召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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終章 最強のお願い(ノア視点)

ハロルドとサムソンおにいちゃん

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「ううぅ」

 クローヴィスは叫んだあと呻いた。
 魔王と出会うなんて大変だ。
 でも、逃げるわけにはいかない。あいつを倒さないと、進めない。

「クローヴィス! あいつの弱点ってわかる?」
「わからないよ。魔王は強いってことだけ」

 私がいくら睨んでも、魔王はニヤニヤと笑って私達を見ていた。
 クローヴィスも私も、あいつの事は知らない。

「まって! 魔王だ!」
「うん。だから、どうしようって……」
「違うよ。デュデュディアだ! 第6魔王だよ! なんで? 勇者が倒したって聞いたのに」

 クローヴィスが遠くにいる魔物を見た。
 巨大なムカデ……あれも魔王なのか。こんな時に限って、困った事が増えていく。

「キョヒヒヒヒヒ」

 下に居る第1魔王ピピトロッラが喚いた。その声を聞いたからなのか、遠くにいる第6魔王デュデュディアもこちらを見る。
 そして、ピピトロッラが両腕の翼をバサリと動かして、消えた。
 直後、真っ暗になった。

「ノア、掴まってて!」

 クローヴィスが叫び、グルリと体をひねった。上からピピトロッラが両足の爪で襲いかかってきた。
 転移魔法だ!
 一瞬で、私達の上に移動したんだ。

「キョ、キョヒヒ! 次で仕留めてミセル」

 そして甲高い声いキィキィ声でピピトロッラが語りかけてきた。

「ノア」

 右手に槍を、左手に小さな杖をグッと握りしめた時、クローヴィスが小声で私を呼んだ。

「どうしたの? クローヴィス」
「星……落としだ」

 星落とし? 確かにあの魔法だったら、魔王でさえ倒せそうだ。
 でも、あの魔法は……。

「ダメなの。時間をかけて集中しないと。戦いながらだと唱えられない」
「ボクがあいつと戦うから、その間に、唱えて。絶対、絶対の絶対、ノアに、怪我させないから!」

 クローヴィスがとっても一生懸命になって言った。
 ジワジワと近寄ってくるデュデュディアの事を考えると他にないと思った。

「わかった!」

 だから私は大きな声で答えて、すぐに魔法を詠唱する。
 皆が作ってくれた魔法の服は、いつだって星降りが使えるようにできているのだ。
 目をつぶって集中して詠唱する。
 ビュオンと風の音がする。ガシャンガシャンと、カーバンクルの結界が壊れる音がした。
 クローヴィスの背中は、グラグラと揺れるけれど、落ちないように両足に力を入れて、詠唱を続ける。

『バッキィィィィン!』

 すぐ近くで大きな音がた。
 剣が折れるような音。ビックリして目を開いた。
 クローヴィス!
 魔王がすぐ側にいた。魔王ピピトロッラの不気味で鮮やかな翼をクローヴィスが思いっきり噛んでいた。
 クローヴィスの牙が折れて、口から血を流していた。
 グングンと首を揺らし、それからパッと口を開くとクローヴィスは電撃を放った。

「ボクは平気だから! 星落としを!」

 大きく羽ばたいて魔王ピピトロッラから離れた後、クローヴィスが口から血を飛ばしつつ叫んだ。
 私は詠唱しながらコクコクと何度も頷いた。
 ここまでクローヴィスが頑張ったんだ。全力で、思いっきり!

