召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十四章 途方も無い企み

閑話 聖女と勇者(後編)

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 港町クイットパースから馬で数日、飛行船で半日もかからない距離、上空。
 何の変哲も無い森の上を、大量の飛行船が飛んでいた。
 中でも、紋章付きの盾で飾られた船は、別格の一隻だった。
 50門の魔砲を始めとする数々の魔導具による武装、乗員のおよそ600名は一目で精鋭とわかる猛者達。その帆を飾る紋章は勇者の紋章、それは勇者の軍旗艦アーマダシス。世にて類を見ない戦艦だった。
 そして、その日、勇者エルシドラスは、旗艦アーマダシス内の豪華な一室で補佐役達と食事を取っていた。

「物資の補給がいくつかの拠点で遅れているけど、これは対応を急がないといけないと思うよ。ルシド」

 食事の途中、短めでうす青の髪を揺らし、場でもっとも年若い女性が言った。
 彼女は勇者の軍において、2人いる精霊使いの一人、風の精霊を使役する若き賢者コンサティア。
 幼い頃よりの長い付き合いを感じさせる砕けた調子で、彼女は勇者へ語り続ける。

「それからヨラン王国出身者が、南方の者を侮辱した訓示をした話と、帝国の者がグラムバウム魔法王国の境で略奪を働いたと報告の件も、対処を優先すべきだよ」
「問題山積ですなぁ」

 続くコンサティアの言葉に、一人のドワーフがのんびりとした声でチャチャを入れる。
 顔の倍はあろうかという立派な髭を蓄えた彼はドトケーオ。もう一人の精霊使い。ノームを使役する戦士にして魔導具大工だ。

「笑い事じゃないよ」
「しかも右翼から、ノアサリーナに協力したいとの許可申請も対処を急いだ方が良さそうだな。本当に、問題ばかりで嫌になるよな、勇者様」
「左様。勇者様には休む時間が……あぁ、いけない。考えてみれば、食事くらいゆっくり取った方がよさそうです」

 ドトーケオの言葉にコンサティアが反応し、さらに2人の男女が続く。
 一人が元ヨラン王国王都第4騎士団団長トルバント。二刃のトルバント。第4騎士団所属だったとは思えないほど細身な男。
 そしてもう一人はハーフエルフの女性アクアリス。嵐の魔女という別名を持つロウス法国出身の魔法使い。
 2人も長い付き合いを思わせる軽い調子で語った。

「まぁ、私には他に話題がないからね。君達と食事をゆっくりとるだけで、十分だよ」

 恐縮した様子で言葉を発したアクアリスに、エルシドラスは笑顔で答える。
 さらに、パンをちぎりながら、エルシドラスは笑顔のまま「でも、ノアサリーナに協力する許可か……」と言葉を続けた。

「馬鹿なことを。第6魔王の復活があったばかりだぞ。世界の国々が、皆のために集まり作りあげた勇者の軍をなんだと思っているんだ」

 エルシドラスの付け加えた言葉に、場で最も年長に見える男が憤慨の声をあげる。
 元モルトール領主カドゥルカ。白髪頭に似合う眉根をつり上げ、彼は不機嫌に言い放った。

「ははは。無理もない。聖女ノアサリーナは今や人々の希望だからな」
「エルシドラス様!」
「はは。では、どうだろう。どうすべきか。皆の意見を聞きたい」
「ルシドはどう考えているの?」
「そうだね、コンサティア。私は、ノアサリーナの動きと魔神は無関係ではないと思っている。いままで、ノアサリーナ達は世界を賑わせていたが、ここまで積極的な行動には出なかった」

 勇者エルシドラスの言葉に皆が食事の手を止めた。
 その様子を見て、エルシドラスは考える。
 ヨラン王国の事を。
 エルシドラスから見て、ノアサリーナに対する王都の態度は不気味だった。
 世情に疎い彼でも、王都におけるノアサリーナの存在を不快に思う勢力が多いことを知っていた。
 そして、彼の父……カルサード大公がその筆頭であることも、知っていた。
 この状況で、王都の沈黙が、エルシドラスにとって不思議でしかたが無かった。
 権力争いのかまけている。
 少しだけ考えて、現実的な解として、彼は無反応の理由をそう結論づけた。
 それは、長く眠りについていた王族の一人が目を覚ましたという噂。それにより、王族の目覚めを待つという名目で活動していたサルバホーフ公爵派が勢いづいたこと。
 そして、タイミング悪く露見した、カルサード大公派の不正がもたらした混乱。それらが彼の結論の根拠だった。

