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しおりを挟むハルはいつだって優しい。
それは初めて出会ったときもそうだった。
私は小さい頃に攫われたことがある。
それがダリッジ家に恨みのある者なのか、私自身が目的だったから分からない。数人の男たちは私を担ぎ上げその場を逃げようとした時、突然やってきた少年に男たちはやっつけられてしまった。
そして少年は地面に座り込む私を見下ろし言った。
『……ごめん、怖い思いをさせて』
初めて出会った少年は何も悪くないのに謝った。
*****
「今思えばあの瞬間、ハルに一目惚れしたの」
バルコニーに出て夜空を見上げながら呟く。
近くに民家がないからこの辺りは本当に真っ暗で、手すりに置いてあるランタンだけがぼんやりと光っていた。
「誰かに優しくされることは慣れていたけど、それは私に近付くためや点数稼ぎに来る人ばかりだった」
「はい……」
「生まれて初めてよ、助けてくれた相手から謝られるなんて」
クスッと笑えばハルは気まずそうに視線を逸らした。
それからハルはクロッガー団長に引き取られたと知り、年の近い私たちはよく遊ぶようになった。マリーの監視があるから会うのはいつも離れの裏庭、その頃からよく愚痴を聞いてもらってた。
バァン
真上に大きな花が咲く。
「わぁ……綺麗」
「そうですね」
私たちは色鮮やかな季節外れの花火に言葉を失ってしまった。
「……ねぇハル」
「何ですか」
「もしも私がこの顔が嫌になって、わざと火傷を負ってぐちゃぐちゃにしたらどうする?」
隣に立つハルにぽつりと言ってみる。
ハルがお父様と違うのは分かってる。レイモンド様やモーター先生のように、外見だけを愛してくれた訳じゃないのも知っている。
花火が映る切長の目が真っ直ぐ私を見つめていた。
「火傷、ですか」
「うん」
「そうですね……」
「………」
「なら俺も、同じ傷を負いましょう」
思わぬ返答に目を丸くしてしまう。
「止めないの……?」
「?はい、貴女が決めたのなら」
不思議そうな顔をするものの即答したハル。
もしかしてちゃんと意味が分かっていないのかしら。
「ば、化け物みたいになるのよ?今まで通りの聖母でいられなくなるし、それこそ隣にいればハルが恥ずかしい思いをするかも知れないわ!」
「聖母である貴女を愛したわけじゃないですから」
早口になってしまう私に小さく笑い、ハルはそっと私の頬に触れる。
「どんな姿でも貴女を愛しています」
優しくてあったかい言葉に、気付けば私は静かに涙を流していた。
分かっていたけどこうして言葉にしてもらえるだけで心が軽くなる。
ハルに出会えて本当に良かった。
「でも火傷はその後が苦しいと言いますからあまりお勧めはしません」
「……冗談よ、馬鹿」
真面目に答えるハルについ笑ってしまう。本当に、変なところで真面目なんだから。
頬に触れる大きな手に自分のを重ねれば指先がピクッと動く。見上げたハルの顔は真っ赤になっていた。
「っ……手、離してください」
「ダメよ」
「ルノア、さま」
照れている彼を見るのは気分がいい。
私はそのままポスンとハルの胸に飛び込んでみた。
「ねぇハル、高嶺の花って知ってる?」
「えっ……と、」
「手に入れることが出来ない憧れの人のことよ」
崖の上に咲くその花を多くの人間は手を伸ばさずにじっと眺めている。自分とは違うと線を引き、距離を置いてその花を愛でるの。
でも、その花は果たして幸せなのかしら。
美しいと称賛されても、多くの視線を集めても、その花は枯れるまでずっとそこに居続けなきゃならない。
「もうやめたの、そんな人生。たった一人のために咲き続ける人生の方が何倍も素晴らしいでしょ?」
ハルはよく分かっていないみたい。
そうよね、うん……私だけが全部分かってればいい。
スルッと首に腕を回し、音を立てるように口付ける。
「っ!」
「ふふっ」
「ふ、不意打ちは……やめて下さい」
「もういい子はやめたから言うこと聞かないわ」
「っ……まったく、」
「ハル、もう一度」
強請ればハルは気恥ずかしそうに目を泳がせるものの、優しく私の体を抱きしめてゆっくりとキスを落とす。
今までみたいにお淑やかで受け身の私ではなく、自分の意思でハルを受け止める。
そして、高嶺の花はいなくなった。
*****
これにて完結です。
ご愛読頂き誠にありがとうございました。
2021.09.28
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みんなの感想(121件)
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目的が顔だとしても望まれるだけ良いと思います。扱いが粗雑だとしたらわかりますが、愛してると夢をみさせるだけ思いやりはあると思います。
コメントありがとうございます!
のんびり修正中ですので、気長にお待ち頂ければ幸いです……!
完結おめでとうございます!お疲れ様でした(^^) 毎日更新ごとに楽しみに読ませて頂いてたので、終わってしまい喪失感が半端なくて…「短編」とあるけど、勝手にもう少し続くかなと思っていたからかな(泣)
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