召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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最終章 リーダと偽りの神

閑話 勇者の勇者(治癒術士カドゥルカ視点)その3

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 船団を立て直し、天帝ス・スとリーダを追う。
 その間に、エルシドラス様の治療も終えることができた。万全とはいかないまでも、軍の指揮に支障は無い。

「天帝ス・スを追う」

 エルシドラス様の端的な指示で皆が動く。

『パァン』

 大きな音を立て帆が膨らみ船の速度が増していく。
 シルフの助力もあって船は空を滑るように進む。

「さっきのリーダが行った攻撃。あれはアーティファクトを暴走させたんだと思う」

 遠くに見える天帝ス・スから目を離さずコンサティアが言った。
 アーティファクトを暴走……確かに魔王を粉砕する方法としては理に適っている。しかし破壊力の面だけだ。高速移動する存在に、国宝級の魔導具を使い捨てにする勇気など普通は持ち合わせようはずはない。

「まぁ、我らとは格が違うのだろう」

 エルシドラス様が微笑み応えた。

「一軍の将とも有ろう方が……」
「そうだな。カドゥルカの言う通りだ。すまない」

 思わず口にした苦言に、エルシドラス様が謝罪を口にする。
 船は静かに進む。魔物の妨害は殆ど無かった。
 弓兵部隊が軽く蹴散らせる程度だ。

「なんだぁ、あれ」
「ん? あれはリーダ様……それに……」
「山、火山……火山島。局地召喚で火山島を喚びおったか!」

 穏やかな中、トルバントが最初に発見した前方の異常。
 空ら赤褐色の岩石をまき散らし回転しながら島が落下していた。
 目標は、巨大な黄昏の者に乗るリーダ。
 天帝ス・スは一人の人間を殺すためだけに島を召喚したらしい。

「あれは……飛翔魔法か?」
「ボクでも、いくらシルフの助力があってもあれほど舞えない」

 トルバントが驚愕し、コンサティアがあっさりと降参の声をあげる。
 リーダは頭上で破裂し雨のように降り注ぐ燃え上がる岩石を縫うように飛んでいた。
 黄昏の者の背から飛び出し、舞うように、戦いながら飛ぶ様子に、皆が息をのんだ。
 もし我らが同じ目にあえば、無事では済みようがない攻撃を軽くしのいでいた。
 しかも、それだけではない。

「ギャウギャウ」

 巨大な燃え盛る体を持った獣が、我らに飛んでくる岩石を飲み込み消えた。

「リーダの足手まといにはなるな……らしいですよ」
「先ほどの?」
「えぇ、サラマンダーが」

 一体誰の魔法かと思ったが、シルフが言うにはリーダの使役するサラマンダーらしい。
 あの状況で我らの安全まで気にするか……エルシドラス様が言った格が違うという言葉を、私も思わず口にしかける。

「足手まといと言われようとも、我らは勇者の軍として追わねばならない。命をかけ、戦いに参加せねばならない。せめて見届けねばならない」

 エルシドラス様は遠くを飛び進む天帝ス・スを見つめ言った。
 天帝ス・スはリーダから逃げるように進む。
 妨害は続き、毒の霧がリーダを襲い、我らを襲う。
 アクアリスが魔力枯渇を起こし痙攣して倒れた。
 コンサティアも立つのがやっと。
 ドトーケオも、息が荒い。毒の霧を吹き飛ばし、聖剣の力により結界を強化し進む中で我らは疲弊していく。

「我らは追いすがることすら出来ないのか」

 エルシドラス様が呟く。
 毒の霧をしのぎ、次なる脅威として立ちはだかる巨人のアンデッドに我らの船は襲われた。
 そんななか、エルシドラス様が忌ま忌ましげに呟く。
 空を飛ぶ飛行船にすら手が届く程の巨体。骨の形がうっすらと見える痩せ細った巨人の指がアーマダシスの船縁に食い込み、船が揺れた。

「コンサティア!」
「トルバント、巨人の指を切り落として。伝令! デルケンテーアを空船にして、巨人にぶつけて引き剥がして! 急いで!」

 エルシドラスに名を呼ばれたコンサティアが即座に指示を飛ばす。巨人のアンデッドを引き剥がして船を上昇させる計画だ。

「巨人のアンデッド……新たに3体出現!」

 ところが敵は1体だけではない。前方に巨人のアンデッドが大量にいた。

「デルケンテーアの体当たり、阻止されました! 失敗!」
「魔砲による砲撃、効きません」

 そしてコンサティアの指示は不発に終わる。彼女の指示に落ち度はない。我らの装備は、決して貧弱ではない。にもかかわらず、対処不能……状況の厳しさに震える。

「トルバント、ドトーケオ、アーマダシスの船体を一部破壊し、引き剥がせ」

 エルシドラス様が怒鳴り声を上げ、咳き込んだ。
 思い切った決断。
 ところが、その必要はなかった。
 突如、巨人のアンデッドが弾けて消えた。次々と。

「消えた? 何事?」

 何が起こったのかわからず私は呆然と呟く。

「リーダ様だ。前方から我らを援護してくれた。何かの魔法を飛ばして、アンデッドを砕かれた。誰よりも、勇敢に戦われる。それが勇気を、私に与える……あれこそ勇者だ」

 エルシドラス様がそう言った。事、ここに至っては認めるしかない。格が違う。
 我らは、手の届かない領域で繰り広げられる戦いを見ているのだと。
 見届けるしかないのだと。
 皆がそう思っているのだと思った。

「アーマダシスだけでいい。全力で天帝ス・スに接近せよ!」

 アンデッドの大軍を抜けた直後、エルシドラス様が叫んだ。

「でも、ルシド」
「勇者として命だ!」

 コンサティアの声に被せるようなエルシドラス様の叫びが響く。
 反射的に船は速度を増した。
 目の前にいるス・スは鎖でがんじがらめになって動いていなかった。
 リーダの姿は見えない。

「ルシド!」

 コンサティアが叫ぶ。
 何をエルシドラス様が見たのかはわからない。
 一足飛びに、エルシドラス様は指令台を飛び出した。
 コンサティアが伸ばした手が空を切る。

「対価は命、代償は理、神斬り」

 そしてエルシドラス様は船首の先に足をつき、叫び、聖剣を振るった。
 躊躇無く。
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