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後日談 その3 終章のあと、ミランダがノアと再開するまでのお話
その28
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出発の日。
朝早く家をでる。
「天気が……とてもいいわね」
「そだな」
言葉少なめに、街の外へとミランダは進む。
同行者が多くてシェラを含めて10人。
シェラの家族が総出で見送りしてくれることになったのだ。
ミランダとジムニを先頭に、静かに一行は歩いて進む。
「陽ざしは強いけれど、風は涼しいのよね」
「そうだな」
言葉少なめに歩いて進む。街はひっそりしたものだ。
本格的な街の目覚めは後少し先の事だろう。
街の入り口、巨大な蛇型のアイスゴーレムが形作る氷の門へとたどり着くまでさほど時間はかからなかった。
キラキラと輝く氷が街の入り口を光で照らす。
「ではお気をつけて。シェラの事、ありがとうございました」
「えぇ、貴方たちも見送りありがとう」
眩しいほどの明かりの下へと進むのはジムニとミランダだけ。
「お兄ちゃん!」
シェラが駆け寄ってきたのは、ちょうど氷の門をくぐり抜ける直前だった。
「どうしたんだ、シェラ」
「お兄ちゃんもお留守番しよ!」
「え」
「お父さんも、お爺ちゃんも、お母さんも、おばあちゃんも、皆が良いって言ったんだよ」
まくしたてるようなシェラの語気に、ジムニは俯いた。
ミランダは言葉を待つことにした。彼女は静かに二人を微笑み見下ろして待った。
「あの……」
ずいぶんと時間がすぎてから、ジムニが口を開く。
「師匠。シェラはさみしがり屋で、ほっとけなくて、皆優しくて、ご飯の時も楽しくて、修行もしたくて、師匠みたいな大魔法使いになりたくて、でもシェラをほっとけなくて……」
「そうね」
ミランダはジムニの頭に手を置いて、膝を曲げた。
それからもう一方の手で腰から小さな氷の欠片を取り出し、そばへ投げ落とす。
氷の欠片は、小さな箱になった。
奇しくも、その箱はジムニとシェラに始めて会った時に取り出した箱だった。
今となっては懐かしい、一緒に触媒を並べたときに、触媒を詰め込んでいた箱だった。
シェラとジムニがその箱に視線を送ると、ミランダは箱から一冊の本を取り出した。
それは竜の革で装丁された青黒い表紙をした分厚い本だった。
「シェラの言う通りだわ」
ミランダは本をジッとみつめたまま優しい声で言う。
それからジムニも残るべきだと考えた。
シェラが心配なのは本心だろう。そして彼はこの場で家族の温かみを知ったのだと思った。
子供の1年は、自分の1年よりも遙かに長く貴重なものだとミランダは知っている。
何よりも自分の思い出がそう語っている。
だから、ミランダは本をジムニに差し出し言葉を続ける。
「シェラのお守りは必要よね。それに修行はどこでもできる。お前、いやお前達ならね」
「師匠」
「この本は、私が師匠から貰ったもの」
「師匠の師匠が?」
「えぇ、少しだけ難しいのだけれど、最初のページからゆっくりやっていけば大丈夫。たまに幻の狼や熊、それにドラゴンが出る事もあるけれど、ジムニなら心配はないわ」
「わたしは?」
「シェラも、まぁ、そうよね、ジムニの言うことをちゃんと聞くのよ」
そこまで言ってミランダは立ち上がる。そして「永久の別れじゃないのだし」と言ってすこしだけ歩いてから振り向いた。
「そうそう、ジムニ。もし、どうしても困ったことや、分からない事があったらお城にいきなさい。そしてオロワという者へ、いや他の者でもいいわ。相談しなさい。そうすれば私に言葉は伝わる」
「お城へ? なんでだよ。なんで城の人が?」
「それはね、私がミランダだから」
「師匠はヘレンニアって、あっ、でも最初にミランダって、あっ、そうか!」
「そうなのよね、シェラ」
少しだけ間を置いてジムニも「あっ」と声をあげた。
二人が気付いたことを確認して、ミランダはスッと姿勢を正した。それから厳かに、できる限り威厳がでるように声音をかえていう。
「そう。私の名はミランダ。このベアルド王国の女王であり、かつて世界で最も知られ最強と呼ばれた呪い子。そう、呪い子。お前達と一緒。だから、お前達は、このミランダの弟子であることをほこり、それを胸に秘め進みなさい。魔道の探求の道へ」
このセリフの後半は師匠の受け売り。知識を探求する一族……クロイトス一族はほとんど同じセリフを弟子へと伝えるという。
「はい」
「わかった」
それを受けてジムニとシェラは神妙な顔で頷いた。
「あと、このことは内緒ね。元、呪い子同士の秘密よ」
人差し指を唇に当てて微笑んでから一呼吸。
満足したミランダは街の外へと歩いて進んだ。
肩が外れんばかりにブンブンと腕を振るうシェラと、渡した本をギュッと抱きかかえつつ視線を送るジムニ。
