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しおりを挟む「ひっく……うむ、少し飲み過ぎたか」
長らく続いた婚前パーティーを終え、豪華な王宮の廊下を千鳥足で進んでいく。
「陛下」
「心配するなランセル、この程度なら朝には酒も抜けている」
「そうで、ございますが……」
「私がどれほど楽しみにしていたか知っているだろ?酒の失態で台無しになんかさせないさ」
そうだ、ようやく待ち望んでいた婚儀を迎えられるのだ。
あの忌々しい呪いを解き放つために……
「……あの女はまだあの部屋にいるのか?」
ランセルの眉がピクリと反応する。
「……はい」
「この5年、一度も外に出してないだろうな? 」
「もちろん陛下の御命令通りに」
窓に近付き外を眺めれば、広大な王宮の敷地の端に古びた建物が存在していた。
犬小屋……とまではいかないが、王宮内の建物にしては小さく汚ならしい外観だ。
「ふっ、はははっ!」
「へ、陛下……?」
「そうかそうかっ!もう5年も経つか!あの小娘と最後に顔を合わせてから。ククッ……すっかり忘れておったわ」
普段であれば気にもしないその離れが、今宵は何故だか興味を引く。
「行くぞランセル」
「えっ……ど、どちらに」
「決まってるだろう?会いに行くのだ」
「なっ!!!」
「何をそんなに驚くことがある?運命の相手に会ってはならぬのか?ん?」
運命、という言葉を強調して言えばランセルはグッと言葉を飲み込んだ。
■□■□■□■□■□
番とは、我ら獣人にとって何物にも代えられぬ奇跡のような存在。
理性ではなく本能で求め、番に危機迫れば自らの命など簡単に投げ出すことが出来る。特にその血が濃ければ濃いほど依存性は増し、万が一、番を失えばその身は焼かれるように痛み、精神は焦燥と絶望で崩壊してしまう。
番と出会える確率は何億分の1。
相手が同じく獣人とは限らないため、そんなものは古い言い伝え程度にしか考えていなかった。
父上が、あの女を連れてくるまでは……
『バレイン!聞いて驚くでないぞ?お前の番が遥か遠方のシャンデラ帝国で見つかったのじゃ!』
私が20歳の時、興奮気味に父上は一人の娘を連れて来た。
俯いているそいつはガリガリでみすぼらしい、すぐにただの人間であることが分かった。
番なんてものを最初から信じていない私にとって、その娘はただの害悪でしかなかった。
何故、番だというのにその娘に心動かなかったのか。
父上いわく、番同士がお互いを認識し合うのは相手が成人を迎えたときらしい。人間と獣人では成人の基準は違うから、14である娘が成人している私を番と認識しても、成人を迎えていない娘を私は番と認識できなかった。
『なぁに、あと5年も経てばお前は夢中になる!』
夢中になる?この私が?こんな小娘に?
分かってる……父上は私がレイチェルにのめり込んでいるのが気に食わなかったんだ。
以来、父上はやたらと他の女を紹介してくるし……まさかここにきて番をでっち上げてくるとは思わなかったが。
しかし、当時の王に誰も逆らえず……
■□■□■□■□■□
「そのあとすぐに父上は亡くなられ、あの小娘の存在はさほど周りに知られずに済んだがな」
「番様をすぐに離れへお連れしたのが功を奏しました」
「父上め……あの女に最低5年はこの国に居るよう話をつけおって。おかげで自国に押し返すことも出来なかった」
思い出すだけでも腹が立つ。
乱暴に扉を開ければ、薄暗くともそれなりに整頓された玄関が目に入った。
「ほぉ……小綺麗にしてるではないか」
屋敷の中はシンと静まり返っている。
あの娘をここへ放り込んだ際、侍女を1人と護衛を1人付けさせた。
その割には随分と掃除が行き届いている。
「あの女の部屋は2階だな」
「はい……あの、陛下。本当に番様に会われるのですか?連絡もなく訪れるのは流石にマナー違反ではないかと」
「ククッ、案ずるな。最後にからかってやるだけだ」
婚儀が終われば二度とこんな所には来ない。
そうだ、いっそ王の番を名乗った罪でも被せて罪人にしてやろうか。
「だ、誰ですっ?!」
2階に上がると1人の侍女が飛び出してきた。
そして私とランセルの顔を見るなり、サァっと青ざめきつく睨み付けてきた。
「へ、陛下……それにスコット卿まで。こ、こんな時間に突然何用でございますかっ?!」
「気にするな、小娘の顔を見に来ただけだ」
「なっ!!」
侍女はますます顔色を悪くする。
「お止め下さいっ!ラヴィエラ様は既に寝所へ……」
「あぁ、確かそんなような名前だったか」
侍女の制止を無視して奥に突き進む。
「陛下っ!どうか今日のところはっ!」
「うるさいっ!侍女の分際で……」
ブンと腕を振り払えば侍女は大袈裟に倒れ込んだ。
ふんっ、わざとらしい!!
「何の騒ぎですか」
キィと扉が開く音がする。
「なんだ、起きてるじゃないか………っ?!?!」
侍女から視線を外し声の主へ声をかける。
が、それ以上何も言えなくなった。
穢れを知らぬ透き通った翡翠の瞳が、真っ直ぐ私を捕らえていたからだ。
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