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しおりを挟む結婚記念日を過ぎてからというものジュライア様はまた屋敷にいない事が多くなった。朝早くに屋敷を出て夜遅くに帰ってくる、そんな生活がもう3ヶ月は過ぎたかしら……。
今日も今朝早くに荷物を持って家を出て行く。
「旦那様」
私が声を掛ければピタッと足が止まる、だがこちらを振り向く事はなく黙っていた。
「今日、お義父様とお義母様がこちらにいらっしゃるみたいなんです。お夕食までにはお戻りになりますよね?」
「……」
ジュライア様は何も言わずに出て行った。
今まで敵意剥き出しの態度は何度となく取られていたが、ここまで徹底的に無視すれたのは初めてだわ。
何か……嫌な雰囲気ね。
お義父様達は約束の時間ぴったしに屋敷にやって来た。
出迎えるとキョロキョロと辺りを見回しジュライア様の姿を探しているようだった。
「旦那様は……少し出ておりまして」
「そうか。いや、いいんだ。昔と違いしっかりと当主として仕事をしているのであれば」
お義父様はにこやかにそう言った。
ここ最近のジュライア様については何も聞いていないみたい……良かった。
食事の時間まで二人を客間に案内し世間話をする。
「それにしてとクロエがこの家に来てくれて本当に良かった。ジュライアも徐々にではあるが当主としての自覚が芽生えてきたんだろう」
「そうね、本当にクロエのおかげ。社交界でもね、貴女の評判が凄く良くて私も鼻が高いわ」
上機嫌で話をする二人に私のいい嫁モードも炸裂する。
「クロエ、どんどん食べなさい」
「ええ。どのお料理も美味しくて沢山頂いてますわ」
パクパクと食べ進めていればそれまでにこやかだったお義父様がコホンと軽く咳払いをする。
「クロエ、こんな時に言うのもなんだが」
「はい?」
「孫はまだかね」
突然の言葉に思わず喉に詰まらせてしまう。
急に何て事を!しかもこのタイミングで?!
焦る私にお義母様は急いで背中をさすってくれる。当のお義父様も流石にまずいと思ったのかあたふたし始めた。
「ちょっとあなた!」
「す、すまない!だが今日こうして顔を合わせたのだからつい気になってしまってな!」
「こほっ!えっと……申し訳ありません、ちょっとまだそのようなご報告は」
油断してたわ、そうよ元々この人はジュライア様の血の繋がった親なんだから突拍子もないのは想定出来たじゃない。
慌てる私を見て二人は顔を見合わせる。
「良いんだ、こればかりは神からの授かりものだ。焦らすような事を言って悪かったねクロエ」
「そうよ。私たちも離れて暮らしてるからかつい口うるさくなってしまったの。許して頂戴」
「いえ、そんな……」
何だか申し訳なくなる。
むしろ謝りたいのはこちらだ、だって私たちはこの二人を騙しているんだから。
「さぁ、食事を続けようか!」
「大変です!」
食事を再開しようとした時、一人のメイドが食堂に飛び込んできた。私もお義父様たちも突然の事すぎて言葉が出てこない。
席を立ち焦った様子の彼女にそっと寄り添う。
「落ち着いて?どうしたの?」
「だんっ、旦那様がお帰りになられて……」
「おお、帰ってきたか」
「それが!お連れ様もご一緒に!」
お連れ様?
彼女の言葉に冷や汗が流れる。
まさか……わざわざこのタイミングを狙って連れてきたんじゃないでしょうね。
未だに理解しきれていない義両親をそのままに彼女の体を支えながら詳しく尋ねる。
「それで?二人は今どこに……」
「ご機嫌麗しゅう、奥さまぁ!」
戸惑う雰囲気を打ち消すような明るく甲高い女の声。
バタンと大きな音を立てて扉が開き、その人物は何の躊躇いもなく部屋へと入ってきた。
「まぁ……お久しぶりね、ヘレン嬢」
突然の再開に心を乱さぬよう笑顔を貼り付ける。
久しぶりに出会った彼女はあの時より少し痩せ、髪が少しがさついている。元No.1娼婦だった煌きは今はもう感じられない、ただの娼婦に成り下がっていた。
ヘレン嬢の後からジュライア様が続いて現れる。
顔面は蒼白、冷や汗もかき目は左右に泳いでいた。
「ジュライア……貴様、まだこの女と!」
怒りに震えるお義父様から視線を逸らす。
「それで?突然こんな所に何の御用が?」
「ああ、そうなの。実は皆様に報告があってねぇ」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながらヘレン嬢は私にゆっくりと近付く。
「私、ジュライア様との子供を身篭りました」
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