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終章 最強のお願い(ノア視点)
閑話 終末の時
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王の月、4日目の日。
それはリーダ達が魔神復活を予告した日の事だった。
日が高く昇った時、世界の人々が叫び声のような歌声を聞いた。
「アッ、アッ、アァァ」
「ラッ、ララ、ラッラァ」
女性のようでもあり、子供のようでもある高い声。
その声が誰の声なのか、叫び声か歌声か分からない。それでも、人々は知っていた。
世界の各地にある魔神の柱から聞こえてくるものだと。
そして人々は見た。
天の蓋が縮み、黒い円に姿を変えた様子を。
まるで空間を切り取ったような真っ黒い円は、ジワリと動き、太陽へと近づいたかと思うと……飲み込んだ。
黒い円に太陽が隠れる事で、辺りが一気に暗くなる。
リーダ達が見れば日蝕だと言うであろう天体現象を、この世界に住まう多くの人は伝承でしかしらない。
人々は急に夜が訪れたことに驚き、太陽の代わりに現れた燃え盛る輪を見た。
そして、夜となったことを見届けたかのように、黒い円の中央に小さな魔法陣が赤く輝き、弾けるように膨らみ天を覆った。
その正体は、より一層輝く天の蓋だった。
人々は、めまぐるしく変化する空を見上げた。
それは、深い森の上空に、数多くの武装した飛空船団にあっても同じだった。
だが、その船団に乗る者達は、誰も騒がなかった。
特に一際厳重な武装した飛空船にいる者は、逆に微笑む余裕すら見せていた。
微笑む者は、勇者の軍総大将、勇者エルシドラス。
彼は白い聖剣を床に立て、両手で柄を支え、仁王立ちに口を開く。
「予定通り、伝承通りだ。来るぞ! 我らが戦うべき舞台だ!」
彼の視線は、燃え盛る輪を見ていた。静かに変化する輪を。
輪の下弦が一層輝き、滴の形に姿を変える。それは涙が地面に落ちるように、スッと音も無く落下していく。細い糸を残して落下する。
輝く滴は黒く色を変えて膨らみ、巨大な蜘蛛の形へと姿を変えた。
旗艦アダーマシスの軽く十倍は超える巨大な体躯。その体から伸びる蜘蛛の足の一本ですら山を切り裂けるであろう巨体。
「あれが魔神!」
薄青髪の少女……コンサティアが声をあげる。
空から糸を引き降りた蜘蛛は、頭を傾けた。8つある目の内、前方4つの目に、旗艦アダーマシスの姿が映る。まるで勇者を品定めするかのように、見つめた蜘蛛の頭が、勇者の乗る船の方角へ向けて蛇腹になった首を伸ばし近づく。それから、はさみ状の口が左右ガバリと開き、人の舌にそっくりな舌を伸ばす。舌の先にはあぐらをかいた人が座っていた。とても長い袖の紺色をした服を着た人。黒い布で目隠しをした人だった。
「皆、予定通りだ。我らで時間を稼ぎ、エルシドラス様が聖剣を使うタイミングを計るのだ!」
勇者の側に控えていたカドゥルカが魔神に向けて錫杖を指して叫ぶ。
「空と、大地、あらゆる方角から敵が来るぞ! 見ろよ、あの数、楽しくなってきたなぁ、オイ」
同じく勇者の側に控えていたトルバントも、両手に持った短剣をクルリと回し大声をあげる。
彼の言う通り、湧き上がるように地面には黒い魔物が出現し、夜の闇からも数多くの魔物が向かってきていた。
勇者の軍は、備えていた。
ところが、万全かと思われた備えに水を差すような報告がやってくる。
「魔王ピピトロッラ出現、我らより南の方角」
勇者の軍にいる兵士の一人が報告をあげた。
「なんと! 第1魔王が? 左翼は何をしている、取り逃がしたのか」
「問題無い。ドトーケオ。ハティカテラにジムオール、デルケンテーアを率いての迎撃を命じろ」
芝居がかった声をあげたドワーフのドトーケオに、エルシドラスは即座に指令を出す。
ところが、報告はまだまだ続く。
「北より、第3魔王視認」
「第1魔王出現の連絡有り!」
