18 / 20
18 Satan Side
しおりを挟む「ん……?」
砂煙が充満する空間で、俺は一瞬彼女の姿を見失った。
あぁ、最高だ!こんなにもヒリヒリした命のやり取りをしたのは実に何百年ぶりだろうかァ!
堪らずつい本気を出してしまったではないか!
人間とは実に脆い。
姿を変えることもできず、傷を負えばそう簡単には回復できない。なんて……愚かな生き物なんだろう。
人間なんか滅びてしまえばいい。
目障りで、癪に障る存在など消してやる。
ただ一人、ニーナ=プロティオスを除いてな。
「お嬢さんよォ!まさかもう死んだ訳じゃないだろォ?まだまだ本気を出してないんだぜ?!」
キョロキョロと見渡す。
くそっ、つい夢中になりすぎた。これでは前が上手く見えないじゃないかァ。
すると前方で小石が崩れる音がした。
力いっぱい吹き飛ばしてしまったか。今度はもう少し加減を……
「あ?」
歩み寄る足がピタッと止まる。
そこにはニーナを抱きかかえ、仲睦まじい雰囲気の出来損ない勇者がそこにいた。
「なんで……、」
お前はお嬢さんを嫌っていただろ?
それにお嬢さんだって、その男はお前を毛嫌いしてたじゃないか!捨てられたのだって忘れたわけじゃないだろうに……!
俺は二人に向け電撃を飛ばす。が、彼女の結界が攻撃から二人を守ってしまった。
「あら」
「おいおいおい、何俺のモノに気安く触れてんだクソがぁ……!!」
殺してやる!殺してやる、
クソがふざけやがって!俺を無視して、俺を拒絶しといてそこのカスは受け入れるだと?こんなにも優しくしてやってるのに、何故俺を受け入れないんだっ!!
「……は、ハハッ!どうやら俺はお嬢さんを甘やかし過ぎたようだなァ。ここまでコケにされたのも何百年ぶりだ!」
「………」
「遊ぶのは止めだ、すぐにそこの男は殺す。それから弟子どももだ。そしたらお嬢さん、お前を連れて帰り二度と外を歩けないようにしてやる」
「……そうはさせないさ」
そう言って男はお嬢さんを地面に下ろす。
「ニーナにはもう指一本触れさせない」
「思い上がるなよ雑魚、まだ婚約者気取りか」
つくづく腹が立つ。
魔力を最大限に練り上げ、男めがけてそれを放とうとした時だった。
「解放してやるんだ。お前からも……俺からも」
男の姿が一瞬見えなくなる。
間合いを急に詰められ懐に潜り込んできた男は、下から真っ直ぐに心臓めがけて右腕を突き刺してきた。
体内で男の手が心臓を握っているのが分かる。
まずい、握り潰されれば今度こそ終わる。しょうがない、もう一度姿を分散させて………っ?!
砂のように姿を消そうとしたが、俺の姿は未だに人間のまま。
何故だっ?!何故変形できないっ?!コイツは魔力を持たない人間、ただの物理攻撃ならそんなに威力はないはずなのに……!
「苦しいか?出来損ないの攻撃は」
「あがっ!んぐっ……な、にをした…ぁぁあっ!」
「俺は何もしていない。俺は」
ということは。
すぐにお嬢さんへと視線を移せば彼女は瞳を閉じ何やら集中している。あれは……魔力を練っている?攻撃を仕掛けてくるつもりか?
「っ、まさかっ!」
「ああ。ニーナは、俺自身に魔力を送り込んでるんだっ…」
「ふざけっ……そ、そんなことをすればお前っ!」
「俺は死ぬ」
そうだ、その通りだ。
人間の体は強固ではない。大量の魔力を供給されれば間違いなく命を落とす。コイツら……あの聖剣の代わりをこの男でしようとしているのか?!
ならばその腕を今すぐ引きちぎってやる!
「っ……くそっ、抜けないっ!!抜けないっ!」
「良かった……少しは、この無駄に頑丈な体が役に立ったようだ…」
息も絶え絶えに喋る男は、口の端から血を流している。当たり前だ!こんなの普通の作戦じゃない!思いつく方もそうだが受け入れたコイツもおかしいっ!
「あ……ぁがっ、ぁぁぁあ」
力が入らん。回復もできない。目も霞んで……嘘だ俺が負けるのか?
目を開けば一瞬だけお嬢さんと目が合う。
美しく澄んだ瞳が俺を見ていた。そこには感情もない、ただ俺が消えるのを待っている。
クソ、くそっ!終わりなのか?受け入れられないのか?こんなにも愛していたのに!お前だけをずっとずっとずっとずっと想って……!!!!こんな男と最後に!!
「さようなら」
彼女の声が聞こえた。
耳障りのいい、大好きな声だ。
「っ…………クソ、が」
そして俺の体は、男の体と溶け合うように崩れていったのだ。
539
あなたにおすすめの小説
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」
まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10
私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。
エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。
エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら?
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。
エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。
そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。
なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?
カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。
フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる