3 / 5
後編
教会の方から音が聞こえなくなっていました。
視線を向ければ、あの廃教会は跡形もなく壊されて瓦礫だけが山積みになっています。どうやら取り壊し作業は終わったみたいですね。
『……今のお前の寿命はあと何年だ』
「寿命?そうですね、100まで生きるとしたら、残り80年くらいでしょうか」
『1500年からしたら、80年など一瞬だな』
まぁ悪魔さんからしたらそうでしょうけど。
『お前がその命を全うした時、その魂はきっちり回収してやる』
「……それって、それまでは生かしてくれるという事ですか?」
悪魔のくせにお優しいんですね。
メフィは私を腕に抱きながら教会を見つめます。思い出の教会が壊れて多少なりとも寂しいのでしょうか。
『その代わり死んでからは覚悟しろ、今までのように転生することも許してやらない。お前の魂は永遠に、片時も離れず、俺の手の中に残しといてやる』
「わぁ、悪魔さんからの愛って重いんですね」
というより病んでます。
でもまぁ死んだ後のことなんで興味はありません。これからの80年、どう生きようが私の勝手が出来る。なんて素敵なことなんでしょう!
「あ、そう言えば。あの異世界からの女性……えっとレイナさん?あの人は本物の聖女様なんですか?」
私は聖女様の魂を引き継いでいますが、本物の聖女ではありません。ただの光魔法が使える女です。
レイナさんの名前を出せば、メフィの美しい顔がぐにゃっと歪みます。
『あんなのが聖女なわけあるか』
「え、でも異世界からやって来たと……」
『神の気まぐれで異世界から連れてきただけの人間だ。そんな特別なもんではない、お前と同じただの光魔法が使える女だ』
あ、そうなんですね。自信満々に言い切られたので信じてしまいました。
だとしたらこの先、少し大変でしょうね。
廃教会の祈りがなかなってしまった今、単純に彼女の魔力だけで国全体を守っていかなくてはいけないんですから。
「エドワーズ様が仰るからてっきり」
『おい』
一瞬でメフィの表情が鬼のようになります。
『他の男の名を呼ぶな。次呼べば今すぐ魂を狩る』
「え、何ですか急に」
『こっちは1500年間好きな女が自分以外の無能な猿と抱き合うところを見せられてるんだ』
嫉妬丸出しなメフィは禍々しい黒い霧を発動させます。うーん、今にもエドワーズ様を殺してしまいそうですね。
でもメフィの立場からすればそれはそれで辛かったのかも知れません。触れることも出来ず、聖女様があの廃教会で他の男に抱かれるのをただ見ている事しか出来なかったのですから。
『まずはあの異世界から来た女を壊す、そして次にあの男だ。国王とかいう強欲な男の血を継いだ奴らは根絶やしにしてやらねば』
ククッと楽しそうに笑うメフィ。ですが私にはどうすることも出来ません。
いくら力が戻ってきたとは言え、教会に篭りきりだった私にこの大悪魔をなんとかする方法はないのです。
「未練、はないですが思い出のある地です。なるべく手加減して下さいね」
『ほぉ、お前が俺に頼み事か。悪くない』
ニッと意地悪そうな顔で笑われました。
『安心しろ、お前の努力次第では無抵抗な人間たちは生かしてやってもいい』
「ほんとですか?」
『ああ。その代わり今晩は覚悟しろ』
今晩、とは何が待っているのでしょう。メフィはとても楽しそうに笑っていますが、私には何のことだかさっぱりです。
でもまぁしょうがないです。
私は残りの80年も、それからの生涯も彼に全て捧げなきゃならないようなので。
『で、これからどうするつもりだ』
「そうですね。とりあえずこの国を出て、色んな所を旅するつもりです」
人生はまだまだありますから。
「貴方を封印していた魔力が戻ってきたようですし、色んな国を訪れて貧しい人や病にかかってしまった人を光魔法で救っていきます」
『まだ面倒なことを』
「良いんです。私は自由になりましたから」
ニコッと笑えばメフィは苦笑します。
『生まれ変わってもお人好しは変わらんな』
「?そうなんですか」
『ああ。腹が立つくらい』
そんな言葉とは裏腹にとっても穏やかな顔をしていますよ?そう言おうとしたらまたグッと腕を引っ張られてしまいました。
『スフィア』
「はい」
『逃げるなんて考えるなよ。その瞬間、この世の人間をみんな消したって良い』
「逃げませんよ」
悪魔相手にそんな命知らずなこと出来ません。
私は掴まれた腕をするりと抜きます。ほら、逃がさないと言ってる割には痛めないように優しく腕を掴んでくれてるんですからメフィはとても優しい悪魔さんです。
私は自分よりも大きな手に自分のを重ねます。俗に言う恋人繋ぎってやつですね!
「今度からはコレでお願いします」
『……お前は本当に』
「?」
『まぁいい』
メフィは困ったように笑いました。
居場所はなくなってしまいましたが、私たちが離れることはこの先あり得ません。他の人から見たら馬鹿な関係かもしれません、ですがこれが私の選択なのです。
崩れ去った教会を見つめ、私たちは小さく笑い合いました。
あなたにおすすめの小説
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
絶縁状をお受け取りくださいませ旦那様。~離縁の果てに私を待っていたのは初恋の人に溺愛される幸せな異国ライフでした
松ノ木るな
恋愛
アリンガム侯爵家夫人ルシールは離婚手続きが進むさなかの夜、これから世話になる留学先の知人に手紙をしたためていた。
もう書き終えるかという頃、扉をノックする音が聞こえる。その訪ね人は、薄暗い取引で長年侯爵家に出入りしていた、美しい男性であった。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました
3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」
男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。
初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。
その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。
しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。
社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。
一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。
私を捨てた婚約者へ――あなたのおかげで幸せです
阿里
恋愛
「役立たずは消えろ」
理不尽な理由で婚約を破棄された伯爵令嬢アンナ。
涙の底で彼女を救ったのは、かつて密かに想いを寄せてくれた完璧すぎる男性――
名門貴族、セシル・グラスフィット。
美しさ、強さ、優しさ、すべてを兼ね備えた彼に愛され、
アンナはようやく本当の幸せを手に入れる。
そんな中、落ちぶれた元婚約者が復縁を迫ってくるけれど――
心優しき令嬢が報われ、誰よりも愛される、ざまぁ&スカッと恋愛ファンタジー
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?