第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第3章 日本プロ野球1部リーグ編

204 1部昇格の弊害?

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 今年最初の紅白戦が行われた日の夜のこと。
 俺達は滞在先のホテルのロビーに集まり、今日の結果の振り返りをしていた。
 メンバーは俺とあーちゃん、美海ちゃん、昇二、そして倉本さんの5人。
 まあ、いつもの仲間達だ。

「…………結局、1番安定してたのは美海ちゃんだったな」

 紅組と白組に6人ずつ振り分けたピッチャーは全員、予定通りに登板した。
 先発、2番手、3番手は2回ずつ。
 残る3人は7回、8回、9回を1回ずつ。
 なので、今回の紅白戦における美海ちゃんの投球回も僅か2回だったが……。
 彼女は打者8人に投げて被安打2、無四球無失点と上々の結果を残していた。

「欲を言えば、昇二との対戦を見たかったけど」

 敵味方に分かれた彼とは打順の関係でマッチアップがなかった。
 それだけが彼女の今日の登板で唯一残念だったことだ。

「私と未来はセットだから、基本キャッチャーで出場する昇二君とは次の紅白戦も別々のチームになるだろうし……その時に対戦できるのを楽しみにしとくわ」

 そう昇二に言った美海ちゃんの口調と表情は、どことなく挑戦的に見える。
 いつもよりも微妙に高いテンションがそうさせたようだ。
 恐らく、今回の登板で彼女は十分な手応えを得ることができたのだろう。
 珍しいぐらいに高揚しているのが一目で分かる。

「昇二君は4安打1本塁打5打点の大活躍だったっすからね。次は誰憚ることなく上位打順になれるはずっす。それで、みなみんがまた先発させて貰えれば……」
「まず間違いなく、対戦機会が得られるはずよね」
「試合の中での勝負は練習とは一味違うっすからね。ウチも次は勝負したいっす」

 美海ちゃんが交代するのと同時に、倉本さんはセカンドに入った。
 そのため、キャッチャーとしては昇二と対戦していない。
 美海ちゃん同様、倉本さんもまたそれを惜しんでいたようだ。

 ちなみに。
 セカンドでスタメンだったあーちゃんは、この交代を受けてショートに移った。
 ショートで先発していた俺は、倉本さんの代わりにキャッチャーに。
 その後は試合終了まで守備の変更はなかった。

「……ねえ、秀治郎。次のチーム分けってもう決まってるの?」
「いや、さすがにまだだけど……」

 勿論、次回の紅白戦の日程は既に決まっている。
 とは言え、メンバーの詳細までは詰めていない。
 今日の試合の結果を受けての話になるし、練習の具合に変わる可能性もある。
 しかし、いくつか確定していることはある。

「少なくとも、美海ちゃんと倉本さんが昇二と違うチームなのは間違いないぞ」
「だよね……」

 力なく肩を落とし、好戦的な2人の圧に気後れした様子を見せる昇二。
 そんな彼の姿に思わず苦笑してしまう。
 しかし、他にも1つ決めていることがある。
 ここは公平に行くとしよう。
 という訳で、俺は少し意地の悪い笑みを浮かべながら美海ちゃんを見た。

「な、何よ。秀治郎君」

 ちょっと怯えたようになる美海ちゃん。
 そんな彼女にも関わるもう1つの確定事項を伝えるために口を開く。

「次の紅白戦では俺とあーちゃんは別チームになるから、覚悟しといてくれ」
「え゛」

 暗に今回のように順風満帆には行かせないぞと告げると、彼女は分かり易く動揺したような声を出してそのまま固まってしまった。
 少し意地悪が過ぎたか。
 補足を入れよう。

「勿論、その時はナックルも使っていいから」
「…………それなら、まあ」

 俺の言葉に、一時停止していた美海ちゃんが再起動する。
 新たに習得した2種の変化球にナックルを織り交ぜれば、たとえ俺やあーちゃんが相手でも太刀打ちできる可能性が十分にある。
 そんな感覚を抱いていることが分かる口振りだ。

