召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 その3 終章のあと、ミランダがノアと再開するまでのお話

その10

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「本当だ!」
「うっわぁ。あれだろ、あれ」
「飛空船だろ。プロペラが付いている」
「行ってみよ-」

 皆が地面に落ちた船を認めると、まっさきにサエンティとパエンティが反応した。

「行こー!」

 その勢いにシェラがのっかる。

「大丈夫かよ!」
「平気平気。シショーもいいだろ?」
「まぁ、いいんじゃないかしら。お好きになさい」

 ミランダが苦笑したと同時、エルフ馬は陸に止まった船へと駆けだしていく。
 手のひらほどに見えた船はあっという間に大きくなった。巨大な船体は陽ざしを遮り巨大な影で皆を覆い尽くす。
 間近にきてようやく、それが小型の空飛ぶガレオン船であると、ミランダは気がついた。

「勇者の軍……ねぇ」

 そしてミランダは船縁に打ち付けられた紋章を見て呟いた。
 船は明らかに墜落した様相だった。船首は地面に突き刺さり、つんのめった形で止まっていた。たまに吹く強風で、船はゆらゆらと揺れて、今にも倒れそうだった。

「すっごいね。師匠」
「あたしも、こんな大きなのが地面に落ちてるのは初めてみたよ」
「なんか倒れそうだぞ」

 皆が口々に感想をもらす。

「遊牧民かいの!」

 そんなとき、船から男の声がした。
 声の主は、塔のようにそびえる墜落した船の船尾から、ミランダ達を見下ろしていた。
 それは白い髭をした小男で、ミランダは警戒して彼を見た。
 逆光越しであったが相手はドワーフの老人らしい。
 小柄な身体と同じサイズをしたハンマーは魔法の品。ハンマーの刻印から、ドワーフの王国出身のようね、とミランダは考える。伏兵らしき人はいない。腰に下げた袋から見える品は……武器では無い。大工仕事の途中かしら。
 しばらくして敵では無いと判断した。
 そんな中、ドワーフの老人はそこからピョンと飛び出した。

「あぶない!」

 遙か高い場所から飛び降りるドワーフを見て、ジムニが声をあげた。
 もっとも彼が地面に墜落することは無かった。
 手にしていたハンマーが落下中に傘のように姿を変えて、彼はヒラヒラと静かに落下したのだ。地面につくと、傘からハンマーに再び姿が変わり、彼は肩にズンと構えた。

「いきなりですまんが、木材を持っていたりはせんかの?」

 着地するやいなや、彼はスキップしつつ言って、馬車へと近づいた。
 それから馬車をのぞき込んだ彼は、立ち上がり威嚇するエルフ馬に臆することなく「なんもないの」と言った。

「ねぇよ。あたしたちは買い出しに行く途中だし」
「そうそう。それに、あたしたちはさぁ、あんまり木を使わないのさ」

 サエンティとパエンティが、ドワーフに向かってよく通る声で応える。
 それをみて、南方の人は自由よねぇ……と、ミランダは思った。

「ほいや、その服は遊牧民か……ううむ残念」
「どうして木がいるの?」

 あごひげを指でいじりつつ残念がるドワーフへ、シェラが聞いた。
 ドワーフはパッと笑顔になった。
 そしてシェラの側までいくと、手に持ったハンマーを地面に置いて、その上に腰掛けて語り出す。

「見ての通り、飛行船を直さにゃいかん。とはいえ、材料がなくての。応急処置くらいはできるだろうと思うたんじゃけど、わずかばかり足りん。つうわけで、他の奴らは材料を買い出しに。ほいでワシはお留守番。とはいえ暇での。暇で暇での。とはいえ仕事もできん。材料がなくてな。でも、急いで直したい。ともかく船はボロッボロッで飛ぶことができん」
「飛ぶことができないの?」
「こっから見えんがでっかい穴が開いとる」
「どうして穴が開いたの?」
「そりゃ魔王と戦ったからじゃ!」
「魔王!」

