【完結】魅了が解けたので貴方に興味はございません。

文字の大きさ
31 / 34

31 マリアン視点




目を開くと、そこは私の大切な大温室の中だった。

私は拘束具もされずにベンチに腰かけている。いつも通りの感覚に、数分前までの記憶が全て夢だったんじゃないかと思ってしまうほどだ。

(さてさて、これは何の術かしらねぇ)

足元に咲いている花をブチッとちぎり鼻の近くまで持ってくると、花に触れている感触も匂いも感じ取れた。催眠系の術にしては精巧で完成度が高い、並みの魔術師であれば現実と夢の判別が出来ずに精神を壊すことになりそうだわ。

でも残念、幻覚だと分かってしまえばそう簡単に惑わされることもない。あんな若造2人が必死になったって私には敵わないんだから、先手を打つのも………


『あっ!!ここにいらっしゃったんですね!』


聞き覚えのある高い声に、ピタッと足が止まった。
振り返った先には忘れもしない輝く金髪、透き通るような碧眼を持った少女。

「ロッティっ!!!」

死んだはずのあの子が、私に向かって手を振っていた。

……ダメよ乱されちゃ。これは夢、あの憎たらしい小僧たちがかけた魔術。
でも、会えないと思っていたあの子が昔と同じように笑っている。頭の中の私が警告を出しているにも関わらず体が勝手に動き出した。

「ロッ」
『もう!探しましたよクロエ様っ!!』

ロッティを抱き締めようとすると、見事に私の体をすり抜け走っていく。

(……そうよ、夢なんだからそうなるわ)

ロッティはもういない、私の記憶の中で生き続けているのだから。今さらこんな馬鹿みたいな術に惑わされちゃダメよ!
名残惜しいけど深く関わるのは危険だ。背を向けてその場を離れようとしたとき、

『でもここはいつ来ても素敵ですよねぇ。さすがご自慢の温室です!』

………………え、?今、何て言ったの?

『この大樹もすごいです。少し触れてみても宜しいですか?国王陛下』
『あぁ』

ロッティよりも低い男の声に堪らず振り返る。
そこには息子アーサーがいて久しく見ていない穏やかな表情を返していた。傍らにいるクロエも寄り添い、少し膨らんだ腹を愛おしげに撫でている。

アーサーがロッティに優しくするわけがない。だって身動きの取れない自分を犯した女よ?それにあの様子……クロエが妊娠?ふざけんじゃないわよっ!あの石女がロッティを差し置いて私の孫を産むというの?!

「っ?!?!」


すると突然ぐにゃりと時空が歪んだ。

さっきまで温室にいたはずなのに一瞬で背景は私の離宮に。

(何なのよ、この術は……)

新たな幻覚魔法?どれだけ複雑な術式を構築してあるの?!

『母上っ!』
『あらルシアン、また会いに来てくれたのね?』

後ろから現れた金髪の青年、ルシアンはいつものように弛んだ笑顔ではなく爽やかな笑みのままクロエに駆け寄った。

『そりゃそうですっ!お腹の中にいる弟に、お兄ちゃんが来たと毎日知らせないと』
『ふふ、可愛い子ね。貴方もいらっしゃい』

抱き寄せるクロエと甘えるルシアン。そんな2人を微笑ましく見つめるのは……まさかのロッティだった。

(は?何故ロッティがここに?だってルシアンを産んですぐに……る、ルシアンの母親はロッティのはずでしょ?どうして全員幸せそうにしてるのよっ?!)


そしてまた、ぐにゃりと時空が歪む。

『ミュア!今日はいいお天気だからよく乾くわね!』
『そうねロッティさん!ねぇねぇ、洗濯物干すの終わったらクロエ様をお誘いしてお茶にしましょ?』

楽しそうにお喋りするロッティと小娘。


またぐにゃり。

『ロッティ!最近は彼と上手くいってるの?』
『ちょっ!内緒にしてるんだから言わないでよぉ』


またぐにゃり。

『あーあ。今日は仕事サボって遊びに行こうかな』
『もう!ロッティってばホント仕事嫌いねぇ』


またぐにゃり。

『1個くらい盗んでも……バレないよね?』


ぐにゃり。

『あいつホント鬱陶しい!気持ち悪すぎっ』


ぐにゃり。

『ふふ、アタシ、殿方と過ごす夜が一番好きなのぉ』


ぐにゃり。
ぐにゃり。ぐにゃり。
ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。
ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。
ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。────……






「も……、や、めて」

何十、何百の幻覚を見させられる。その全てに登場するロッティは、もはや私の知っているロッティではなくなった。
見たくないと目を瞑ってもその情景が鮮明に頭の中に映し出される。聞きたくないと耳を塞いでも勝手に音が聞こえてくる。

強制的に私のキラキラした大切な思い出が汚される。

(あんなのはロッティじゃない。ロッティじゃない!)

私の知っているロッティは……ロッティは違うっ!
あの子は………あの子は……!!




「あれ……あの子は、どんな顔で……笑っていたかしら」

忘れたくない。失いたくない。
大事な大事なあの子が消えていく。消されていく。

ダメよ、だってもうロッティはいないのよ?!私が忘れてしまったらもうあの子はいなくなっちゃうの!

「ロッティ……いやだ、いやだいやだ嫌だ嫌よダメよだめだめだめ、お願いだから消えないでぇぇえええええええ!」

そしてまた、



『ふふっ!一生苦しんでろよクソババア!』


天使は悪魔のような台詞を吐き捨てた。

感想 144

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい

マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。 理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。 エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。 フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。 一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始