「魔王なんて! 全部! 全部! いなくなっちゃえ!」

 魔法を完成させて、私はゲオおじちゃんから貰ったとっても小さな杖を何度も何度も振り回す。
 そうしたら、いつもと違う事が起きた。
 暴れ回るように私の体から魔力が噴き出した。ブワッと広がった薄紫色をした私の魔力。
 周囲の景色が薄紫色に染まった。
 それは静かに青く色を変えて、グッと集まると上下に広がった。そして空高く飛んでいく。
 青い光は途中で弾けて、あちこちに飛んでいった。
 光は色んな所に飛び跳ねていった。ピョンピョンと跳びはねて、あちこちに青い柱を立ち上らせた。
 いつもと違うから不安だったけれど、星降りは完成していた。

「ギョ……ヒッ」

 光が飛んだ直後、魔王ピピトロッラが小さな叫び声を上げた。落ちてきた星が、巨大な魔王を打ち落としたのだ。遠くに居た第6魔王も降り注ぐ星降りが叩き潰した。

「やった! ボク達、魔王を倒したんだ!」
「うん! 急ごう!」

 弾んだ声をしたクローヴィスに、私も嬉しくなって答えた。
 それから、再びギリアへと向かう。
 魔力を沢山使ったせいか、スピードが落ちてしまった。
 ユラユラと私達は進んだ。襲いかかる魔物は相変わらず一杯いるけれど、魔王じゃないからへっちゃらだ。

「待って! お母さん! ボクは大丈夫だよ!」

 突然、クローヴィスが叫んだ。

「ノアサリーナ……」

 頭の中に声が響いた。テストゥネル様だ。

「違うよ。ボクは大丈夫なんだ!」
「ノアサリーナ。クローヴィスは怪我をしておる」
「怪我?」
「大した事ないんだ。ボクはノアをギリアまで連れていくんだ!」

 クローヴィスは必死に違うというけれど、私は気がついた。クローヴィスが怪我をしているから、うまく飛べていないのだと。気がついた。

「クローヴィスや。其方は良くやった。魔王にすら立ち向かい、打ち倒した。母の誇りよ。だけど、これ以上は無理であろ」

 テストゥネル様はとっても優しくクローヴィスに語りかけていた。

「ノアサリーナ。だから、クローヴィスは一旦連れ帰る。これはクローヴィスではなく、妾が決めた。だから怒るなら、妾を怒っておくれ。怪我を手当する時間をおくれ」
「はい……」
「でも、お母さん。ノアは急いで戻らないといけないんだ!」
「大丈夫じゃよ」

 それでも追いすがろうとしたクローヴィスに、テストゥネル様が優しく答え、言葉を続ける。

「ほれ、よく見てごらん。迎えがきておる。クローヴィス、其方は役目を果たしたのじゃ」

 私とクローヴィスが揃って「えっ」と声をあげて辺りをキョロキョロ見渡す。

「ノアァ!」

 サムソンお兄ちゃんの声が聞こえた。
 声がする方向を見ると、何かが飛んできて、それは弾けて巨大な狼になった。

「ハロルド!」

 それはハロルドだった。狼になったハロルドが、私達のすぐしたに来ていた。

「本当だ。良かった。ノア……ボク、ちょっとだけ戻るよ」

 ハロルドを見たクローヴィスが小さな声をあげた。
 私は頷いて、ハロルドの背中に飛び降りた。
 そして、クローヴィスを見上げて、テストゥネル様の言葉の意味が分かった。
 クローヴィスの怪我は歯が折れただけで無かった。
 お腹に3本の切り裂かれたような傷を負っていた。こんなに大怪我だなんて思わなかった。
 だって、いつだってクローヴィスは泣き虫だったのに。

「傷を治したら、合図するからまた呼んでね」

 なんて言って良いか分からなくなった私に、クローヴィスがそう言って、スッと消えた。
 そしてハロルドが走り出す。
 あれ? サムソンお兄ちゃんは?
 私は、ハロルドが飛んできた方を見る。サムソンお兄ちゃんは魔物をはじき飛ばして、腕を大きく振り回した。狼になったハロルドはサムソンお兄ちゃんをチラリと見て、ワンと吠えた。
 そしてドンドンとスピードをあげた。
 あっという間に、サムソンお兄ちゃんは見えなくなった。
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