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15 シャルル視点
しおりを挟む「やっぱり、ここにいたんですか」
サッと爽やかな風が吹き抜ける。
昼下がりにゾーネシア王国の離れを訪れると、中庭にある小さなガゼボにその人の姿はあった。
誰よりも美しい横顔はとても穏やかで、私の存在に気付くと読んでいた本をパタリと閉じた。
「わざわざここでなく本殿の庭を使えばよろしいのに。今やこの国で貴女に文句を言う者はいませんよ」
「んー……でも、ここが一番落ち着くの」
困ったように笑う彼女に呆れながらもついつい微笑む。
「一応全て終わりました。うるさい上級貴族たちもリプソン家の名前と皇帝からの委任状を見せたら一瞬で黙り込みましたので、明日にでもこの国の采配権は全て貴女に移ります」
「そう」
あっさりとした返事をされ拍子抜けした。
国王不在である今、血統主義であるゾーネシア王国は事実上の滅亡を迎えていた。
王妃は罪人、世継ぎはいない。
となると次の権力者は自分だと名乗りを上げる上級貴族たちが溢れ返り、事態は対話で決着がつかなくなった。獣らしく内戦を続ける彼らを見かねたシャンデラ帝国は、ある人物を派遣する。
それが、ラヴィエラ=リプソンだ。
不服だが一部の者にはラヴィエラ様が王バレインの番であることは知られていた。加えて各国からの信頼も厚いシャンデラ帝国皇帝からの委任状もある、彼女に歯向かえる上級貴族は誰一人としていなかった。
「番保守派がいい仕事をしてくれたようね」
「ええ。彼らの後押しが決め手でした」
正直言って上級貴族たちが折れることはないと思っていたが、よほど番保守派の相手をしたくなかったらしい。
ラヴィエラ様を呼び入れることでそちらへのメンツも守れ、現在の生ぬるいポジションも維持できる。不毛な争いを止めるいいきっかけになっただろう。
「とはいえ、流石に元国王をこの国に匿うのは賢い選択とは言えませんね」
「……心配しなくとも浮気しないわよ?」
「そうじゃなくて」
きょとんとするラヴィエラ様にため息をつく。
うん、その顔も可愛いですけど。でも俺が言いたいのはそういう事ではなくて……
「仕方ないでしょう?拾ってしまったんだから」
「……」
彼らが帝国を訪れたあの日、ラヴィエラ様はバレイン様と遭遇したらしい。そしてどぎつい別れを告げた後、道端で倒れているバレイン様と再会。そのまま放って置けず連れて帰ると言われた時は、バレイン様の息の根を止めてやろうと思った。
「慈悲深いというか、お人好しというか……」
「?」
「あの様子じゃ今さら姉上とどうこうなる気はなさそうですし。レインという別人格が定着している内は見逃してやります」
番に拒絶されたことによる記憶喪失。
……なんて都合がいいんだ。奴らがラヴィエラ様にしたことを考えればこんなもんでは済まされない。
何も知らない少女を、身勝手な理由で5年間も監禁したんだぞ?
俺とメイがいなければラヴィエラ様の心はとっくに壊されていた。記憶を失くすことも、鞭打ちも、幻覚に苦しみ続けることも俺からしてみれば……
「シャルル」
「!」
「こっちに来て?」
見透かしたような視線にぐっと言葉が詰まる。
俺は今どんな顔をしているんだろう。憎悪で歪んだ顔は、奴らのように汚くて醜くて……
「んむっ?!」
両頬をむぎゅっと寄せられタコのように口を尖らせる。そんな間抜けな顔にラヴィエラ様はクスクスと楽しそうに笑う。
「なにふるんれふか(何するんですか)」
「難しく考えすぎよ。それに今、私は貴方と一緒に居れて幸せだからそれで良いでしょ?」
「………幸せ、ですか?」
少しだけ拗ねて見せればまたクスクスと笑われる。
「当たり前よ。貴方がいなければ私は今も番の呪いに苦しめられてた」
「っ……それは」
それは、貴女の努力があったから。
初めてラヴィエラ様と出会ったとき。
番であるバレイン様に拒絶された彼女は、本人の感情を無視した痛みと絶望感に苦しんでいた。
『お願い……っ番の本を、全部持ってきて!』
苦しみながらもラヴィエラ様は諦めなかった。
運命が振り向いてくれないなら、運命を切り捨てればいい。幼い少女だった彼女は自分の力で生き抜くことを決めたのだ。
ありったけの文献を漁り、番の解消方法を何度も試しては失敗を繰り返し、日々強くなる痛みに耐えながら……ようやく一つの方法を見つけ出す。
新月の夜、自身の血と共に祈りを捧げ続けること。そして番ではない獣人の血を多量に摂取すること。
獣人の血を多量に摂取すれば幻覚では済まされない。高確率で命を落とす……だが、ラヴィエラ様はその方法を迷うことなく選んだ。
『ここで飼い殺されるくらいなら、いっそ貴方の血でとどめをさして欲しいの』
そう言ったラヴィエラ様の目は、何も知らない少女の瞳ではない。
覚悟を決めた強い視線に、俺は心奪われた。
「貴方の為ならば」
ラヴィエラ様だけが味わう『番の呪い』、それから解放されたのはここに連れてこられて2年ほど経った頃だった。
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