 シェラの大きな反応に、ドワーフはそれ以上のリアクションで応えた。
 勇者の軍として第1魔王と第3魔王と戦ったこと。二体の魔王を相手に、鳴り響く魔砲、戦士達の声。

「しかして!」

 ドワーフは叫ぶ。
 彼の説明は、ちょっとした小話から、身振り手振りを交えた一人芝居になった。
 そして話は彼が体験した事へと移っていく。
 大混乱の中、船内をゴロゴロと転がる土台から外れた魔砲を担ぎ上げ、肩に背負ったまま弾を発射したこと。
 そのときの衝撃のすごさ、強烈な魔砲の一撃!

「煙が船室を満たした! チリチリとした火花の向こうには魔王の影。巨大で異様なハーピーにも似た第一魔王!」

 ドワーフを両手を広げバタバタと腕を動かす。
 シェラも釣られて腕を動かす様子にミランダは思わず笑う。
 そしてドワーフの言葉は続く。

「船は破損し、次々と落ちる! この船も地面に落ちた!」

 ハンマーを振り回し、声を荒らげ説明するドワーフ。
 シェラを始め、皆が聞き入った。

「あら」

 腕を組み、話を聞いていたミランダが小さく声をあげる。船に人影を見つけたのだ。
 どうやら墜落した飛空船に残っていたのは彼だけではなかったらしい。
 数人の船員が、身を乗り出しドワーフの小芝居を眺めていた。

「どうしたんだ?」
「船に人がね」

 トコトコと近づくジムニに応えつつ、ミランダは船に向かって手を振った。
 それから「ジムニは話を聞かないの?」とミランダは言った。

「聞いてる。大変そうだ」
「そうね。でも終わった話よ。きっとこれからクライマックスね」
「師匠も戦ったのか?」
「そうねぇ。少しだけね」
「俺達は穴ぐらにいた。そんな大事件が起きたなんて知らなかった。でも、あいつが失敗したってわめきながら消えた日……それが、その日だったんだと思う」

 ジムニの「あいつ」という言葉を聞いてミランダには小さな閃きがあった。
 忘れないうちに考えをまとめたい。
 反射的に考えたミランダは、船に向かって静かに歩き出す。

「どこにいくんだ?」
「少し船を見て回るだけ。ジムニはあのドワーフの話を聞いておきなさい。しっかり聞いて後で教えてね」

 ジムニにそう言いつけると、ミランダは歩き出した。
 船の周囲をぐるりと回りつつ考える。
 ジムニの言葉にあった「あいつ」というのは、呪い子の侍従に間違い無い。
 そして、侍従の語った内容。失敗の意味……。

「私があの檻に召喚されたとき。ジムニやシェラも召喚される筈だった……」

 だだっ広い草原に向かってミランダは呟く。
 どこまでも続く平原の景色は、集中して考えるのに最適だった。
 サワサワと風にゆられる草木の音が心地よかった。風もそれほど強くない。

「だけれど召喚は失敗した。それは何故か……いえ、考えるまでもない」

 そこまで呟き、ミランダは静かに笑う。
 答えは簡単に出た。
 召喚時の事を思い出せば、すぐに分かった。
 きっと私が見た老婆は幻。ミランダは当時の事を思い出す。
 老婆が何かを言って、檻に呼び出された。そして呪い子同士の殺し合いをした。
 あの時の老婆、そして召喚は、何らかの魔法によるもの。
 魔法の行使には魔力が必要不可欠。
 その魔力は……呪い子自身が支払った。
 二人は幼かった。魔力が満たなかった。侍従はその可能性を考慮し、二人を檻の場所へ近づけようとした。
 それでも召喚に至る魔力を賄えず……失敗した。

「だけど、それは幸運な事で……」

 思わず微笑んだミランダがふと顔を上げ呟いたとき。
 彼女の視界に、ポッカリと穴が空いた飛空船の側面が見えた。

「交渉してみてもいいかしらね」

 少しだけ思案したミランダは、ぽっかり空いた穴を見つめて笑みを深めた。
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