召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 プリンス☆リーダ

宝物

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 オレの振り回したマントが、ゴリラの投げた仮面とぶつかった件。
 防御と見做されるのか、それとも攻撃を受けたと判断されるのか。
 直感的にダメだと思ったが、入り口に転移しない。
 これは、ひょっとして……。どちらにしろ二者択一だとオレは考えていた。
 だけれど、結果は予想外な言葉で返ってくる。

「やったよ! リーダ! 宝物とったよ!」

 ノアの弾んだ声が聞こえた。
 声がした方を見ると、箱の前に立ったノアが大きく白い球を持ち上げて叫んでいた。
 サッカーボールより一回り大きな真っ白い球だ。やや赤みがかった空の光を反射して、キラリと輝く白い球。
 その様子を見たゴリラは、明後日の方向へタタッと走り出すと、ヒョイと生け垣を跳び越え去って行った。

「お見事です」

 そして直後、周囲の風景が変わる。
 辺りを見ると、入り口と小さな葉っぱを手にしたエティナーレが見えた。

「勝ったんだよね?」
「えぇ、クローヴィス様。皆様の勝ちでございます」

 エティナーレが答えたことで、安心できた。強制帰還では無かったようだ。
 入り口に戻ったので、失敗という言葉が頭に浮かんでいたところだ。ホッとする。
 もうすぐ日が暮れるという状況で、最初からというのはシャレにならない。

「ちなみに、ノアが宝物を取るのが遅れたら……」
「そうでございますね、王子のマントがジルバの投げた仮面にぶつかりましたので、入り口に戻っていたかと」

 やっぱりそうか。
 これはゲームだから、あのマントはオレの一部ってことで、攻撃があたればアウトになっていたか。
 本当にギリギリだったな。

「助かった」

 安堵の言葉が思わずでて、ホッとしてへたり込む。

「では、最後の仕上げを致しましょう」

 オレを一瞥し、微笑んだエティナーレはノアへと近づきしゃがみ込んだ。
 何をするのかと思っていると、彼女は胸元から一枚の布を取り出し足元に広げる。
 布には魔法陣が描いてあり、そこへ葉っぱを一枚、乗せた。

「あとは、ノアサリーナ様、その宝物……スノウノを」
「スノウノ?」
「えぇ。グラムバウム魔法王国のさらに東……そこに自生する植物から採れる果物にございます」

 エティナーレはノアから宝物を受け取ると、葉っぱの上に置き、魔法を唱えた。
 あの白い球は果物だったらしい。
 詠唱が終わると、葉っぱが緑の大皿へと姿を変え、その上に乗っかったスノウノも、パカリと三日月状に等分された。スノウノの中は、外と同じく真っ白い。

「難易度の高いゲーム。王子達も喉が渇いたでしょう。お好きにどうぞ」
「どうやって、食べるの?」
「かぶりついて。テストゥネル様からも許可を頂いていますので、乱暴に食べても叱られることはありませんよ」

 クローヴィスの問いに、エティナーレは答えると、スノウノの切れ端を3つだけ残して、残りを宙に浮かせ、それらを伴って高台へと飛んでいった。

「じゃ、せっかくだ食べるか」

 さっそくとばかりに地べたに座り込み、スノウノの切れ端を手に取る。
 そしてスイカを食べる要領でかぶりついてみた。
 食感はよく冷えた……いや、一部凍ってシャーベット状になったスイカ。
 味は練乳をかけたかき氷。

「甘い!」

 オレの真似をしてかぶりついたクローヴィスが嬉しげに笑って言った。
 静かに見えたノアは夢中になってかぶりついている。

「キーンってする」

 そしてノアが頭を押さえて呻いた。

「ど、毒? 大丈夫?」
「冷たいものを一気に食べるとそうなるんだよ」

 焦るクローヴィスに答えると、ノアも頷いた。

「あのね、ミズキお姉ちゃんも前になってた。お姉ちゃんと一緒」

 額に手の平を乗せて、ノアが笑った。
 それからオレ達は無言での食事タイム。

「へぇ。スノウノって氷山に自生する植物なんスね」
「暖かい場所に出すと、ゆっくり凍結を始めるって不思議だと思います。思いません?」
「これは珍しいものを」
「ピッキーが好きそうだぞ。これ」
「あぁ、そうそう、そんな感じ」

 無言のオレ達とは違い、高台にいるギャラリーは騒がしいものだ。
 そんな中、最初に食べ終わったオレは、休憩とばかりにゴロンと横になる。
 空は少しだけ赤みがかっていた。
 なんだかんだと言って、半日以上ぶっ続けでゲームをやっていたわけだ。
 最初は無理だと思っていたけれど、なんとかなるものだ。
 思った以上の達成感を抱けたことに笑みがこぼれる。

