日常生活の狂気

世界でたった一人のファン

その昔
90年代の
終わり頃に
マーガリンズという
女性ボーカルと
男性ギタリスト
2人組の
ロックユニットがいた

おれはその当時
デビューして
間もない
マーガリンズの
CDを
購入して
聴いたことが
あった

マーガリンズは
当時のメディアからも
若干注目されていて
テレビ番組に
出演したり
音楽雑誌でも
紹介されていた

おれはその2人組の
音楽をCDで聴いて
一発で
夢中になった

女性ボーカルの
透明感のある
歌声に
男性ギタリストが
演奏する
強烈な
ギターサウンドに
女性ボーカルが
作詞した
歌詞の内容といい
その全てが
おれの心に
突き刺さる
素晴らしいモノだった

しかし残念ながら
セールス的に
あまり良い結果が
出せずに
結局シングル数枚と
ミニアルバムと
フルアルバムを
それぞれ一枚ずつ
出しただけで
終わってしまった

同じく90年代に
ヒット曲を
連発していた
安室奈美恵だの
浜崎あゆみだの
倖田來未だのという
ろくでもない
女性ボーカリスト
ばかりが
持て囃されて
同じく女性ボーカリストを
擁する
マーガリンズは
不発に終わって
しまった

おれの知人でもあった
女流作家にしても
そうだが
おれが滅多に
好きにならない
日本人作家や
日本人による
ミュージシャンの中で
珍しく好きになる
作家や
ミュージシャンは
いつもこんな感じだ

その殆どが
長続きしないか
世間からは
見向きもされずに
終わってしまう

今となれば
マーガリンズという
2人組の
ミュージシャンも
おれの知り合いの
女流作家が
いたことも
彼女が書いた
素晴らしい
小説のことも
今では
世間の人たちの
殆どが
そんなミュージシャンや
女流作家が
存在していたことすら
知らないでいる

おれはかつて
彼女が小説の中で
描いた
争い事も
戦争も
存在しない
平和で
情感豊かな
世界観が
好きだった

今となれば
マーガリンズも
その女流作家も
彼女が書いた
小説も
今となれば
世間で知っている
人は
殆どいない

マーガリンズは
今でも
サブスクの
ストリーミングサービスで
検索すれば
当時CDで
発売されていた
アルバムと
シングルが
スマホの
ネットオーディオとして
全て出てくる

おれは今でも
ときたま
マーガリンズの楽曲を
スマホと
ワイヤレスイヤホンで
聴いているが
普段から
滅多に聴かない
日本人の
ミュージシャンの中で
マーガリンズだけは
例外的に
好きだった

マーガリンズも
おれの知り合いだった
女流作家も
今となれば
世間の中では
忘れ去られて
忘却の彼方だが
両方とも
このおれが
この世界で
たった一人の
ファンに
なってやる

それがせめてもの
はなむけだ