召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十四章 途方も無い企み

閑話 怪気登るパルテトーラ

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 王の月、3日目。魔神復活を明日に控えた日。
 大国ヨラン、その王都ヨランにある王城パルテトーラに異変が起きた。

「橋が、橋が」

 早朝の事、寝ぼけ眼の門番の一人が大声をあげた。
 彼の目の前で橋が凄い勢いで腐り始めたのだ。それが最初の異変だった。

『ドボォ……ン』

 そして王都から王城へと続く跳ね橋が朽ちて掘りに落ちた。
 残骸は、堀に落ち、大きな音と水柱をあげた。

「なっ」

 いきなりの事で、すっかり目を覚ました門番は、振り向き王城を見た。
「パルテトーラが燃えている」
 
 彼は呆然と呟き、息をのんだ。
 しかし、彼は誤解していた。王城パルテトーラは燃えているのでは無く、禍々しさを伴った煙に包まれていたのだ。
 彼には何が起きているのか分からなかった。
 煙は勢いを増していた。
 その頃、王城の中では、あらゆる魔導具が禍々しい煙を放っていた。謁見の間に続く大扉、部屋を照らすシャンデリア……王城パルテトーラには数多くの魔導具がある。古い歴史を持つ王城。巨大な王城は、多くの仕掛けが魔導具により動かされている。それらが一様に、煙を放っていた。

『ガシャン』

 窓ガラスの割れる音がした。
 王城の窓が1つ割れたのだ。側には廊下を飾る盾を持った役人が立っていた。
 彼女は必死だった。必死になって、側にあった盾を窓に叩きつけて割った。そして、外の空気を思い切り吸い込んだ。

「ハァ、ハァ」

 とっさに思い切った判断のできた彼女は、外の息を吸い安堵した。
 彼女の近くには、苦しみ横たわる同僚の姿があった。

「もう少しだけ頑張って……」

 横たわる同僚に微笑みかけると彼女は、窓から身を乗り出し外をみた。
 だが、彼女の安堵は続かない。彼女は見てしまった。王城の外に広がる庭の異変を。庭に次々と亀裂の入る様子を。
 王城には数多くの庭がある。
 その全てに、亀裂が入り、庭は切り裂かれるように割れた。そして割れ目から、禍々しい煙が溢れていた。庭を飾る調度品や、石像も、煙を放っていた。
 煙の勢いは増し、巨大な王城を飲み込むまでの規模になった。
 その様子は、王都に居る誰もがすぐに気付く事になった。
 王都の人々は、自慢すべき王城の異変に、恐れおののいた。
 恐怖し、戦慄した。
 煙はやがて王都の外からでも分かるほどになった。その煙は、高く高く立ち上り、空を深い紫に染める。
 空を染める禍々しい煙は、王都に住まう人々を恐怖させたが、逆に喜ぶ一団があった。

「ついに、ついに、やってくるのだ!」
「おぉ」
「我らの願いが!」

 喝采をあげる集団。
 それは、王都から離れるように進むみすぼらしい姿をした一団。魔神を崇拝し、祝詞を口ずさむ者達……魔神教徒だった。

「空が美しく染まっていく」
「牢から出て、いきなり、最高の、気分だ」

 一団は、空を見上げ高笑いする。

「これで、これで、世の中はひっくり返る」
「魔神様が、世界をめちゃくちゃにしてくれる」
「富む者は貧しく、持つ者は失い、希望は歪む」
「ハハッハハハッ、いい気味だ。皆、皆、滅茶苦茶になっちまえ」

 彼らは皆が一様に歪んだ愉悦に浸っていた。
 世の破滅を、混乱を喜んでいた。

「牢獄での我らの祈りは無駄にならなかった。祈りを、王城が飲み込んでいたってのは本当だったんだな。いや、これは最高の出来事だ。なぁ、バビント……バビント?」

 魔神教徒の一人が、そう言ってキョロキョロと辺りを見回す。
 彼が探す人はいなかった。

「まぁ、いいか。アイツが居ようが、居まいが、全ては上手くいった。我らの祈りを、天の蓋は飲み込み糧とした。間も無くだ、間も無く、魔神様が、降臨される」

 しばらく知人を探していた男は、やがて、探す事をあきらめた。
 一団は、日が暮れるまで、何もせず、ずっと空を見上げていた。
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