「うん。正直、秀治郎とも勝負してみたかったし、いい機会かもしれないわね」

 過信か、あるいは自信か。
 それは次回紅白戦の対戦結果次第ではある。
 しかし、挑戦しようという気持ちを抱いてくれるだけ本当にありがたい。
 さすがは美海ちゃんと言うべきか。
 あーちゃんに次いでつき合いが長いだけのことはある。
 心強い限りだ。

「みなみー、完全復活?」
「……復活ってよりかは、新生、かしらね」

 若干格好をつけた発言には触れないでおくとして。
 やはり試合形式だからこそ得られるものも多かったのだろう。

 村山マダーレッドサフフラワーズは元々、得点力に限って言えば俺やあーちゃんを除いたとしても1部リーグ並だった。
 で、今回の紅白戦。紅組には去年のレギュラーが多く割り振られていた。
 彼らは打撃練習などで俺が投げる球を何度も経験している。
 そんな相手を、2回とは言えナックルを封印した状態で抑えることができた。
 まあ、慎重になり過ぎたサスケ選手を除くと三振こそなかったが……。
 効率よく打ち取っていったのは素晴らしい。
 そのおかげで美海ちゃんは、あの番組に端を発した一連の流れの中で芽生えて未だ僅かに残っていただろう不安感を払拭することができたようだった。

 勿論、それは美海ちゃん1人の功績ではない。
 倉本さんが持つキャッチャー用のスキルの効果も大きい。
 最高球速以外のピッチャー能力にバフがかかっており、それによって美海ちゃんは球速以外の部分では平均以上どころかトップクラスの能力となっている。
 その辺も全て分かっている俺からすると。
 2回無失点という結果は何ら驚くようなものではなかった。

「まあ、とにかく。今回の紅白戦で美海ちゃんも倉本さんも、昇二もしっかりと活躍してくれたおかげで今後色々と推しやすくなったよ。ありがとう」
「え? う、うん。……じゃなくて、私は私のためにやってるだけよ」

 最初素直に頷いてから、美海ちゃん誤魔化すようにツンとした態度を見せる。
 その頬はちょっとだけ赤くなっているし、微妙に緩んでもいる。
 嬉しさを隠し切れていない。

「ウチもそうっす。あくまで自分のためっすよ」

 対して、倉本さんの場合は徹頭徹尾本心という感じだ。
 彼女的には、むしろ俺を利用しているような心持ちなのだろう。

「うん。僕も、ここまで来たのは自分の選択だよ」

 昇二もまた、同意するように力強く首を縦に振っていた。
【成長タイプ:マニュアル】の諸々の弊害があって尚、野球にしがみつこうとしていた彼だけにこちらも紛うことなき本音なのは間違いない。

「……そうだな」

 どうあれ、そういう風に言ってくれると気が楽になる。
 彼らの人生をこちらの都合で捻じ曲げた事実が変わることはない。
 少なくとも俺の中では。
 故に、これで本当によかったのかという自問自答は一生つきまとうことだろう。
 だからこそ、定期的にそういった言葉を貰おうとしている側面もなくはない。
 そんな俺の矮小な心まで理解しているのは、ちょっとした気持ちの変化に【以心伝心】で気づいて気遣うように寄り添っているあーちゃんぐらいのものだ。
 恐らく、今生を通してそうだろうと思う。

「ただ、折角活躍してもチームが負けてりゃ世話ないわよね」

 話を変えた美海ちゃんに、内に向けていた意識を外に戻す。

「昇二君の紅組は勝ったからいいかもしれないけど」
「いや、こっちはこっちで課題がボロボロ出てきてたけどね」

 美海ちゃんが口にした通り、今回の紅白戦は紅組の勝利に終わっていた。
 ちなみにスコアは20-10だった。
 見ての通り、白組は美海ちゃんを除く投手陣がボロボロだった。
 ダブルスコアでの敗戦と何とも情けない限り。
 半面、紅組も10失点と昇二がもどかしげなのも理解できる数字だった。
 先制したのは白組だったしな。
 とは言え、俺とあーちゃんと倉本さんがいる打線を相手にした上での結果と考えると、まあ、こんなもんだろうという感覚も俺にはあった。

