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「サリファ!出てこいっこの冷血女がぁっ!」

王宮内には私の叫び声が響いている。

「なりません陛下っ!妃殿下は外交官と打合わせ中ですのでお静かに!」
「静かにだと?こんなふざけた事案が決定されて私が黙ってる訳ないだろうっ!!」

私は渡された書簡を思い切り家臣に叩き付けた。

『後宮の取り壊し、及び側室の王宮追放について』
ご丁寧に太字で書かれたその一文は明らかにサリファから私への挑発だ。

「後宮を取り壊すだとっ?!私の許可なくそんなことをして良いと思ってるのかっ?!おいっ!」
「し、しかしっ……これは決定して、」
「許さんっ!この国の王である私が!ギルバート=ルスダンが認めん!」

馬鹿げている!こんなのは許されない!

(あの3人を追い出すなどあってはならない。彼女たちを失えばそれこそ私は……)

「何の騒ぎですか?」

カチャリと部屋の扉が開き、中から外交官らしき人物とサリファが現れる。その顔を見た瞬間、頭にカッと血が上っていく。詰め寄り胸ぐらを掴もうとするものの、側に控えていた従者が私の両脇を抱えてそれを制した。

「くそっ、離せっ!無礼だぞ!」
「いきなり現れて何事ですか、陛下」
「何事じゃない!これはどういうつもりだ?!」
「これ?……ああ、後宮についてですか」

床に落ちた書簡をチラッと見た後サリファは小さくため息をつく。

「理由もそちらに書いてありますでしょう?後宮を取り潰し、そこにかかる費用を全て軍事費に回すと……」
「そんなこと誰が決めた?!」
「代理として私が可決に致しました」
「っ!お前、」
「後継者が3人もお生まれになった今、側室にそれほどお金を注ぎ込む必要もないでしょう?」

淡々と答えるサリファに怒りを通り越して理解出来なかった。
確かにあの子たちにはいい暮らしをさせてやっている、恐らく妻であるサリファよりも贅沢な暮らしをしてるはずだ。たったそれだけのことなのに……

(この女はどこまで邪魔をすれば気が済むんだ!)

「今すぐ撤回しろっ!」
「それは出来ません。既に会議は終わりました」
「だからどうした?!もう一度やり直せ!」
「陛下、国を動かしているのは官僚たちであり国を支えてくれているのは国民たちです。いかなる理由があろうとも彼らの時間を無駄にしてはなりません」
「い、意味がわからんっ!私の国をどうしようが勝手だろっ?!」
「……分かりませんか、そうですか。はぁ」

あからさまに呆れた顔をする。

(馬鹿にしやがって~~~っ!!)

そこでぷつんと何かが切れた。

「……だっ、」
「はい?」
「離縁だサリファ!これ以上の勝手は許さん!」

これ以上はもう黙っていられん!
声高々と宣言してやれば、流石のサリファもきょとんと間抜け顔でこちらを見つめている。

「……陛下、貴方は花園のために私を離縁なさるのですね?これまで国のために尽力してきた私を捨て、甘い蜜だけを吸い続けてきた側室を選ぶと」

サリファの鋭い視線に思わずたじろぐ。
だが、ここで弱気になればそれこそ奴の思うまま。

「ふははっ!悔しいか?だがもう遅い!私を怒らせたお前が悪いのだ!」
「………」
「子を成すという王妃として最も大切な仕事を放棄したお前と違い、彼女たちは私のために3人も子を産んでくれた!私のために!」

サリファへ何も言い返さない。いつもは論破される側だったのにこうも大人しい姿は初めて見る。
なんて快感!これこそ私が思い描いていた国王と王妃の立ち位置だ。

「大体お前は……」
「……分かりました」
「え?」

あまりにも冷静な声にピタッと止まる。

「離縁、お受けいたしましょう」

泣いて縋ると思っていた。
が、本人は意外にあっさりとした表情だった。

「お、お前……分かってるのか?王家の離縁は、ふ、普通の離縁とは違うんだぞ?!」
「ええもちろん分かっておりますよ。王より離縁された王妃は国を出る……この国に伝わる古い習わしですよね」

ああそうだ、その通りだ。
なのに何故そんなにあっさりできるのだ。

「ですが陛下こそお分かりですか?私と離縁すれば、陛下こそ退位しなくてはなりませんよ?」

この国は不思議なことに王族に厳しい。
王と王妃が離縁すれば『夫婦の絆すら結べなかった者が国民を先導出来るはずがない』という理由で王は退位させられ、王妃は国を追い出される。
離縁しただけでだぞ?厳しすぎるだろ?

本当はそこら辺うやむやにしようと思ったんだが……

「お、王に二言はない!離縁が成立したあかつきには王の座を子供たちに明け渡そう!」
「まぁ。では後見人についてだけははっきりさせましょうか。一応私にもその権利はありますので」
「そ、そんなもの、私に決まってるだろ!」
「でしょうけどね。黄の姫の体調が戻る1ヶ月後、そこで姫君たちに選んでもらう席を設けますので」

そう言ってサリファは私の前から姿を消した。……それにしても、随分と余裕そうな態度だったな。

「ま、まぁいい。これであのうるさい女を追い出せるんだからな!」
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