」
「もちろん。火加減をサラマンダー達にお願いして、温泉。そのつもりです」

 皆がテキパキと動く。

「お手紙を預かっております」

 手持ちぶたさになったオレにも役割があった。
 ノアと一緒に屋敷の玄関へ向かって歩いていると、ハイエルフの双子が横に並び、手紙を差し出してきた。
 加えて、いくつか報告をうける。

 トゥンヘルが王都からこちらに向かってきていること。
 サイルマーヤを始めとした、帝国で一緒だった神官団が面会を希望していること。
 さらには手紙と一緒に、レーハフさんより、飛行島に建設する家の図面を預かったということ。
 盛りだくさんだ。

「飛行島に載せるお屋敷は、トゥンヘルおじさまだけでなく、私たちもお手伝いできますので、お任せください」

 最後に双子がそう付け加える。
 いろんな事が着々と進む。
 いい感じだ。神官団には、プレインの作った魔導具ハーモニーを配る計画について相談しよう。資料集めに、白孔雀のための地図、いろいろ頼って申し訳ないが、彼らのネットワークはすごいしな。

「パンだ」
「クイムダル様が、トーク鳥で送ってくださったでち」

 帰宅し、温泉に入ってさっぱり気分で戻ってくると、晩御飯に焼き立てパンが加わっていた。
 シチューにチーズたっぷりのピザ、世界樹の葉っぱを中心としたサラダに、地竜の生ハム、それに焼き立てパン。デザートに、色とりどりの果物。
 豪華メニューだ。

「温泉上がりに、焼き立てパンが食べられるなんて素敵だと思います。思いません?」

 興奮気味のカガミに、笑って頷く。
 旅の食事もいいが、屋敷の食事もやっぱりいい。

「ハーモニーの、デザインを考えたんだよね。盾っぽいの」
「盾ですか?」
「そうそう。皆を守るって感じで、真ん中に紋章があって、取り囲むように音楽を奏でる魔導具を配置した感じで」

 ミズキが指でホームベースのような形を描く。

「宝玉をちりばめた盾ですか。良いと思います」

 それをみて、カガミが楽しげな声をあげる。
 そんな時のことだ。
 食事中、プレインがガタリと椅子をならして立ち上がった。

「どうしたんですか?」

 突如、立ち上がったプレインを見て、カガミが声をかける。
 プレインは、カガミに答える事なく、自分の腰あたりをぽんぽんと叩いていた。

「先輩」
「どうしたんだ、プレイン」
「蓄音の魔導具、持ってないっスか? 風呂上がりでうっかり持っていなくて……」

 なんだろうと思いながら、オレはシチューの入っている皿を少し傾け影を大きくする。
 それから少しだけ念じて、影から蓄音の魔導具を取り出し、プレインに向かって転がした。

「すみません、少しだけ静かにしてくださいっス。最初、なんか急に体が軽くなったんス。気のせいかなって思ってたんスけど、やっぱり体は軽くなった気がしたままで……」

 オレから蓄音の魔導具を受け取ったプレインは、魔導具に魔力を流し起動させ、話を始めた。

「えっ、何なに?」
「ミズキ、静かに」

 大声をあげるミズキに対して、オレは唇に指をあてて制す。

「それで、もしやと思って、看破で自分をみると、命約数はゼロで、でも、そこから変化がなかったままで、大丈夫なのかと思っていたんス。一月、二月、いつまでたっても同じままだったから、ずっと大丈夫かなって。でも、違っていて、またゆっくりと体が軽くなっていったっス」
「プレイン氏、ゼロってわかったのはいつ頃だ?」
「ちょうど半年前っス。それで、アーハガルタから帰ってきて、また、それから体が軽くなったんスけど、止まって。またしばらくこのままかと思っていたんスけど……いま、さっき分かったっス。もう時間が無いって。念のために、蓄音の魔導具を用意していたんスけど、今の今に限って忘れてて、ダメっスね。ボク」
「そっか」
「あのすみません、もっと色々言わないとダメなんだろうけど、土壇場で、何を言えば分からなくなっちゃって……」
「プレイン! 足!」

 ミズキがプレインの足元を見て、大きな声をあげた。
 彼の足先が消えていた。違う、足先だけない、膝から腰も、薄くなって向こうが見える。

「ノアちゃん、ごめんね。急に、こんなになって……。あの、先輩、後はお願いします」
「あぁ、お疲れ」
「お先に……」

 オレの言葉に、涙目になったプレインは深々と頭を下げて……消えた。
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