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後日談 その3 終章のあと、ミランダがノアと再開するまでのお話
その20
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「師匠! ドラゴンの目が輝いた!」
「そうね……」
「かっこいいね、お兄ちゃん」
「かっこいい!」
「そうね……」
飛空船の旅はいつものように進む。今日もまたジムニは甲板のうえではしゃいでいた。
だけれど、何事にも終わりがある。ミランダは船の旅が終わる事に気付いた。
ジムニ達がさわぐ船首の先、いままではずっと海原だった景色が変わっていたのだ。
「地面だ!」
ミランダの次に気付いたのはシェラだった。
彼女は海原の先にある黄色の島を指さす。もっとも黄金に見えたのは砂ではあるが。
「シェラ殿は目が良い。確かにあれは島のようで」
はしゃぐシェラに答えたのはモリオンだった。甲板の上で船乗りと話をしていた彼は、軽い足取りで3人に近づきながら言葉を続ける。
「ようやくミングヘット諸島群に入ったということです。ということは……明日にはベアルド王国にたどりつくでしょう」
「ふぅん。ところでこのままベアルド王国に行って大丈夫なのか?」
乱暴な言葉で質問するジムニにミランダは「言葉使い」と窘める。
モリオンは貴族なのだ。ボサボサ頭に、ヨレヨレの服を着ているからといって、乱暴な言葉で会話をすることは良くない。それはモリオンを警戒しての言葉ではなく、師匠としての注意だった。
「ハハハ、かまいません」
「それはどうも。で、ジムニ、お前は一体何が心配なのかしら?」
「あの国には怖い女王様がいるんだ! 許可の無い船は入れない」
「駄目なの? えっ、入っちゃだめなの? お兄ちゃんは行ったことないの?」
「ベアルドに行くのは何年も航海する名うての船乗りか、飛空船だけだから、俺なんかじゃ、とても無理だ」
「どうしよう……」
「海流が激しくて直進できないから、大きく右回り航路で進まなきゃいけない……らしいし」
「そうねぇ。大平原の北西から南進するって航路もあるけれど、サミンホウトからだとジムニのいう通りね」
「それに女王様は気まぐれっていうし……許可はとれてるん……いるのですか? モリオン様?」
ジムニの質問を受けたモリオンは大仰に頷いて「ふむふむ。それは大丈夫でしょう。ね、ヘレンニア様」と言った。
わざとらしい。
あからさまに大げさな態度にミランダは小さく息を吐く。
「あぁ、そうね」
彼女は答えた後、もう一度溜め息を吐いた。
「あっ!」
目をパチクリしたシェラが大声をあげた。そして、皆の注目を受けた彼女が歌いだす。
「大きくまん丸の女王様! ドシンドシンと幸せな音を響かせて、ガーゴガーゴーといびきは雪と雷を振らせます。でも、不思議に思わないでね。思わないでね。笑顔で手をふれば大丈夫。女王様は優しいからわかってくれるよ。隠れなくてもいいよ。女王様は親切だから! 大っきくまんまん丸の女王様!」
「なにそれ?」
歌を聴いたミランダは思わず聞き返した。彼女の声は驚きに満ちていた。
「これはね、師匠、女王様の歌。優しいから大丈夫だよ。女王様」
「優しいね……で、女王様の……歌?」
「えっとね、もう一つあるよ」
「まだあるの?」
シェラは「師匠がビックリしてる!」と笑う。そして、両手を合わせて身体を左右に振りながら歌い出した。
「砂漠の王は女王様。ブルンブルンと立派なお腹を震わせるペスソス2ペス3フペの大人物。笑い声はロックペスソスをこえて、くしゃみで地竜も大慌て。今日も女王様は、皆のためにガハハと笑うよ。ガハハ、ガハハ、ガハハ」
「ベアルド王国の女王ってそんなに大女なのか」
「そうだよ。えっとね、ときたま地面が揺れるの。女王様が癇癪起こしたときに揺れるってお父さんたちが言ってたよ。お城は沢山揺れるんだって」
それはアイスゴーレムが動くからよ。
反射的に言い返しそうになったミランダは、慌ててそっぽを向いた。
ここで下手な事を行って失敗するのは嫌なので。
だから、その日、ベアルド王国の女王の話題は避けることにした。
「おぉ、見えてきそうですよ」
翌日、船員からの報告を聞いたモリオンが言った。
食事中のことだった。まだ食べ終わってもないにもかかわらず「やった」と立ち上がった。
ミランダは何も言わないことにした。
いつもであれば注意しただろうが、ようやく故郷に帰ったのだ。
幼い彼女に我慢しろというのは酷だろう。
「わぁ!」
「すげぇ!」
甲板にあがったシェラとジムニが歓喜する。
二人の視線の先には、黄色い砂の台地に、点在するオアシスがキラキラと光る島があった。
朝日を浴びてキラキラと光る黄色い砂漠は黄金のようで、青いオアシスは宝石のようだった。
甲板から落ちそうなほど二人は身を乗り出して、砂漠を見つめた。
