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「お嬢さま?カトレアお嬢さまっ?」
あぁ……懐かしい声がする。
これは侍女のターニャの声だ。年上の彼女は少し過保護なお姉さんみたいでよく世話を焼いてくれたっけ。
私が結婚した後、突然侍女を辞めて田舎に戻ってしまった彼女の声が聞こえるなんて……やっぱり過去に未練が……
「お嬢さまっ!そろそろお目覚めになって下さいな」
「っ……ぇえっ?!」
パチッと目を開けると視界に飛び込んできたのは、若い頃の自分の姿。そしていつも使っているドレッサーの前に座った状態だということに気付いたのは、鏡越しに苦笑したターニャを見つけたからだ。
(ど、どうしてここに……あ、あれ?)
「昨日は緊張して眠れなかったのですか?」
「へ……?」
「まぁそうですよね。生まれて初めてのお見合いパーティーなんですもの、そりゃ寝不足でもしょうがありませんわ」
ターニャと一緒に周りの侍女たちもふふっと笑う。
お見合いパーティー……って?
もう一度鏡の中の自分を見つめ返す。
確か私はレオナに毒薬を盛られて死んだはず。なのに今はドレッサーの前にいて、しかもこれからお見合いパーティーってことは……
「ね、ねぇターニャ」
「はい?」
「私って今、何歳?」
「まぁ、ご自分のご年齢を忘れるほど緊張をなさってるのですか?カトレアお嬢さまは17歳、もう立派なレディーですわよ?」
きょとんと答えるターニャに血の気が引いていく。
(もしかして……過去に戻っちゃったの?!)
それとも悪い夢?
自分の頬を軽くつねってみる。うん、ちゃんと痛い。
ということは今日はあのお見合いパーティーの日で、今夜お父様たちからドレイクとの婚約を勧められる。
もし仮に私が嫌だと言っても、お父様とお母様が納得しなければ話は平行線のまま。最悪の場合、強引に婚約話を進められるかもしれない。
回避するには、ドレイク以上の男性をパーティーで見つけるしかない。でも……
(参加者にそんな人いたかしら……)
認めたくないが、ドレイクは子爵家次男ということを除いて完璧な人だ。
顔もいい、頭もいい、性格も優しくてジェントルマン。お父様とお母様からの信頼もしっかり勝ち取っている。
……それがただのモラハラ男だったなんて、この時の私は微塵にも思っていなかったけど。
「お嬢さま?」
「あ……ご、ごめんなさい。少し考え事を」
「……やっぱり、今からでも旦那様に言って不参加に致しますか?」
え、どうして?と聞き返す前にターニャは何か言いたげに下を俯いた。
「確かにお嬢さまのご年齢なら婚約者がいてもおかしくないでしょう。ですが本人にまだその気がないのであらば、そんなに急いで結婚相手を決めなくてもと……出過ぎた真似ですが」
「ターニャ……」
「お嬢さまだって本心は行きたくないのですよね?だからこんなドレスを着ていくなんて仰ったのでしょう?!」
「こ、こんな……?」
荒ぶるターニャがババンっと指差したのは、おそらく今日のパーティーで着ていくドレスや身に付けるアクセサリーだろう。
振り返ってと見るとさすがの私も思わず「おお……」と引いてしまった。
ドレスは時代遅れのデザインに生地はあずき色。重たい雰囲気のドレスに、輝きを抑えたアクセサリーたち。
例えるなら“50代マダムがしそうなコーディネート”
(思い出した。確かドレイクがこのドレスが良いって……アクセサリーも派手な物は似合わないからって、プレゼントしてくれたんだった)
当時の私はわざわざプレゼントまでしてくれたドレイクに申し訳なくて、嫌だったけどこのドレスとアクセサリーを身に付けて行ったんだ。
……うん、そりゃお声もかからないわよ。
「お嬢さまっ!今からでも遅くは……」
「パーティーには行くわ」
「っ……で、すよね」
「ただ、ドレスを変えてもいい?」
「……え?」
突然の欠席はマナーが悪いけど、衣装チェンジなら誰にも文句は言われない。
「みんなごめんね。今から一緒にドレスとアクセサリーを選び直してくれないかしら……?」
時間ギリギリかもしれないが、このままドレイクの思惑どおりにことが進むのは避けたい。
だったら何としてもパーティー会場で目立たないと!
「とびきり可愛くしてくれる……?」
「「「も、もちろんですぅぅ!!!」」」
そして再び衣装を選び直し、ヘアセットやメイクも全部考え直した。その結果……
「「「か、可愛いですお嬢さまぁぁーー!!」」」
支度してくれた侍女たちがきゃっきゃと騒ぐ。
ガーデンパーティーでも浮かないようなベビーブルーのドレスはレース多めに、アクセサリーは小さなお花をモチーフにした可愛いものを。髪はアップにしてメイクは薄め、だけど目元はいつもよりパッチリにしてもらった。
(この時代の流行は忘れちゃったけど、これならまず浮くことはないでしょ)
「カトレアお嬢さま、大変可愛らしいです」
「ありがとう。へへっ、ちょっと照れくさいわ」
「いつものお嬢さまも控えめで愛らしいですが、今日のお嬢さまは一段と輝いております!」
よほどあの古くさいドレスが気にくわなかったのか、みんなで着替え終わった私をこれでもかと誉めちぎる。
まぁ確かにあのドレスは……ねぇ。
「そろそろ時間ね」
「馬車は手配済みです」
「ありがとう。じゃあいってきます」
パチンと軽く頬を叩いて気合いを入れ直す。
パーティーにはドレイクも参加している。
いつも大人しく従っている私が指示されたドレスを着ていなかったら、プライドの高い彼なら絶対に声をかけてくるはず。
怯んだらまたいつものペースに乗せられる、それだけは何としても避けなくちゃ。
爽やかなドレスを翻し、新しい人生の第一歩を踏み出した。
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