「皆は、どう考える? 教えてもらえるかな」

 それはエルシドラスが思案の後、再び声をあげたときの事だった。

「エルシドラス様に面会を希望する使者が来ております。こちらを読み、返事を頂きたいと」

 部屋に伝令役の兵士が駆け込み訴えた。

「食事中だ。待たせておけ」
「いえ、それが……使者というのが、サシャックス様なのです。カドゥルカ様」

 跪いた兵士が、筒状に巻いた手紙を差し出し報告を続ける。
 報告は、クイットパース領主の子サシャックスは領主よりの手紙を持参し、回答を得るまで逗留する許可を願いでているという内容だった。
 エルシドラスは、静かに兵士へと近づき手紙を受け取ると、その場でサッと手紙を広げ目を通す。

「そうか……」

 少しして、エルシドラスは小さく呟いた。

「補給が遅れている詫びか?」
「詫びではないよ。トルバント。これは面白い提案だよ。ドロチトロス様は、聖女ノアサリーナと手を結んで欲しいらしい」
「おいおい、クイットパースの領主まで、そんな事を?」
「いや。こちらは現実的な問題らしい。港が船で溢れ、我らの補給物資を運び入れることさえままならないそうだ。それどころか、王都へと送る物などを詰んだ商船すら港に入れないとある。そこで、ノアサリーナに向けた物資と人の運搬を勇者の軍で手伝ってほしいらしい。飛行船ならば、港の制約はうけないからね」

 怪訝な表情を浮かべるトルバントに、エルシドラスが軽い調子で答える。
 コンサティアを始め、補佐役の面々が真剣な表情になっていた。

「ですが、それは、我らに利が無いのでは?」
「その代わり、ノアサリーナに勇者の軍への協力を訴える言葉をもらうそうだ。具体的には、ノアサリーナ向けの物資の一部を勇者の軍に振りわける方針で進める……と。交渉はクイットパースが代わりにするので、許可を……ということだ」
「条件次第……でしょうか? 上手くやれば右翼の不平を抑えられるかと」
「ボクも、アクアリスに同感だよ。クイットパース港が機能しない程の状況。どれくらいの物資かによるけれど、その一部が手に入れば補給の問題は緩和できると思う」
「アクアリスも、コンサティアも、賛成されるつもりか?」
「ボクは提案を受け入れた方がいいと考えます。カドゥルカ様には思うところがあるかもしれないですが、右翼の瓦解を防ぐことはできます」
「だがな、しかし……ドトーケオはどう思う?」
「うむ。ワシは賛成だ。すでに南方においてノアサリーナの人気は絶大と聞く。帝国も第一皇子が友好関係にあるのだろう? あとはヨラン王国出身者次第でどうとでも転ぶ。何にせよ、エルシドラス様が勇者として判断されればワシは決断を尊重し、全力を尽くす」

 ドトーケオがそう言って、エルシドラスを見た。
 トルバントも頷く。
 2人の様子を見て、他の面々も口を閉ざしエルシドラスを見た。

「では決まりだ。ドロチトロス様の提案をのむことにしよう」
「判断を急ぎすぎではないか? 各国に伺いを立てるべきでは?」
「いや。カドゥルカ。これは即答が求められるものだよ。だが、もちろん、全てをドロチトロス様に……クイットパースに任せるわけにはいかない。今日は忙しくなる、ヘタな事をすれば、勇者エルシドラスは頼りにならぬと笑われよう」

 補佐役の皆が見つめる中、エルシドラスは言った。
 そして彼は静かに席をたった。
 さきほどまでの柔らかな印象では無く、一軍の将としてふさわしい威厳を感じさせる姿で、勇者エルシドラスは使者へと会うために部屋をでた。
 ノアサリーナと手を組んで欲しいというクイットパースの申し出を前に進めるために。
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