【完結】高嶺の花がいなくなった日。

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7 専属侍女は気付く

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『行き遅れマリーはダリッジ家の亡霊』

影で同僚たちは私をそう言う。
この国では中流以下の娘は貴族の元へ侍女として働きに出て、奉公先の主人にいい嫁ぎ先を紹介してもらうのが常だった。
このダリッジ侯爵家にも沢山の若い娘がやって来ては、お優しい主人様にいい人を紹介してもらい辞めていく。だから、30を過ぎてもなおここで働いている私が行き遅れと呼ばれるのはしょうがない。

でも、そんなの私にはどうだっていい。

彼女たちは気付いてないの。
心から信頼し合える主人に出会った時、自分の婚期などどうでも良くなってしまうんだから。

私は主人であるルノア=ダリッジ様に全てを捧げると誓ったんだ。




「ではマリー=コットンさん。貴女が朝ルノア=ダリッジ侯爵令嬢の部屋を訪れた時にはすでに姿がなかった、と」
「ええ」

いつもは掃除をしているこの時間。
私は応接室のソファーに座りながら正面に座るガタイのいい男にコクンと頷いてみせた。
この国の自警団であるその男はさっきから私の言葉をいちいちメモにとっている。

「いつものようにお嬢様を起こしに行ったときにはベッドはもぬけの殻でしたわ」
「それから一度も姿を見ていませんか?」
「はい。バスルームも食堂も温室も書庫も、とにかくお嬢様が行きそうなところは全て確認致しました。ですがどこにも……」
「屋敷の外に出たって可能性は?」
「お嬢様が私に黙って外出するなどあり得ませんわっ!」

つい声が大きくなってしまう。
私ってば……つい動揺してしまった。ルノア様のこととなるとどうも冷静でいられないわ。

「と、とにかく落ち着いて下さいっ!えっと……」
「お嬢様はきっと誘拐されたんです」
「ゆ、誘拐?!」

自警団の男は大袈裟に驚く。何をそんなに驚くことがあるのかしら。

私はダンと思い切りテーブルを叩いた。

「お嬢様に相手にされなかった令息かお嬢様に嫉妬した令嬢が金で誰か雇ったんです!そして寝ているお嬢様を……あぁぁあぁ今頃お嬢様は怯えて!」
「お、落ち着いて……」
「早く探し出して下さいっ!」

のんびりしている自警団に叫んでやった。無能め!役立たずっ!もしルノア様の身に何かあったら私は……私は……っ!


『マリーは私のおねえさんみたいね!』

ルノア様がまだ幼い時そう言ったことがある。
あれは……奥様が亡くなられた後のこと。
一人寂しそうに中庭にいらっしゃったルノア様に声を掛ければ、辛そうに微笑みながら仰ったの。その時、私は何が何でもこの方を守らなきゃと決意した。
だから今もどこかで私が迎えに来るのを待っているはず、だって私たちは令嬢と侍女の関係を超えた深い絆で結ばれてるんだもの!

「もういい!アンタたちの代わりに私が探して……」
「その必要はないよ」

部屋を出ようと立ち上がった時に部屋の扉が開いた。

「だっ……だ、旦那様」

入ってきた人物に目を丸くする。
多忙で屋敷を空けることが多いその人、ダリッジ侯爵家当主であるアーサー=ダリッジ様は私を見つめた。
そして旦那様の隣には背の高い旦那様よりも更に高い男。確かあれは……

「く、クロッガー卿っ!どうしてこちらに……こ、この件は自警団だけで十分だとっ!」

まさか王国騎士団が動くとは……彼らを動かすには公爵家以上の権限が必要になる。こんなに早く動くことになるなんてよっぽどだわ。

「あー、いや気にしないでくれ。俺はだ」
「べ、別件、でございますか?」
「ああ」

ニッと笑うクロッガー卿と目が合った。
別件?お嬢様を見つけ出しに動いたんじゃないのか……ふん!コイツも使えないわね。

「ねぇ、もういいかしら。もう話すことはないわ」
「あっ、そうですよね!もうお帰り頂いて……」
「あーダメダメ」

旦那様とクロッガー卿の間をすり抜け部屋を出ようとした時、目の前に太くて傷だらけの腕が現れ足を止める。

「悪ぃねマダム、あんたをここから出す訳にはいかねぇのよ」
「……私はまだ結婚してませんわ」
「おっとすまねぇ」

苦笑する男をキッと睨みつける。品のない男、さすが庶民から成り上がっただけのことはあるわ。

「で、私に何か御用ですか?」
「ああ。実は数日前に騎士団へ盗難の被害届が出てなァ、被害者は自身が持ってる高価なドレスや宝石を次々と奪われたって言うんだよ」
「へぇ?それが何なの」
「その中にはアレグロ公爵夫人がプレゼントしたというブラックダイヤのブローチなんかもあってなァ、ただの窃盗事件じゃ済まねぇのさ」
「あらそうですか」
「とぼけるのもいい加減にしろよ」

さっきまでのヘラヘラとした態度が一変、クロッガー卿は至近距離まで顔を近付ける。


「アンタに窃盗の被害届が出てる。告発人はルノア=ダリッジ侯爵令嬢だ」
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