「勇者様! 魔王です。魔王ボショブルショ! 第4魔王です」
矢継ぎ早の報告に、カドゥルカは眉間に皺を寄せる。
「えぇい、右翼も、左翼も、失態続きではないか! それに第1魔王の報告はすでに受けた、情報は精査し、報告せよ。混乱の元だ!」
報告役を怒鳴りつけるようなカドゥルカの言葉。
「いえ、ピピトロッラは……第1魔王は……先ほどの報告とは別、北より襲来する別の……個体です」
しかし、それに答える兵士の言葉は意外なものだった。
「第6魔王視認、北です」
「ちょっと待てよ、倒したばかりだろ、第6は!」
反射的に、トルバントが否定の声をあげる。
しかし、異常な報告は続く。
「地上を進む強力な個体。一軍を……眷属達の様子から魔王……第2魔王と思われます。地上、クイットパースの方角です」
「2、2体同時です。第3魔王……2体が西から」
「魔王です、第1魔王です。ギリアの方角!」
兵士の報告が続くにつれて、勇者の軍の混乱が広がっていく。
世に7体しか存在しないはずの魔王。それが多数向かってくるという報告。
ざわめきが広がり、船団の動きにも乱れが生じる。
さらに報告は続く。
「わたしの分かる……範囲にも沢山。魔王がいるのですの」
コンサティアの側に、フワリと長い金の髪、白い羽とローブ姿をした風の精霊が現れて訴えた。
「ヌムムさん、沢山って、それが襲って来そうってこと? 数は?」
風の精霊からの報告を聞いて、コンサティアは側に出現した精霊に問いかける。
すると精霊は両手を広げ口を開く。
「私の指よりもはるかに沢山。こちらに向かっているのも、私の指より沢山。それから、もっと強いのが飛び周りながらこっちにきてるの」
「おい。シルフ、分かる範囲ってどのくらいの距離だ」
「呼び捨てにしないで、トルバント。ヌムムさんは、およそ半径4ロックペスソスの存在を感知できる。つまり、その距離だけで10体以上の魔王が向かってきているってこと」
「他は?」
「どう、ヌムムさん?」
「あちこちバラバラな方向に進んでいるの。クイットパースに向かっているのもいるの」
「んんん、このドトーケオ、伝承に同じ魔王が2体出現したなど見たことがないぞ」
混乱は中枢である勇者側近にも及んだ。
「狼狽えるな! まず確認せよ! 幻術の可能性を確認! 続き、先ほどの指示を撤回。迎撃は中止し、防衛に努めろ!」
だが勇者は違った。
彼は、即座に拡声の魔法陣を中空に描き発動させたかと思うと、大声で指示を飛ばした。
そして拡声の魔法を中断しつつも、さらに指示は続く。
「コンサティア、カドゥルカ、大方針は先ほどの通りだ。陣の再構築を頼む。トルバント、前線に行き混乱地域を治めろ! アクアリス、出し惜しみ無しで、嵐を起こし我ら船団を守れ!」
矢継ぎ早の指示をうけ、各人が動き出す。
これでようやく混乱が収まると、勇者の側にいる誰もが思った。
ところが、その時だった。
『ズズズズゥ……ン』
地響きがしたかと思うと、魔神からやや離れた地面が火を噴くように輝いた。
それは火山の噴火にも似ていて、辺りを照らす。
噴火はすぐに止み、輝く煙が収まると、一体の巨大なローブ姿の骸骨が出現した。
勇者の軍旗艦アーマダシスの前方にいる魔神とほぼ同サイズの巨大な骸骨は、地面より湧き出るように出現し、天の蓋を見上げていた。
指には巨大な宝石をあしらった指輪を多数はめて、頭には王冠が乗っていた。目には赤い光が灯り、登場を祝福するかのように空に広がる天の蓋がより一層輝きを増す。
「ス・スー!」
魔神がうなり声をあげる。
声は衝撃波となって、飛空船を揺らした。
「あれは……一体、何だ? リッチ? いや、違う、もっと別の何か……魔神に匹敵する何かだ」
予想外の存在を見たカドゥルカが震える声で言った。
「ちょっと待って、看破で……」
コンサティアが手首に手をやり魔法を唱え、新たに出現した存在を見る。
そして、何かを読み上げるように声をあげる。
「天帝ス・ス? ルシド、あれ……」
