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しおりを挟むそしてついに、婚儀が始まる。
厳かな教会の大聖堂には総勢300人もの貴族たちが集まっていた。
誓いを済ませた後は神父より幸福の祈りを授かり、そのまま市街地を馬車でパレードするのが通例であった。
「それでは、誓いの口付けを」
神父の言葉を聞き、再び隣にいるレイチェルへと向き直る。
上質なシルクとレースで作られた純白のウェディングドレスは、いつも以上にレイチェルを美しく際立たせた。
目が合えば少し照れたように微笑む彼女に、自然と嬉しさで口角が上がる。
そんな愛らしい花嫁を前にしてもなお、頭の中はラヴィエラのことでいっぱいだった。
来いと言ったのに何故参列していない?
約束を破る気か?国に帰りたくないのか?
……私が他の女のモノになっても良いのか?
「バレイン様?」
「っ……ああ、すまない」
ハッとしてレイチェルのベールを上げてやる。
そっと肩を抱き寄せ、真っ赤な唇に自分のものを押し付けた。
その直後ガチャリと後方の扉が開く。
この瞬間ひどく後悔する。
何故、私はそっちを見てしまったのだろう。
現れたのは、まさしく天女だった。
「国王バレイン=ゾーネシアとレイチェル=スコットの夫婦の契りが無事結ばれました。お二人に盛大な拍手を」
「バレイン陛下ばんざーいっ!!」
「お幸せにぃー!!」
参列したゲストたちは歓声と盛大な拍手を送り、レイチェルは嬉しそうに私の腕に抱き着いた。
全員が私たちに注目しているため遅れてやって来たラヴィエラの存在に誰も気付かない。
私だけが彼女に釘付けだ。
シンプルなワンピースで小さな鞄を持ち、彼女はしばらくそこに立っていた。
そして側に控える侍女に耳打ちされた後、振り向くことなく静かに出ていった。
「では、これよりお二人には馬車に移動して頂きます。妃殿下のお色直しに些か時間が掛かりますが陛下も一度控え室に……」
スケジュールを伝えにやって来たランセルを無視し、すぐさま裏口から教会を出る。
「はぁっ……っ」
教会を飛び出し、ラヴィエラの後を追いかける。
人が溢れる広場を突っ切り、彼女の残り香を頼りに懸命に探した。
「ラヴィエラっ!」
「………バレイン陛下、」
「はぁっ、はぁっ……ど、何処へ行く…」
ようやく見つめた彼女を前に、息を切らし尋ねればラヴィエラは心底不思議そうに首を傾げる。
「?お約束通り、婚儀には参列致しました。なのでこのまま出国するのです」
「なっ!そ、そんな少ない荷物でか?!」
「こちらで与えられた物は食事と寝床以外ありませんので」
刺々しい口調に胸が痛む。
ああそうだ、5年前の私はそう命令した。
「な、何もそんな急がずとも……っ」
「直ぐに出ていけと仰ったのは陛下ですわ」
「っ……そ、それは…だ、だが!それではあまりにも非常識ではないか!」
そ、そうだ!5年も面倒を見てやったのに挨拶もなく勝手に出国するなど!
しばらくすると騒ぎを聞きつけたレイチェルやランセル、家臣たちだけでなく街の者たちまで集まってきた。
「へ、陛下っ!どうなされたのです?!早くお召しかえを……!」
慌てた様子のランセルは強引に私を教会へ連れ戻そうとする。が、対峙するラヴィエラを見ればそのポーカーフェイスがどんどん崩れていく。
「また、お前か……!一体どれだけ邪魔をすれば気が済むのだっ?!」
「それはこちらのセリフです」
呆れた様子のラヴィエラは手荷物を持ち直しそのまま背を向ける。
「ま、待てっ!」
強引に彼女の手首を掴もうとした時、横から現れた人物にそれを阻まれた。
その手は人間よりも少し大きく、爪は鋭く光る。
それは、明らかに獣人のもの。
「貴様は……っ!」
「お久しぶりです、バレイン国王陛下」
見た目はほぼ人間に近いその男は、私の愛する女によく似た口元で微笑んだ。
「シャルル=スコット……!」
「此度の御結婚、誠におめでとうございます。義兄上様」
「っ……!!」
レイチェルの血の繋がった弟、シャルルはラヴィエラの護衛だ。当然、この場にいるとは思っていたが……
「おいっ!手を離せ!無礼者っ!」
「これは失礼。陛下が咄嗟にラヴィエラ様をお引き留めになろうとしたように見えましたので、つい」
「!!!」
「あり得ませんよね、姉上がいるんですから」
ハッとして振り返る。
レイチェルが泣きそうな顔で真っ直ぐに私を見つめている。
そうだ、私にはレイチェルが………
長年愛し続けた美しい恋人が………
「そうだ……あ、あり得ない……私にはレイチェルだけだっ、そんな人間の小娘など……」
ラヴィエラへの恨みを言う度に心臓が痛む。
だが、ここで断言しなければ……獣王の威厳を見せつけなくては!
「番など必要ない!2度とこの国に踏み入れるではないっ、この魔女がぁぁぁあ!」
強がりにしか聞こえない私の咆哮は、むなしくも国全域に轟いたのだった。
「番が存在していたことを自ら暴露してしまうなんて……本当に、愚かな王様ね」
去り際に呟いたラヴィエラの言葉は、私の元には届かなかった。
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