「私も!」
「ボクも!」

 のんびり空を眺めていると、オレにならってノアとクローヴィスもゴロンと仰向けになった。
 そして、ボーッとする時間がしばらく続いた。仰向けになって眺める空には、大きな鐘を吊り下げた飛行線、魚の聖獣、そして鳥と雲が見えた。

「さて、そろそろ妾達は戻ろうかの」

 そんなのんびりとした時間は、夕暮れからいよいよ夜の闇が訪れようという頃に、テストゥネル様の声で終わる。

「確かに、そろそろ起きるか」

 グッと起き上がるオレにならい、ノアとクローヴィスも起き上がる。

「では、ノアサリーナ様、クローヴィス様、盾と剣を」

 そして、それはエティナーレが、遊びに使った盾と剣を回収しようと声をかけたときだった。
 ちょっとだけ躊躇したノアが剣と盾を差し出した時、クローヴィスが困ったような顔をした。
 一瞬だけだったが、それが気になった。
 どうしたのかと思ってクローヴィスを見て、すぐに理由に気がついた。
 彼の持つ盾、その裏側に文字が見えた。
 そこでふと気がつく。クローヴィスはあの迷路で沢山の判断を的確に下していた。
 多分、攻略情報を盾の裏にメモしていたのだろう。
 そして、使った盾に思い入れが出たのだろう。
 子供の頃、シールを沢山貼った超合金ロボが大好きで、いつも部屋の片隅に置いていた事を思い出す。

「エティナーレ様、ゲームで使った錫杖……頂くことはできませんか? それとも貴重品?」

 そこでオレから声をあげることにした。

「敬称は……まぁ、そうでございますね。錫杖はすぐに作る事はできますが? 何かございましたか?」
「いや、せっかくだから記念品に貰おうかと」
「そういう事ならば、もちろん献上致しますわ。後ほど宝箱から錫杖を回収し、王子の元へお持ち致します」
「私も盾と剣が欲しい!」
「ボ、ボクも! ボクも!」

 オレとエティナーレの問答を聞いて、ノアとクローヴィスが声をあげる。
 特にクローヴィスはギュッと盾を抱きしめて、誰にも渡さないといった調子だ。

「皆様が気に入った事を知れば、職人も喜ぶでしょう」
「うん。ボクは宝物にするよ!」

 そうして王様と小さな騎士達というゲームは終わりを告げる。
 これで、めでたしめでたし……のはずだった。
 ところが。

「ふむ、クローヴィスが楽しそうで何よりじゃ。して、明日のリーダ……どうしようかの」

 ほんわかムードは空気を読まないモンペのせいで振り出しに戻る。

「明日?」
「そうじゃ。もう少し罰を増やそうと思うての」

 わけのわからないテストゥネル様からの一言。
 マジで何言ってるんだ、このおばちゃん。

「いや、私は忙しいのです」

 付き合ってられるか。

「はて……忙しい?」
「そうです。テストゥネル様、リーダは……リーダは王子様の仕事で忙しいのです」

 オレの抵抗を皆が興味深そうに眺めるなか、ノアが援護をしてくれる。
 薄情な同僚達とは大違いだ。ありがとう、ノア。

「そうなのです。申し訳ありません、テストゥネル様。誠に残念ながら私には王子としての務めが待っているのです」

 もうノアに乗っかるしか無い。
 オレはことさら真剣な表情でテストゥネル様に答えた。
 だけれど、直後、この回答は失敗だったと思い知る。

「ギャッハッハ。そうか、お前がそこまでやる気に溢れているとは気がつかなかった。許せ」

 さらなる登場人物の一言で。
 声がした方を見るとニコニコ顔のヨラン王が近づいてきていた。
 そして楽しそうに言葉を続ける。

「そうだな。勇者エルシドラスと、吟遊詩人ギルドの長から、謁見の願いがでている。やる気であるならば、すぐに手配をしておこう」
「リーダ。お仕事、頑張って」
「ふむ。クローヴィスの友人が、ヨラン王国の王子として活躍するのは悪くない。邪魔をしても悪かろう。活躍を期待しておるぞ」

 流れるような労働への道。
 嵌められた。
 ノアはともかく、ヨラン王とテストゥネル様はグルだ。
 直感した。

「其方が働く事になって、胸がスッとした。皆に良い政を敷くことを願っておるぞ」

 そして、その直感は、テストゥネル様が帰還する直前の言葉で確信に至った。
 なんてことだ……。

「頑張ってね、リーダ!」
「えっと、あぁ……うん」

 これがオレのセカンドキャリア決定の瞬間だった。
 今や聖女の呼び声高いノアに加えて、王様に龍神、世に名を轟かせる3名の後押しを受けて。
 とどのつまり、ゴロゴロできない生活。
 王子様業務に勤しむ人生を送る事となったのだった。
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