「私にもわからない、伝承にも、予言にも、無い……」
困惑した声をあげるコンサティアを見ることなく、勇者エルシドラスは、静かに答える。彼が見ている間も変化は続く、空に見える燃えさかる輪の側に、月が出現していた。一方は大きく、もう一方は小さい、2つの満月。
小さい満月からは光の粉が立ち上り、まるで吸い込まれるように粉は大きな月へと飲み込まれていく。
「どうする? 勇……」
数々の異変にトルバントが声をあげかけたとき、さらに異変が起きる。
『ドドドドドドド』
土砂が崩れる轟音を響かせ、さらにもう一体の巨大な存在が立ち上がった。
一瞬、山が動いたのかと見まごう泥色の巨体。土煙の中からは人型の何かが姿を現した。
「石の巨人……ゴーレム」
その存在に気付いたコンサティアが声をあげる。
彼女は手に持っていた杖をカランと落とした。
ただ呆然として、山を割き、立ち上がる超巨大なゴーレムを見た。
「こ、こいつは……」
ドトーケオが唖然とした様子で声を出しよろめいた。
「なるほど、確かに……終末の時だ」
勇者は表情を変えずグルリと周りを見回す。
空には、燃え盛る輪、輝く天の蓋があった。
加えて、闇夜に輝く月明かりに照らされる多数の存在。空を飛ぶ多数の魔物と、魔王達。
起き上がり魔神に向き直る超巨大ゴーレム。
魔神。
天帝ス・スと表される得体の知れない巨大な骸骨。
それらが勇者の視界にあった。
「皆! やる事は変わらない! 方針は変わらない!」
勇者は再び叫ぶ。
自らを奮い立たせるように、大きく叫ぶ。
「魔王、魔物を足止めせよ! 私が魔神の首を取る! まずはそこからだ! 過去に魔神が屠られた後、魔王は灰となって消えたとある! それを再現するだけだ。まずは魔神と魔王だ!」
言い終わると勇者エルシドラスは聖剣を抜き天に掲げた。
夜がもたらす闇の中、月の光を浴びて輝く聖剣が照らす勇者の姿に、皆が声をあげる。
そこには、空を埋める魔王の群れにも、さらに魔神に続き出現した2体の巨大な存在にも、恐れることのない世界最強の軍の姿があった。
それはリーダ達が魔神復活を予告した日の事だった。
日が高く昇った時、世界の人々が叫び声のような歌声を聞いた。
「アッ、アッ、アァァ」
「ラッ、ララ、ラッラァ」
女性のようでもあり、子供のようでもある高い声。
その声が誰の声なのか、叫び声か歌声か分からない。それでも、人々は知っていた。
世界の各地にある魔神の柱から聞こえてくるものだと。
そして人々は見た。
天の蓋が縮み、黒い円に姿を変えた様子を。
まるで空間を切り取ったような真っ黒い円は、ジワリと動き、太陽へと近づいたかと思うと……飲み込んだ。
黒い円に太陽が隠れる事で、辺りが一気に暗くなる。
リーダ達が見れば日蝕だと言うであろう天体現象を、この世界に住まう多くの人は伝承でしかしらない。
人々は急に夜が訪れたことに驚き、太陽の代わりに現れた燃え盛る輪を見た。
そして、夜となったことを見届けたかのように、黒い円の中央に小さな魔法陣が赤く輝き、弾けるように膨らみ天を覆った。
その正体は、より一層輝く天の蓋だった。
人々は、めまぐるしく変化する空を見上げた。
それは、深い森の上空に、数多くの武装した飛空船団にあっても同じだった。
だが、その船団に乗る者達は、誰も騒がなかった。
特に一際厳重な武装した飛空船にいる者は、逆に微笑む余裕すら見せていた。
微笑む者は、勇者の軍総大将、勇者エルシドラス。
彼は白い聖剣を床に立て、両手で柄を支え、仁王立ちに口を開く。
「予定通り、伝承通りだ。来るぞ! 我らが戦うべき舞台だ!」
彼の視線は、燃え盛る輪を見ていた。静かに変化する輪を。
輪の下弦が一層輝き、滴の形に姿を変える。それは涙が地面に落ちるように、スッと音も無く落下していく。細い糸を残して落下する。
輝く滴は黒く色を変えて膨らみ、巨大な蜘蛛の形へと姿を変えた。
