召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 その3 終章のあと、ミランダがノアと再開するまでのお話

その19

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「ドラゴンだ! ドラゴンだよ! 師匠!」

 モリオンの手配したベアルド行きの飛空船でジムニがはしゃぐ。
 ミランダは「そう」と遠くをみて答えた。
 彼の言葉は今回が初めてではない。
 3日ほど前に飛空船に乗ってから何度も同じことを言っている。

「何歳になっても男の子はドラゴンが大好きですからな」

 はははと笑いながらモリオンがミランダへと近づく。

「ドラゴンね」

 ミランダは飛空船の船首に目をやりつぶやいた。
 それは凛々しい竜の頭を模したものだった。
 鮮やかな緑に塗られた竜の頭をした彫刻、その両の目には真っ赤な宝石があしらってあった。
 それは飛空船が大きく進路を変える度に、まるで生きているかのように頭を動かす。口をパクパクとさせながら。
 もっとも動作に意味はない。ただの飾りなのだが、それを見るたびにジムニは騒いだ。

「不思議で、手の込んだ造りよねぇ」

 ミランダの興味は船首より、船体にあった。
 シルエットはまるで箱だ。短い2つのマストに、ほとんどしまわれたマスト。そこに見事な作りの船首と竜の尾をモチーフとした飾りがついている。船体は3階立てで、壁には幾何学的な文様が彫り込まれていた。
 驚愕するのはスピード。箱型の外見からは予想ができないスピードでそれは飛ぶ。

「羽があったら良かったのにね」

 息を切らせたシェラがミランダを見上げる。彼女はずっとジムニの後ろをついてちょこまかと走り回っていたが飽きたようだ。
 両手を大きく広げパタパタと上下させているのは、翼のつもりなのだろう。

「確かにそうだよ。なっ、師匠」
「そうね羽がなくてとても残念よね」

 竜の何がそんなに好きなのかしら。興奮気味に戻ってきたジムニを見下ろしミランダは首をかしげる。
 ドラゴンの何がいいのか、ミランダには全くわからない。どちらかといえば彼らは無駄に知能があって、無駄に残忍で、そして彼女に楯突くくらい無駄に愚かだった。

「ですがジムに殿、あなたの師匠であれば氷で羽が作れるのでは?」

 唐突に余計なこと。ミランダがモリオンをちらりと睨む。

「できるのか? 師匠!」
「師匠、すごい!」

 ミランダが反応するより前に、小さな弟子二人が興奮した様子で彼女を見上げた。
 こう視線を送られると、放置ができない。

「ハァ……」

 出来る限り面倒くささをため息に込めたミランダが指を弾く。

『パチン』

 小さいがよく澄んだ音がした。
 それと同時、箱型の飛行船の両サイドに美しい羽の彫刻が出現した。

「おぉぉ!」

 ジムニとシェラを筆頭に、船にいる全員が感嘆する。甲板で働くネズミの獣人達は、まさしくネズミのようにサッと甲板の端に集まり、その羽を凝視した。
 羽は日の光を浴びてキラキラと輝く。
 さらにその羽はバサリバサリと2回ほど大きく羽ばたいた。

「おおおおおお!」

 先ほどよりも大きな歓声が上がった。なにごとかと、サイの獣人が血相を変えて船内からとびだしてくるほど大きな歓声だ。

「さすがは傾国魔法ですな!」

 歓声をあげたのはモリオンも同じだ。
 この男は傾国魔法を見るためにジムニ達をけしかけたのか。
 先ほどとは違い、ミランダは本気の……殺気をこめた視線をモリオンへと向ける。

「何が目的なのかしら?」
「いえいえ。悪気はありません。まあ傾国魔法を見てみたかったというのはありますが、それはあなたを利用しようと思ってのことではありません」
「ではどういうつもり?」
「私はこの通り魔法を得意としております。そして私には好奇心があります」
「好奇心だけが理由なのかしら?」
「半分は。残り半分はかみさんへの土産話です。私と同じようにかみさんもですね、魔法の探求がその人生の意義です。だからこそ今回の仕事の土産話に傾国魔法がふさわしいと思いまして。それでですな、一つ質問があるのですが……」
「どうぞ」

 モリオンの言葉に裏は無いとミランダは判断した。根拠は周囲の状況。彼が話している間に周囲を警戒してみたが、自分の魔法を解析しようという動きはなかった。
 完全に信用したわけではない。
 とぼけた態度だが、彼の実力は知っている。
 だから彼の質問には最低限のことしか答えない。

「質問は、玉座についてです。本来、傾国魔法は25人を25組の数を超える魔法使いたちが、25の夜を三度過ごし、そして25を超える貴重な触媒を持って実現させる魔法です」
「そういう意見もあるわね」

 傾国魔法は集団で行使する。
 呪い子であったミランダは、普通の人間が持ち得ない莫大な魔力を持っている。そして行使することもできる。
 だから一人でも傾国魔法が使える。そうでない限りは、たった一人の人間が傾国魔法を使いこなすことはできない。

「私は文献でしか傾国魔法の事を知りません」

 微笑んだモリオンがいう。彼は指先を動かし四角を描きながら言葉を続ける。

「その中に、傾国魔法は術者の代表が玉座に座ることによって行使に至るとありました。ですが、貴女は玉座に座ってるような様子が無い。それが不思議なのです」

 なるほど。文献によって知識を得たならばそう考えるのも不思議で無い。
 モリオンが言うように、傾国魔法は魔法の完成によって、術者にしか見えない玉座を作成する。
 そこに座ったものが傾国魔法を操るのだ。座らなければ莫大な人数の術者は、誰一人としてその魔法の恩恵に与れない。

「お前の言うように玉座に座らねば傾国魔法は行使できない。私のように、想うだけで氷の彫刻を作り出したり、視界にあるものを氷結できない。だけれど玉座が必ず椅子の形をしている必要はない」
「椅子以外でございますか?」
「ベッドだっていいし、絨毯でもいい。体を預けられるものであれば。大事なのはその身体を預けることができるもの。そう……小さくてもいいの。例えば靴のかかとであっても」
「それは実に興味深い。いやありがとうございます。これでかみさんにいい土産話ができました。いえいえ話だけではないのですよ。これからベアルド王国にも行きますし、それにレオパテラ獣王国にも行きます。そこでは、特産品を買って帰ります」
「仲睦まじいこと」

 妻の話をするモリオンは熱がこもるようで、話が長くなりそうだったので、ミランダは早々に話を終える。
 それから「さて」とつぶやくと、左右の羽をいったりきたりしていたジムニとシエラへ近づいていった。

「全く修行が進まないわ」

 ミランダはぼやく。
 せっかくとても良い船に乗れたのに、良すぎるがゆえに二人の好奇心を何度も刺激する。
 船もそうだし、船内の装備品も。
 食事ですらジムニ達には驚きなのよね。
 ミランダは少しだけ不満だった。乗ってから3日、ジムニとシェラは修行を全くしていない。
 力の限り飛行船を探索し、夜は早々に眠ってしまうのだ。

「辛いより、全然いいか……でも、ベアルドまで残り2日。修行をする暇はあるのかしら」

 ミランダはつぶやく。
 シェラの「師匠! ロープの先っぽが蛇になってる」という報告を聞きながら。
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