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しおりを挟むゾーネシア王国に来て2年が経つ。
相変わらず俺は人目に触れることなく、西の塔に幽閉されているレイ殿の世話を続けていた。
話に聞くとレイ殿は王妃の身でありながら獣人の血を摂取したらしい。獣人の血を摂取することは禁忌とされている、そんなこと同じ獣人であれば分かっているはずなのに。
世話係を言い付けられたとき、いくら命の恩人からの頼みでも流石に断った。
人の美しさは外見ではない、中身で決まるんだ。
そこまでして美を追い求めた者の気持ちなんて、俺には一生分からないと思ったから。
でも………
「それじゃあ、また明日」
「あ、うん……あの、レイン」
「?」
「今日も会えて良かったわ。その……おやすみなさい」
「……おやすみなさい」
寝台に腰かけたレイ殿は少し恥じらいながら微笑む。
そんな彼女に自然と返事をし、そのまま部屋の明かりを消して出て行く。
彼女はいつも一日の終わりに「会えて良かった」と言ってくる。世話係なんだから毎日顔を会わせるのは当たり前なのに、レイ殿はいつもホッとした顔で出迎えてくれる。
それが何だか不思議な感覚で、気付けば最初の頃のような嫌悪感は全くなくなっていた。
「順調そうね」
「!!!」
塔の階段を降りきると、出口付近に何やら気配を感じた。
姿は見えなくとも聞いたことのある声に、緩んでいた表情が一瞬で引き締まる。
「主様」
「遅くまでご苦労様。ここでの生活は慣れた?」
近付くにつれ段々と表情が読み取れる。
俺の主でもあるラヴィエラ様はいつも通りのお美しい佇まいで声をかけてくれた。
「はい。貴女様のお言いつけ通り、レイ殿……いや、元王妃殿の世話は滞りなく」
「ふふっ、言い換えなくても良いのよ。ちゃんと仕事をしてくれればうるさく言わないわ。仲良くしているみたいで良かった」
ラヴィエラ様は楽しそうに笑う。
「仲良く……そう見えますか?」
「?私にはそう思えるけど」
「……俺は、よく分かりません」
俯きながらしどろもどろに答える。
「あの人、いつも愛おしげに見つめて来るんです。言われなくても分かります。でも何となく誰かを重ねているような気がして……なんというか、気持ち悪いはずなのに」
見知らぬ恋愛感情ほど薄気味悪いものはない。ないはずなのに……何故か全てを拒絶できない自分がいる。
ラヴィエラ様は茶化すことなく真剣に話を聞いてくれた。
「貴女様に拾われ助けられたあの日、俺は過去を思い出さなくても良いと思いました。今でもその気持ちは変わらない、でも……っ知らない感情が涌き出てきて、正直怖いんです」
過去の自分はレイ殿を愛していたのか?
なら何故俺はそれすら忘れている?
彼女が幽閉されるほど追い詰められていたならば、一体俺は何をしていたんだ?
過去の俺は、どんな男だったんだ?
「……レイン、こっちを向いて?」
「は、はい……」
「えいっ!」
「痛っ!!」
バチンといい音がしたと当時に額がヒリヒリとする。叩かれたであろうその場所を擦っていると、ラヴィエラ様はクスクスと楽しそうに笑う。
華奢な体のどこからそんな力が出てくるのか……ものすごい力で叩かれたぞ?
「これで許してあげる」
「へ……?」
「あー、スッキリした!」
ニコニコと笑いながら塔の外に出る彼女の後ろをついていく。
一体どういうことなのかサッパリ分からない。が、晴れ晴れとしたその表情につい見惚れてしまった。
「え?あ、あの……主様」
「ねぇレイン、本当に過去を知りたい?」
「え……まぁ、はい」
「それが私を傷つけ、今の自分を失うことになっても?」
「!!!」
その言葉に考える暇もなく、ブンブンと大きく首を横に振った。
「貴女が傷つくなんてあり得ませんっ!ダメです絶対!貴方は俺の……」
「俺の?」
「運命なんです!」
全ての記憶を失い途方に暮れていた俺を、ラヴィエラ様は拾ってくれた。この方に出会っていなければ今頃俺は道端で息絶えていたことだろう。
命の恩人、まさに運命の人なんだ。
必死になる俺とは違い、ラヴィエラ様はどこか寂しそうに笑っている。
「運命……そう、やっぱり貴方は貴方ね」
「?」
「レイン、過去や運命に縛られず自分の未来は自分で切り開いていきなさい。貴方には……自分の意思に従って行動できる強さがあるんだから」
それはまるで独り言のようにポツリと呟かれ、ラヴィエラ様はポンと肩を叩いてくれた。
言葉の真意はよく分からない。だが、この方の仰ることに間違いはないんだ。
とにかく今はラヴィエラ様のために生きていく。
それが自分の生きる糧なんだ。
「俺、一生懸命頑張ります!」
気合いを入れ直した後、すれ違うようにその場を離れようとした。
「さよなら、番様」
一瞬だけ何か聞こえて振り返るが、ラヴィエラ様は未だに背を向けたまま。
さっきのは気のせい、なのか?
再び前へと歩き出す。
ラヴィエラ様の表情が少しだけ嬉しそうにしているのに気付けぬまま、ゆっくりと……ゆっくりと進んでいった。
■□■□■□
これにて完結です。
ご愛読頂き誠にありがとうございました。
2022.10.07
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