旗艦アダーマシスの軽く十倍は超える巨大な体躯。その体から伸びる蜘蛛の足の一本ですら山を切り裂けるであろう巨体。
「あれが魔神!」
薄青髪の少女……コンサティアが声をあげる。
空から糸を引き降りた蜘蛛は、頭を傾けた。8つある目の内、前方4つの目に、旗艦アダーマシスの姿が映る。まるで勇者を品定めするかのように、見つめた蜘蛛の頭が、勇者の乗る船の方角へ向けて蛇腹になった首を伸ばし近づく。それから、はさみ状の口が左右ガバリと開き、人の舌にそっくりな舌を伸ばす。舌の先にはあぐらをかいた人が座っていた。とても長い袖の紺色をした服を着た人。黒い布で目隠しをした人だった。
「皆、予定通りだ。我らで時間を稼ぎ、エルシドラス様が聖剣を使うタイミングを計るのだ!」
勇者の側に控えていたカドゥルカが魔神に向けて錫杖を指して叫ぶ。
「空と、大地、あらゆる方角から敵が来るぞ! 見ろよ、あの数、楽しくなってきたなぁ、オイ」
同じく勇者の側に控えていたトルバントも、両手に持った短剣をクルリと回し大声をあげる。
彼の言う通り、湧き上がるように地面には黒い魔物が出現し、夜の闇からも数多くの魔物が向かってきていた。
勇者の軍は、備えていた。
ところが、万全かと思われた備えに水を差すような報告がやってくる。
「魔王ピピトロッラ出現、我らより南の方角」
勇者の軍にいる兵士の一人が報告をあげた。
「なんと! 第1魔王が? 左翼は何をしている、取り逃がしたのか」
「問題無い。ドトーケオ。ハティカテラにジムオール、デルケンテーアを率いての迎撃を命じろ」
芝居がかった声をあげたドワーフのドトーケオに、エルシドラスは即座に指令を出す。
ところが、報告はまだまだ続く。
「北より、第3魔王視認」
「第1魔王出現の連絡有り!」
「勇者様! 魔王です。魔王ボショブルショ! 第4魔王です」
矢継ぎ早の報告に、カドゥルカは眉間に皺を寄せる。
「えぇい、右翼も、左翼も、失態続きではないか! それに第1魔王の報告はすでに受けた、情報は精査し、報告せよ。混乱の元だ!」
報告役を怒鳴りつけるようなカドゥルカの言葉。
「いえ、ピピトロッラは……第1魔王は……先ほどの報告とは別、北より襲来する別の……個体です」
しかし、それに答える兵士の言葉は意外なものだった。
「第6魔王視認、北です」
「ちょっと待てよ、倒したばかりだろ、第6は!」
反射的に、トルバントが否定の声をあげる。
しかし、異常な報告は続く。
「地上を進む強力な個体。一軍を……眷属達の様子から魔王……第2魔王と思われます。地上、クイットパースの方角です」
「2、2体同時です。第3魔王……2体が西から」
「魔王です、第1魔王です。ギリアの方角!」
兵士の報告が続くにつれて、勇者の軍の混乱が広がっていく。
世に7体しか存在しないはずの魔王。それが多数向かってくるという報告。
ざわめきが広がり、船団の動きにも乱れが生じる。
さらに報告は続く。
「わたしの分かる……範囲にも沢山。魔王がいるのですの」
コンサティアの側に、フワリと長い金の髪、白い羽とローブ姿をした風の精霊が現れて訴えた。
「ヌムムさん、沢山って、それが襲って来そうってこと? 数は?」
風の精霊からの報告を聞いて、コンサティアは側に出現した精霊に問いかける。
すると精霊は両手を広げ口を開く。
「私の指よりもはるかに沢山。こちらに向かっているのも、私の指より沢山。それから、もっと強いのが飛び周りながらこっちにきてるの」
「おい。シルフ、分かる範囲ってどのくらいの距離だ」
「呼び捨てにしないで、トルバント。ヌムムさんは、およそ半径4ロックペスソスの存在を感知できる。つまり、その距離だけで10体以上の魔王が向かってきているってこと」
「他は?」
「どう、ヌムムさん?」
「あちこちバラバラな方向に進んでいるの。クイットパースに向かっているのもいるの」
「んんん、このドトーケオ、伝承に同じ魔王が2体出現したなど見たことがないぞ」
混乱は中枢である勇者側近にも及んだ。
