【完結】魅了が解けたので貴方に興味はございません。

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一瞬にして嵐が過ぎ去った。


「おいっ!こっちも一応調べてくれ」
「樹木には触るなよ?マリアン=ブルーディアの魔力がまだ残っているかもしれない」
「被害を受けたのは2人だけ?」
「ああ。孫とその恋人……いや、愛人?は別室で待機している解析班に引き渡したわ」

ファリス様に連れられてマリアン様は出ていった。その少し後に、入れ違いで見知らぬ人たちがぞろぞろと温室に入ってくる。黒いローブと顔を下半分隠したマスク……どう見ても怪しい。

「彼らはシャンディラの魔術師たちです」

呆気に取られていた私にクロエ様が声をかける。

「万が一に備えてファリスが国境付近まで待機させていたようです。パーティー直前に入国を許可したばかりなのにこのスピード感、さすがです」

クロエ様の横顔はどこか清々しく、でも少し寂しそうにも思えた。

聞きたいことが山ほどある。

マリアン様が言っていたことは本当なの?
クロエ様は魅了についてどこまでご存知だった?

(それと、ファリス様とは一体どんな関係なの……?)

悩んでいてもしょうがない。
覚悟を決めて尋ねようとしたか、その前にポンと肩を優しく叩かれてしまった。

「少し話をしましょうか。ここだとシャンディラの方々の邪魔になるので、貴女さえよければ私の部屋で」
「あ……」
「恐らくファリスも今日は戻らないでしょうし」

ひらりとドレスを靡かせ、クロエ様は私の返事を待つことなくその場を離れていった。

(……私は、私の出来ることをやらなきゃ)

ぐっと足に力を入れ直し、先行く背中に向かって一歩踏み出した。





■□■□■□■□■□

「少し待ってて、今お茶を淹れますから」
「は、はい……」

そう言ってクロエ様は侍女を呼ぶことなくカチャカチャと自分でティーセットを用意する。
通された王妃殿下専用のサロンは無駄なものが一つもない殺風景なお部屋、でもふわりとクロエ様がお気に召している香の匂いが漂っていた。

(なんというか、とても心地がいい……)

「……あら?」

正面にある暖炉の上で光る何かを見つけた。
ゆっくりとそれに近付いてみると、それは小さな可愛らしい写真立てだった。

そこにはまだ若かりしクロエ様が優しく微笑んでいる。隣には眩しいくらいの金髪と同じくらい素敵な笑顔の女性。

(この人って……もしかして、)

「彼女がロッティです」
「っ!!!も、申し訳ございません、勝手に!」

すぐに写真立てから離れるが、クロエ様は小さく首を振り微笑んでいた。

「いいんです。彼女の話をするのは何年ぶりかしら……それを持ってこちらにいらして?」

いつもミステリアスでどこか冷たく感じるクロエ様のお声が、今日はどこか優しく聞こえる。表情には出さずに警戒しながら座り、持っていた写真立てをそっとテーブルの上に置いた。

「話の前に、マリアン=ブルーディアについて報告が上がってきました」
「!!!」
「シャンディラの調査結果により、マリアン=ブルーディアは過去を含めて3回禁忌である魅了魔法をかけたと認定されました。今回ルシアンにかけられたのが3回目、5年前サラがかけられたのが2回目というわけです」
「……そう、ですか」
「我が国は魔術についての法例がちゃんと定まっていない、なので処遇は専門家であるシャンディラの魔術師たちに委ねることを決めました」

ティーポットから香りのいい紅茶が注がれ、それを目の前に差し出された。

クロエ様の決断は間違ってない、と思う。

たった一度の魅了に終身刑と言い渡したこの国じゃ、三度も禁忌を犯したマリアン様を正当に裁くことは難しい。

(でも、シャンディラという国に連れていかれたらマリアン様はどうなるんだろう……)

死刑よりも恐ろしい罰なんて、存在するのだろうか。

「……サラ、貴女は本当に運が良かったです」
「え、」
「ファリスに出会っていなければ、貴女は心を壊され間違いなく命を投げ出していたでしょう。あの子のように」
「っ!!あの子とは、もしかして……」
「魅了魔法の1番目の被害者でありルシアンの産みの親……そして、私の親友です」

思わず目を見開いてしまう。
「親友」という聞きなれない言葉に戸惑い、思わず視線をそっと外した。

「ふふっ、意外でしょう?まさか私に友がいるなんて」
「いやっ!そういうわけでは……ただその、クロエ様はブルーディア王国に来る前は王女だったと聞いておりましたので、てっきり……」
「まぁ正確には私が自国より連れてきた専属侍女です。物心つく頃にはいつもあの子が傍にいて、ブルーディアに嫁ぐときも一緒に連れていけとうるさかったんですよ」

ロッティという女性はクロエ様の親友で、ルシアン様の産みの母親。そしてそこに魅了魔法が絡んでいる。
この予想がもし当たっているならば、クロエ様にとって……これほどお辛い過去はないわ。

膝の上に置いた手にぎゅっと力を込め、コクッと生唾を飲み込む。
聞きたくない、でももしそれが真実ならば……

「これはあくまで私の想像です。その、ロッティさんは……魅了で陛下に好意を持たされたのですか?」


クロエ様は何も言わず、ただ悲しそうに微笑みながら小さく一度だけ頷いてみせた。

(あぁ……最悪だ)


    
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