帰るところがあるというのも良いものよね。
最後にもう一度チラリと後ろを見たミランダは、笑顔がこらえきれなかった。
朝早く家をでる。
「天気が……とてもいいわね」
「そだな」
言葉少なめに、街の外へとミランダは進む。
同行者が多くてシェラを含めて10人。
シェラの家族が総出で見送りしてくれることになったのだ。
ミランダとジムニを先頭に、静かに一行は歩いて進む。
「陽ざしは強いけれど、風は涼しいのよね」
「そうだな」
言葉少なめに歩いて進む。街はひっそりしたものだ。
本格的な街の目覚めは後少し先の事だろう。
街の入り口、巨大な蛇型のアイスゴーレムが形作る氷の門へとたどり着くまでさほど時間はかからなかった。
キラキラと輝く氷が街の入り口を光で照らす。
「ではお気をつけて。シェラの事、ありがとうございました」
「えぇ、貴方たちも見送りありがとう」
眩しいほどの明かりの下へと進むのはジムニとミランダだけ。
「お兄ちゃん!」
シェラが駆け寄ってきたのは、ちょうど氷の門をくぐり抜ける直前だった。
「どうしたんだ、シェラ」
「お兄ちゃんもお留守番しよ!」
「え」
「お父さんも、お爺ちゃんも、お母さんも、おばあちゃんも、皆が良いって言ったんだよ」
まくしたてるようなシェラの語気に、ジムニは俯いた。
ミランダは言葉を待つことにした。彼女は静かに二人を微笑み見下ろして待った。
「あの……」
ずいぶんと時間がすぎてから、ジムニが口を開く。
「師匠。シェラはさみしがり屋で、ほっとけなくて、皆優しくて、ご飯の時も楽しくて、修行もしたくて、師匠みたいな大魔法使いになりたくて、でもシェラをほっとけなくて……」
「そうね」
ミランダはジムニの頭に手を置いて、膝を曲げた。
それからもう一方の手で腰から小さな氷の欠片を取り出し、そばへ投げ落とす。
氷の欠片は、小さな箱になった。
奇しくも、その箱はジムニとシェラに始めて会った時に取り出した箱だった。
今となっては懐かしい、一緒に触媒を並べたときに、触媒を詰め込んでいた箱だった。
シェラとジムニがその箱に視線を送ると、ミランダは箱から一冊の本を取り出した。
それは竜の革で装丁された青黒い表紙をした分厚い本だった。
「シェラの言う通りだわ」
ミランダは本をジッとみつめたまま優しい声で言う。
それからジムニも残るべきだと考えた。
シェラが心配なのは本心だろう。そして彼はこの場で家族の温かみを知ったのだと思った。
子供の1年は、自分の1年よりも遙かに長く貴重なものだとミランダは知っている。
何よりも自分の思い出がそう語っている。
だから、ミランダは本をジムニに差し出し言葉を続ける。
「シェラのお守りは必要よね。それに修行はどこでもできる。お前、いやお前達ならね」
「師匠」
「この本は、私が師匠から貰ったもの」
「師匠の師匠が?」
「えぇ、少しだけ難しいのだけれど、最初のページからゆっくりやっていけば大丈夫。たまに幻の狼や熊、それにドラゴンが出る事もあるけれど、ジムニなら心配はないわ」
「わたしは?」
「シェラも、まぁ、そうよね、ジムニの言うことをちゃんと聞くのよ」
そこまで言ってミランダは立ち上がる。そして「永久の別れじゃないのだし」と言ってすこしだけ歩いてから振り向いた。
「そうそう、ジムニ。もし、どうしても困ったことや、分からない事があったらお城にいきなさい。そしてオロワという者へ、いや他の者でもいいわ。相談しなさい。そうすれば私に言葉は伝わる」
「お城へ? なんでだよ。なんで城の人が?」
「それはね、私がミランダだから」
「師匠はヘレンニアって、あっ、でも最初にミランダって、あっ、そうか!」
「そうなのよね、シェラ」
少しだけ間を置いてジムニも「あっ」と声をあげた。
二人が気付いたことを確認して、ミランダはスッと姿勢を正した。それから厳かに、できる限り威厳がでるように声音をかえていう。
「そう。私の名はミランダ。このベアルド王国の女王であり、かつて世界で最も知られ最強と呼ばれた呪い子。そう、呪い子。お前達と一緒。だから、お前達は、このミランダの弟子であることをほこり、それを胸に秘め進みなさい。魔道の探求の道へ」
このセリフの後半は師匠の受け売り。知識を探求する一族……クロイトス一族はほとんど同じセリフを弟子へと伝えるという。
「はい」
「わかった」
それを受けてジムニとシェラは神妙な顔で頷いた。
「あと、このことは内緒ね。元、呪い子同士の秘密よ」
人差し指を唇に当てて微笑んでから一呼吸。
満足したミランダは街の外へと歩いて進んだ。
肩が外れんばかりにブンブンと腕を振るうシェラと、渡した本をギュッと抱きかかえつつ視線を送るジムニ。
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