「うーん……この先、こういうことは何度もあるんだろうけど……」

 勝っている状態で降板し、後続の投手が逆転されて負けてしまう。
 先発投手あるあるではある。

「あの人達、大丈夫なんすかね。あれで」

 誰とは名指しせずに首を傾げる倉本さん。
 白組敗北の原因はいくつかあるが、今回は特に明白な部分があった。
 負けに不思議の負けはないとはよく言ったものだ。

 まず、美海ちゃんの後を引き継いだ松元投手と田之上投手が大炎上したこと。
 それぞれ2回7失点だった。
 エラーも絡んではいたものの、彼らもピリッとしない投球内容だった。
 四球でランナーを溜めて大量失点。
 最もストレスフルな展開だ。

 野手では藤川選手と山元選手。
 2人合わせて5併殺に4失策。
 攻守共に流れを悪くするなど、全く以っていいとこなしだった。
 ここまでやらかされると、さすがに他の選手でカバーし切れない。

「練習を見ててもモチベーションが低いわよね」
「……最近は、そうだな」

 去年はそんなことなかったのだが。
 だからこそ明確に違いが見て取れた。

 松元選手、田之上選手、藤川選手、山元選手。
 この4人は目に見えてモチベーションが下がっていた。
 練習終わりには夜のお店に繰り出している様子で、こんな悲惨な結果に終わった試合の後も特に気にした素振りもなく贔屓の子に会いに行ってしまった。

 勿論、ストレス発散の仕方は人それぞれだ。
 練習の時間外に何をしていようと、節度と法律を守っていればその人の勝手だ。
 好きにすればいいと思う。
 しかし、仕事に支障が出るのはよろしくない。

「ただ、まあ、この2年で環境が一気に変わったのも確かだからなあ」

 自分自身の立場も。
 周りからの扱われ方も。

 サラリーマンの給料から部費を払って野球をしていたクラブチーム時代から、最低年俸3000万円の高給取りに。
 1部リーグのプロ野球選手というこの世界最高の肩書を得たことによって、会う人会う人にチヤホヤされてもいるだろう。
 たとえ今季限りでクビになったとしても、かつて1部リーグに在籍していたプロ野球選手となれば再就職は容易い。待遇もかつての比ではない。
 もはや人生上がりとばかりに、野球への意欲が低下してしまう人がいたとしても不思議なことではないのかもしれない。

 しかし、こういうことが起こるとすれば、意識が低い印象があった山田選手の方だろうかと何となく思っていたのだが……。
 彼は今も淡々と練習してるんだよな。
 彼の場合は、あるいは意識が低いというより我が弱いだけなのかもしれない。
 従うべき相手を間違えさえしなければ、その方が結果としていいこともあるか。
 人の心というものは、さすがにコントロールし切れないからな。
【マニュアル操作】最大の難敵だ。
 いい大人だけに修正が利くとも限らない。

「……とりあえず、彼らには反面教師になって貰うしかないか」

 俺達がわざわざそこまでする義理もないからな。
 その結論がフラグになった訳ではないだろうが――。

 数日後。
 写真週刊誌に村山マダーレッドサフフラワーズ夜遊びカルテットなどという見出しと共に、夜のお店に入り浸る彼らの姿がすっぱ抜かれていた。
 ゴシップ記者に目をつけられる。
 これもまた周囲の環境の変化の1つと言える。

「……最低っすね」
「全くだわ」

 女性陣の目があるおかげか、追従する選手が他に出ていないのは幸いだった。
 とりあえず、そう考えておくしかない。
 しかし、彼女達の冷たい反応は見ていて肝が冷えるな……。
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