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19 Alice Side ④
しおりを挟む「どいてっ!どきなさいよぉっ!」
私は自分を見失っていた。
「きゃっ!」
「な、何だぁ?」
人を避けることなく走り抜ける。
呑気に集まっている市民たちを横目に、私は無我夢中で城壁の外を目指していた。
ホリックなんかに魔王は倒せない。
だがらこの国ももうおしまい、沢山の魔物たちが襲ってきて滅びてしまう。その前に何としても国の外に出なきゃっ!
「お、おいお嬢ちゃん!市街地から出ちゃならねぇ!さっき聖十字騎士団の人が……」
「うるさいわねぇ!こんな所にいたら死ぬわ!」
親切心で声を掛けてきた親父を突き飛ばす。
バカね、ほんっとにバカ!
聖十字騎士団なんてただのお飾りじゃない!あれは、ニーナさんが作ったかりそめの正義だと言うのにっ!
周りの静止を振り切りひたすら走れば、段々と城壁が近づいて来た。
ここまで来ればあと少し……っ!
「聖女様」
すると正面に見慣れた顔ぶれを見つけた。
嘘、何でここに……
「エイ、それにモランまで!」
国を追い出されたはずでしょ?何でまた戻ってきてんのよ?!
「聖女様、どちらに?」
白々しく聞いてくるエイを睨みつけた。
この裏切り者、馴れ馴れしく話しかけてくるなんて!
「国を出るのよ。邪魔っ!」
「おいおい止めとけよ、外にはまだ魔物がいるんだぞ?城壁内で大人しくしとけや」
「ふざけんじゃないわよっ!そう言って私をこの国に閉じ込めるつもりでしょ?お見通しよ?!」
「いやいや、そうじゃなくって」
「とにかく外に出るわ!アンタたちの言葉なんか誰が信じるもんですかっ!」
きっとあの女……ニーナ=プロティオスが指示してるんだわ!私を国から出すなって!じゃなきゃコイツらがこんなこと言うはずない。
数人の騎士たちが私に近付こうとする。
「彼女の好きにさせてやりなさい」
「し、しかしっ!もうそこまで魔物が……」
「彼女は外の敵よりも内で戦う我々の方が恐ろしいようだ。……裏門まで案内して下さい」
エイの言葉で騎士たちの動きは止まる。
な、何よ……いまさら恩着せがましいことして。
「……お礼なんか言わないわよ」
「もちろんです、我々も望んでいませんよ。口先だけの謝罪や謝礼なんて」
「っ!」
すれ違いざまにエイの頬を思い切り引っ叩く。澄ましたその顔には痛々しい爪痕がついた。
「さよなら!」
私は案内係の騎士の後ろをついていった。
■□■□■□
「で、ではっ!門が開き15秒後にはすぐに閉門いたしますっ!その間に急いで外に出てください」
「分かってるわよ」
案内係の男二人はビクビクと怯えながら言う。
たった15秒だけど塀の外に出るには十分ね。
ギギギと古びた音がして門が開けられた。目の前には……なにもない、ただの雑木林があるだけ。
「急いで外にっ!早くっ!」
「うるさいなぁ、そんなにビビらないでよ」
グイグイと背中を押し出され、私の体はあっけなく城壁の外へと出される。
「何よ、やっぱり魔物なんか………」
「馬鹿だよなぁあの女!何でわざわざ城壁の外になんか出ていくんだか!」
門が締まり切る前に、さっきの男たちが何やら会話をしていた。
「市街地にいれば結界が張られて安全だって言うのによぉ」
「全くだ。しかも魔物たちの大半はエイ殿やモラン殿が倒して下さった。後は取りこぼした魔物たちだけなのに」
え?今、なんて?
「だがそれもニーナ様が魔王を討伐して下されば全て片付く。それまでの辛抱だ!」
やけに明るい男たちの笑い声が段々と遠ざかって行く。
ちょっと待って!ニーナさんが魔王討伐?嘘、そしたら国から出ない方が安全なんじゃ……!
「ま、待ってよ!やっぱり中に入れてぇ!」
閉じられたばかりの門を必死に叩く。
知らない、ニーナさんが来ていたなんて!よくよく考えれば分かったかも知れないけど、その時の私にそんな余裕はないし……!!
「お願いっ!誰かっ!だれかぁぁぁあ!!」
グルルルル
背後で聞こえる唸り声に動きが止まる。
「あ………」
獣たちが活動するにはまだ早い。となると……
「あ……ぃや、やぁ!」
振り返れば小さな魔物たちが数匹、こちらを笑いながら見つめている。
そんな、こんな近くまで来るなんて……
「来ないで……し、死にたくないっ……!!」
ジリジリと距離を詰めてくる魔物たち。
「いゃぁぁぁああああ!」
私の叫び声と共にそいつらは一斉に飛び掛かってきた。
その30分後。
魔王ロキ討伐に成功したという報告を受けた聖十字騎士団は、裏門のすぐ側で一人の女性の遺体を発見する。
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