「砂漠の王国……ベアルド王国です。あとわずかで上陸です」
ゆっくりと二人の後を追っていたモリオンが言った。
「そうね……」
「かっこいいね、お兄ちゃん」
「かっこいい!」
「そうね……」
飛空船の旅はいつものように進む。今日もまたジムニは甲板のうえではしゃいでいた。
だけれど、何事にも終わりがある。ミランダは船の旅が終わる事に気付いた。
ジムニ達がさわぐ船首の先、いままではずっと海原だった景色が変わっていたのだ。
「地面だ!」
ミランダの次に気付いたのはシェラだった。
彼女は海原の先にある黄色の島を指さす。もっとも黄金に見えたのは砂ではあるが。
「シェラ殿は目が良い。確かにあれは島のようで」
はしゃぐシェラに答えたのはモリオンだった。甲板の上で船乗りと話をしていた彼は、軽い足取りで3人に近づきながら言葉を続ける。
「ようやくミングヘット諸島群に入ったということです。ということは……明日にはベアルド王国にたどりつくでしょう」
「ふぅん。ところでこのままベアルド王国に行って大丈夫なのか?」
乱暴な言葉で質問するジムニにミランダは「言葉使い」と窘める。
モリオンは貴族なのだ。ボサボサ頭に、ヨレヨレの服を着ているからといって、乱暴な言葉で会話をすることは良くない。それはモリオンを警戒しての言葉ではなく、師匠としての注意だった。
「ハハハ、かまいません」
「それはどうも。で、ジムニ、お前は一体何が心配なのかしら?」
「あの国には怖い女王様がいるんだ! 許可の無い船は入れない」
「駄目なの? えっ、入っちゃだめなの? お兄ちゃんは行ったことないの?」
「ベアルドに行くのは何年も航海する名うての船乗りか、飛空船だけだから、俺なんかじゃ、とても無理だ」
「どうしよう……」
「海流が激しくて直進できないから、大きく右回り航路で進まなきゃいけない……らしいし」
「そうねぇ。大平原の北西から南進するって航路もあるけれど、サミンホウトからだとジムニのいう通りね」
「それに女王様は気まぐれっていうし……許可はとれてるん……いるのですか? モリオン様?」
ジムニの質問を受けたモリオンは大仰に頷いて「ふむふむ。それは大丈夫でしょう。ね、ヘレンニア様」と言った。
わざとらしい。
あからさまに大げさな態度にミランダは小さく息を吐く。
「あぁ、そうね」
彼女は答えた後、もう一度溜め息を吐いた。
「あっ!」
目をパチクリしたシェラが大声をあげた。そして、皆の注目を受けた彼女が歌いだす。
「大きくまん丸の女王様! ドシンドシンと幸せな音を響かせて、ガーゴガーゴーといびきは雪と雷を振らせます。でも、不思議に思わないでね。思わないでね。笑顔で手をふれば大丈夫。女王様は優しいからわかってくれるよ。隠れなくてもいいよ。女王様は親切だから! 大っきくまんまん丸の女王様!」
「なにそれ?」
歌を聴いたミランダは思わず聞き返した。彼女の声は驚きに満ちていた。
「これはね、師匠、女王様の歌。優しいから大丈夫だよ。女王様」
「優しいね……で、女王様の……歌?」
「えっとね、もう一つあるよ」
「まだあるの?」
シェラは「師匠がビックリしてる!」と笑う。そして、両手を合わせて身体を左右に振りながら歌い出した。
「砂漠の王は女王様。ブルンブルンと立派なお腹を震わせるペスソス2ペス3フペの大人物。笑い声はロックペスソスをこえて、くしゃみで地竜も大慌て。今日も女王様は、皆のためにガハハと笑うよ。ガハハ、ガハハ、ガハハ」
「ベアルド王国の女王ってそんなに大女なのか」
「そうだよ。えっとね、ときたま地面が揺れるの。女王様が癇癪起こしたときに揺れるってお父さんたちが言ってたよ。お城は沢山揺れるんだって」
それはアイスゴーレムが動くからよ。
反射的に言い返しそうになったミランダは、慌ててそっぽを向いた。
ここで下手な事を行って失敗するのは嫌なので。
だから、その日、ベアルド王国の女王の話題は避けることにした。
「おぉ、見えてきそうですよ」
翌日、船員からの報告を聞いたモリオンが言った。
食事中のことだった。まだ食べ終わってもないにもかかわらず「やった」と立ち上がった。
ミランダは何も言わないことにした。
いつもであれば注意しただろうが、ようやく故郷に帰ったのだ。
幼い彼女に我慢しろというのは酷だろう。
「わぁ!」
「すげぇ!」
甲板にあがったシェラとジムニが歓喜する。
二人の視線の先には、黄色い砂の台地に、点在するオアシスがキラキラと光る島があった。
朝日を浴びてキラキラと光る黄色い砂漠は黄金のようで、青いオアシスは宝石のようだった。
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「砂漠の王国……ベアルド王国です。あとわずかで上陸です」
ゆっくりと二人の後を追っていたモリオンが言った。
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