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しおりを挟む「国王陛下、今のお言葉、ちゃんとお聞きになりましたよね?」
「……ああ」
「国の英雄であるホリック様がお望みになったのです。それを拒む理由はどこにもないのではないですか?」
依然微笑んだままのニーナ。だが陛下の顔色は見る見るうちに青く染まっていく。
「陛下、ご決断下さい」
「しかし……其方でないと、……」
さっきから陛下の様子がおかしい。
俺は立ち上がりニーナの元に駆け寄ろうとするが、隣にいたエイは私の肩を掴んで制す。
「……様子を伺いましょう」
モランやシルフィも同意するように頷いた。
この3人が言うなら間違いないだろう。だが何だろう、この胸騒ぎは。
「……ホリック=マーベラよ」
「はっ!」
「今一度聞こう。これが最後のチャンスだ」
陛下は冷や汗を垂らし俺をじっと見つめる。その目はまるで、俺に余計なことを言うなと釘を刺しているようだ。
「其方の望みは?」
「……私の願い、それはニーナ=プロティオスとの婚約破棄。そして聖女アリスとの結婚です」
国王陛下が何に怯えているかは分からない。
だが、俺の気持ちは何も変わらない……無能なニーナと決別し、アリスと新しい家庭を持つこと。それ以上は何も望まない!
「……其方の願い、しかと受け取った」
「っでは!」
俺は勢いよくアリスの方を見る。
「っ……ホリック」
大きな目いっぱいに涙を滲ませているアリスを思い切り抱きしめる。
「あぁ……アリス、待たせてすまないっ!」
「ホリック、私嬉しい……っうれしいよぉ!これでちゃんとホリックの奥さんになれるんだねっ!」
「ああそうだ。共にこの国を守っていこう。大丈夫、君は必ず私が守るから。この国の英雄である男が夫なんだ、絶対に幸せにしてやるっ!」
何て最高な気分だ。
愛する女と添い遂げることがこれほどまで幸福に思えるなんて。
するとぱちぱちと手を叩く音がし、視線をやればニコッとニーナが微笑んでいた。
「こんなにも愛し合うお二人ならばこの先どんな困難が待ち受けようとも安心です」
まるで他人事のように言うニーナ。
若干その態度に違和感を覚えるが……もう関係ない。俺とこいつはもう赤の他人、今までのように気を使うことも言いたい事を我慢する必要もないのだ。
「アリスさんと仰ったかしら」
「っ……はい」
ニーナは俺から視線を逸らし、腕の中にいるアリスを見つめ直す。
「貴女、聖女様なのよね」
「は、はいっ!そうですけど……」
「ホリック様のお話ですと貴女も聖十字騎士団の一員ということですが、具体的には何をなさったの?」
挑戦的な言い方にピクッと眉が反応する。
何だこの女、アリスを試そうというのか?ただの令嬢風情が聖女に絡むなど甚だしい!
ペラペラと喋るニーナを黙らせようとするが、くいっと袖口を引っ張られる。
……そうか、流石のアリスもここまで馬鹿にされたら気分が悪いはず。この場で力の差を見せつけてやるつもりだな?
「わ、私は負傷した隊員さん達に回復魔法を施しました。ホリックたちと合流した2年前からずっと!」
「そう、回復魔法ですか」
俺はフッと鼻で笑ってしまう。
回復魔法を使える人間は限られている。
シルフィのように秀でた魔法使いならば話は別だが、世間一般の者ならばまず扱えないのだ。
「他には?」
「え?」
「一度魔法をかければそれを持続させれば良いだけのこと、その間は他にやるべき仕事に手を出せますでしょ?」
ニーナはきょとんとした顔でそう言った。
「な、何を言ってるんですか……か、回復魔法は相当魔力を消費しますっ!それに高度な術だから……ほ、他のことなんか出来るわけっ!」
「そうなんですか?じゃあ何もせず一人の人間に術を施したとして、全回復までの時間はどのくらい?」
「え、え、えっと……は、半日」
「まぁ!半日も時間をかけてるんですか?」
ニーナはびっくりしたように目を丸くさせる。
「なっ!ふ、普通ですよそれくらい!それに消耗した魔力も回復させないとだから、1日に救えるのは1人か2人くらいで……」
「おい、いい加減にしろ」
俺はニーナとアリスの間に割って入る。
「回復魔法は高度な術だ。何も出来ないお前が軽んじていいものではい、今すぐ彼女に謝れ」
「ホリック……」
無知にもほどがある。
きつく睨み返せば一瞬驚いた表情を見せるものの、ニーナはまたふわりと柔らかく微笑み返した。
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