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『幽霊』〜S市のホームにて〜
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駅のホーム、人のまばらな静かな時間。
2番乗り場にコートの男。少し離れて二人の男女。
「ねえ、あの人顔色悪そうじゃない?」
「ん……。ああ、大丈夫だよ。あれはもう死んだ人間だから」
「生きてるようにみえるけど」
「顔色が悪いように見えたんだろ」
「顔色が悪いってことは生きてるってことじゃない」
「生きてると思うから顔色が悪くみえるのさ。もう死んでると思ったら顔色なんか気にならない。幽霊の顔色まで伺えないよ」
「なんだかよくわからないけれど、体調が悪いんじゃないかしら」
「そうだろうね。急性の心臓発作か動脈硬化か。もうすぐ死ぬんじゃないかな」
「やっぱり生きてるんじゃない!」
「いまはまだね」
「どっちにしろ助けないと……」
「なんの義理があって?」
「なんのって……。まだ生きてるんだから」
「生きてるだけで助けられるなら訳はないよ。僕たちがなんのために駅に来たか忘れたの?」
「それは……」
「彼から見たら僕らの方が幽霊さ。彼より生きているというだけの幽霊、お互い様なんだよ。こういうことは」
「……でもなにか他の方法もあるんじゃないかしら」
「今さら議論する気はないよ。もう決めたことじゃないか」
「……」
「生きているというだけで助けていたらキリがないのさ。だから生きながらにしての幽霊が生まれる。彼や、僕らのように」
「でも……」
「どうせ救急隊やなんかも駆けつけるだろ。運がよければなんとかなるさ」
「なんだか……」
「なんだか?」
「なんだか私たちが幽霊のくじを肩代わりしたみたい」
「……幽霊になってまで契約手形の話をするのはゴメンだよ」
………
新聞朝刊三面の記事。
昨日、S市のホームにて男女2名の遺体が発見された。飛び降り心中と見られている。駆けつけた救急隊は同ホームで、期せずして心臓の発作を起こした男性を見つけ搬送した。男性は一命を取り留め、現在は回復状態にある。折しも男女の死が、男性の死を救った形になった本事件。警察は男女2人の身元の解明を急いでいるが、まだ特定には至っていない.......
2番乗り場にコートの男。少し離れて二人の男女。
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「でも……」
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