【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

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「これはチャンスですよ、陛下」

目の前で項垂れる金色の男に、私は優しい声色でそっと語りかける。

そろそろ日付けが変わろうとする時刻。
明日は大切な婚儀だというのに、我らが偉大なる国王は頭を抱えている。

その原因は、あの忌々しい女だ。

「厄介者が自らの意思で出ていくと言っているのです。しかも番の件は白紙にして」
「………うむ」

何度声をかけても陛下はうわ言のような返事しか返さない。

数時間前までは上機嫌で酒を浴びていた我らの国王は、魂を抜かれた人形のようにしおらしくなってしまった。

苛立ちを何とか隠し、いつもの優しい家臣としてそっと歩み寄る。

「まさかとは思いますが番様に心を奪われてしまったのですか?」
「なっ!!!ま、まさか!!」
「そうですよね。陛下にはレイチェルがおりますものね」
「っ……当たり前だ」

ニヤッと笑みが溢れる。


バレイン陛下がまだ王子だった頃、彼の元へレイチェルを送り込んで本当に良かった。
当時、まだ女を知らない陛下がレイチェルに夢中になり、そして今日までその寵愛は続いている。
私としては彼の愛人くらいになれば御の字であったが、まさか先代の国王陛下の反対を押し切り王妃にさせてくれるとは……。

これで2人の間に子が成されれば、私は王位継承者の祖父となり王国内での地位もより確かなものとなる。
血統主義である獣人の世界では、男だろうが女だろうが優秀だろうがバカだろうが関係ない。

王家の血に、我がスコット家の血が混じれば良いだけなのだ。


「でしたら迷うことはございません。この国のために余所者はさっさと追い出しましょう」
「あ、ああ……し、しかし……その、お前は良いのか?ラヴィエラの要求は『今仕えている侍女と護衛の身柄を引き渡せ』だ」
「ええ」
「護衛とはすなわちお前の息子のことだろう?」

ああ、なんだそんなことか。

同情するように私の顔を伺う陛下に心の中で軽く舌打ちをする。

「お気遣い感謝します。ですが、とは当の昔に縁を切ってあります故、今さら居なくなろうが知ったことではございません」
「……」
「私の子供はレイチェルただ一人。あの娘が幸せになってくれさえすればそれで良いのです」

そっと微笑みながら話せば、陛下はそれ以上問い詰めることなく静かに頷いた。

「……ランセル安心しろ。私がレイチェルを必ず幸せにしてやる」
「陛下……では、番様は」
「要求は必ず聞き入れるとあの女に伝えておけ。それから……すぐに出国の準備をさせろ」
「っ!!畏まりました、偉大なる獣王様」

深々と頭を下げ、静かに部屋から退出した。



■□■□■□■□■□

「そう言うことだ……聞いていたな?」

パタンと扉を閉めた後、すぐ横で壁に寄りかかる人物へ言った。

母親譲りの艶のある黒髪を指でくるくると遊びながら、愛娘のレイチェルは小さく笑う。

「ふふっ。まさかお父様があの女を追いやるためにシャルを差し出すなんて……ね?」
「あんな息子、私の言う通りにいかないならば居ても居なくとも一緒だ」
「まぁ恐ろしい」

クスクスと楽しげに笑うレイチェルを軽く睨めば、大袈裟に肩をすかして見せる。

「分かってるとは思うが気を抜くなよ。お前を王妃にするために、私がどれほど……」
「もぉ!お父様ったらほんとに心配ねぇ」

あっけらかんとする態度にため息をついた。

レイチェルは本当に亡き妻によく似ている。
美しい容姿も、男を虜にする性格も、人の話をしっかり聞かないところも。

「結局バレイン様の番というのは嘘なんでしょ?だったら余計私たちの間に割り込める訳ないわ」
「……なら良い」
「それに今夜だって陛下に呼ばれているの。あの人が何年も私の身体に夢中なのは知ってるじゃない」

ニッと笑うレイチェルの表情はまさしく悪女そのもの。
……まぁ陛下にさえ見られなければ問題ないか。

「くれぐれも寝坊なんかするなよ」
「ふふっ、まぁそれも今夜次第ね。バレイン様ったらいつも激しいんだもの」
「……仮にも父親にそんな報告をするな」
「はぁい」

自信満々に部屋へと戻っていくレイチェル。

遠ざかる背中を見送りながら、ふと先程再会したあの女のことを思い返す。

本音を言うと、ラヴィエラ=ロストは誰よりも美しく成長してしまった。

男を知り尽くしたレイチェルには感じられない清廉さがあり、恐らくそれは他の誰にも真似できない代物。

そして何より驚いたのは、あの眼だ。

5年前までは泣くことしか出来なかったあの瞳が、今ではすぐにでも噛み付いてきそうなくらい鋭く光っていた。
親子ほど年が離れた私ですら、その視線にゾクッと震え……不覚にも見惚れてしまった。

「とにかく、明日乗り越えさえすれば」

レイチェルはもうすぐ30になる。
子を成すにはギリギリの年齢……世間知らずとはいえ、陛下もそのくらいの常識は弁えているだろう。
すぐにでも子作りに励んで頂かなければ。

世継ぎさえ産まれてしまえば、あとは愛人を迎えるなり好きにすれば良い。

大丈夫、ここまで上手く行ったのだから……

止まらない胸騒ぎに気付かぬフリをしながら、私は再び歩き出した。
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