【完結】魅了が解けたので貴方に興味はございません。

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32 ファリス視点




「あぁああ……ぅっ、あぁ……」

低く不気味な唸り声がその棺から聞こえてくる。
魔力を吸い取り続けるその棺は、中からも外からも開かない術がかけられていた。

「お師匠さまぁ!おばあちゃん、あと10分くらいで回収に来るそうですぅ」
「了解」
「わぁ!いい感じにうなされてますねぇ!」

ランドールはコンコンと棺を叩きながら笑う。

マリアンが入ったこの棺はシャンディラ最深部の監獄に収容される。光、音、臭いを全てシャットアウトさせた大罪人専用の収容所は、皮肉にも彼女がまだシャンディラの研究者だった時に設立されたものだった。
彼女はその身が朽ち果てるまで、あの狭い棺の中で悪夢を見続けるのだろう。ゆっくりと、時間をかけて───

「せっかくだし何か腕とか落としときますぅ?腐食して処分も早まるし、恨みも晴らせて一石二鳥!」
「やめとけ。少なくともあと10年は苦しんでてもらわなきゃならないんだから」

息の根を止めることなんかいつだって出来る。でもそれじゃクロエやサラが味わった地獄には到底及ばない。この年齢になってよ魅了魔法を構築できた女だ、中途半端な外傷など屁でもないだろう。
つまり弱点であるロッティという少女の記憶、それをいかに上手く扱うかがポイントだった。

『きっとマリアンって人にとって、ロッティとの記憶はキラキラ光る宝石なんですよぉ。もう手に入らないからこそ大切に大切に宝石箱の中にしまってある。でもそれがある日突然、ただの汚い石だと気付いたら……どんな反応するんでしょうねぇ?』

ランドールの不気味な笑いに恐ろしさを感じながら名案だと思った自分もいた。

ロッティに関する記憶を消すのではなく、上書きする。
偽りの情報が何度も何度も流されていく内に本当のロッティを失うだろう。そして全てを捨てて守りたかった彼女がいずれゴミのように思えてしまう。
それこそが俺たちが与えられる最大の罰だ。





■□■□■□■□■□

「そんなことよりお師匠さまぁ。そろそろ僕にも“シャンディラ”の名を与えて下さいよぉ」

マリアンを収容した後、久しぶりの陽の光を浴びながらランドールは言う。

「まだそんな事言ってたのか。……お前には無理」
「えぇーー!何でですかぁ?」
「何でって……“ブルーディア”って立派な名前があるだろう」

ため息混じりに伝えると、ランドールはいつも通りへらへら笑ってみせる。

ランドールは正真正銘アーサー=ブルーディアとクロエ=ブルーディアの間に生まれた子供だ。当時まだ5才の俺に、身籠ったクロエは産まれてくる子供だけを安全に保護して欲しいと訴えた。
生まれてくる子に罪はない、こんな悲しい復讐にあの子を関わらせたくないと……。だが、

(まさかこんな最前線に関わらせたと知れたら、きっとぶん殴られるだろうな)

「でも正直興味ないんですよねぇ。今さらお前は王子ですよって言われても……親の敵を取れたってだけで充分ですし!」
「……魔術師のお前が帰ってやれば国の安全はより強固になるだろ。どうせしばらく魔術師が常駐しなきゃないんだ、俺が推薦状を出してやる」

ランドールを産んでからクロエは一度もシャンディラを訪れていない。我が子を見て決心が鈍るのを恐れたのだろう……完璧主義というか、生きづらい性格だ相変わらず。

「んーでもぉ!それなら尚更お師匠さまが行かなきゃ」
「俺?」
「待たせてるんでしょ?」

誰を、とは聞かなくても分かる。

「……知ってたのか」
「バレバレですよぉ~。いつも切なそうな顔で見つめてるじゃないですか、それ」

そう言ってランドールは指差す。それは右手薬指にはめられたシルバーリングだった。

「転移魔法が切れてる指輪を大切にしちゃって……向こうに素敵な人、残してきたんですよねぇ」
「……いや、俺はもう」
「待ってると思いますよぉ、きっと同じ顔してぇ」

うふふふっと楽しそうに笑うランドールは、そのまま俺を置いて先に行ってしまった。


(待っていて、くれてるだろうか)

情けなくも初めて出会ったあのベンチにメモを置いてきた。もちろんそれをサラが見つける確証なんてどこにもない。だからある種の賭けでもあった。

きっと婚約破棄になっても相手に困らないはずだ。
誰よりも美しく気高いサラならば、よりいい男が集まってくる。
苦しい思いをしてきた彼女を、きっと幸せに………


「………ダメだ」


他の男と仲睦まじいサラを想像しただけで怒りをコントロール出来そうにない。そのくらい俺は彼女に惚れていた。

(サラは……覚えているだろうか)

一緒にフルーツを食べようという下心丸出しの約束を。
もしまだ覚えてくれているなら、その時は……

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