「狼狽えるな! まず確認せよ! 幻術の可能性を確認! 続き、先ほどの指示を撤回。迎撃は中止し、防衛に努めろ!」
だが勇者は違った。
彼は、即座に拡声の魔法陣を中空に描き発動させたかと思うと、大声で指示を飛ばした。
そして拡声の魔法を中断しつつも、さらに指示は続く。
「コンサティア、カドゥルカ、大方針は先ほどの通りだ。陣の再構築を頼む。トルバント、前線に行き混乱地域を治めろ! アクアリス、出し惜しみ無しで、嵐を起こし我ら船団を守れ!」
矢継ぎ早の指示をうけ、各人が動き出す。
これでようやく混乱が収まると、勇者の側にいる誰もが思った。
ところが、その時だった。
『ズズズズゥ……ン』
地響きがしたかと思うと、魔神からやや離れた地面が火を噴くように輝いた。
それは火山の噴火にも似ていて、辺りを照らす。
噴火はすぐに止み、輝く煙が収まると、一体の巨大なローブ姿の骸骨が出現した。
勇者の軍旗艦アーマダシスの前方にいる魔神とほぼ同サイズの巨大な骸骨は、地面より湧き出るように出現し、天の蓋を見上げていた。
指には巨大な宝石をあしらった指輪を多数はめて、頭には王冠が乗っていた。目には赤い光が灯り、登場を祝福するかのように空に広がる天の蓋がより一層輝きを増す。
「ス・スー!」
魔神がうなり声をあげる。
声は衝撃波となって、飛空船を揺らした。
「あれは……一体、何だ? リッチ? いや、違う、もっと別の何か……魔神に匹敵する何かだ」
予想外の存在を見たカドゥルカが震える声で言った。
「ちょっと待って、看破で……」
コンサティアが手首に手をやり魔法を唱え、新たに出現した存在を見る。
そして、何かを読み上げるように声をあげる。
「天帝ス・ス? ルシド、あれ……」
「私にもわからない、伝承にも、予言にも、無い……」
困惑した声をあげるコンサティアを見ることなく、勇者エルシドラスは、静かに答える。彼が見ている間も変化は続く、空に見える燃えさかる輪の側に、月が出現していた。一方は大きく、もう一方は小さい、2つの満月。
小さい満月からは光の粉が立ち上り、まるで吸い込まれるように粉は大きな月へと飲み込まれていく。
「どうする? 勇……」
数々の異変にトルバントが声をあげかけたとき、さらに異変が起きる。
『ドドドドドドド』
土砂が崩れる轟音を響かせ、さらにもう一体の巨大な存在が立ち上がった。
一瞬、山が動いたのかと見まごう泥色の巨体。土煙の中からは人型の何かが姿を現した。
「石の巨人……ゴーレム」
その存在に気付いたコンサティアが声をあげる。
彼女は手に持っていた杖をカランと落とした。
ただ呆然として、山を割き、立ち上がる超巨大なゴーレムを見た。
「こ、こいつは……」
ドトーケオが唖然とした様子で声を出しよろめいた。
「なるほど、確かに……終末の時だ」
勇者は表情を変えずグルリと周りを見回す。
空には、燃え盛る輪、輝く天の蓋があった。
加えて、闇夜に輝く月明かりに照らされる多数の存在。空を飛ぶ多数の魔物と、魔王達。
起き上がり魔神に向き直る超巨大ゴーレム。
魔神。
天帝ス・スと表される得体の知れない巨大な骸骨。
それらが勇者の視界にあった。
「皆! やる事は変わらない! 方針は変わらない!」
勇者は再び叫ぶ。
自らを奮い立たせるように、大きく叫ぶ。
「魔王、魔物を足止めせよ! 私が魔神の首を取る! まずはそこからだ! 過去に魔神が屠られた後、魔王は灰となって消えたとある! それを再現するだけだ。まずは魔神と魔王だ!」
言い終わると勇者エルシドラスは聖剣を抜き天に掲げた。
夜がもたらす闇の中、月の光を浴びて輝く聖剣が照らす勇者の姿に、皆が声をあげる。
そこには、空を埋める魔王の群れにも、さらに魔神に続き出現した2体の巨大な存在にも、恐れることのない世界最強の軍の姿があった。
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