第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第3章 日本プロ野球1部リーグ編

250 日本シリーズ準決勝ステージ決着

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 攻守交替。兵庫ブルーヴォルテックスの攻撃は下位打線の8番バッターから。
 彼らもどうにかして意地を見せたかったに違いないが、2者連続で三振に倒れて簡単に2アウトになってしまった。
 しかも最終回にして6点差ついている。
 ここから勝利するには、まずビッグイニングを作らなければ話にもならない。
 野球は9回2アウトからとはよく言われることではあるものの、今正にそんな彼らの前に立ち塞がっているのは俺という日本野球界の異物。
 せめて消耗していればというところだが、ここまで僅か77球。
 数字の上では全く期待できないし、投球を見ても疲労は微塵も感じられない。
 実際に俺自身、疲れなどない。
 逆転サヨナラどころか、同点延長すら絶望的な場面と言っても過言ではない。
 アウトになった時点で本日のラストバッターとなる。
 そんな状況下で1番の佐藤壱郎選手が粛々とバッターボックスに入ってきた。
 プレッシャーなどないかのように、ルーティーンの動きをして構えを取る。
 今日の試合、唯一出塁している選手だ。
 しかし、それは初回だけのこと。
 その後は打ち取っている。だから、余り意識することなく――。

 ――カンッ!

 投じた外角低めへのストレートは不用意だった。
 それこそ初回の焼き直しのようにうまく叩きつけられてしまい、打球は高々とバウンドしながら3塁へと転がっていった。
 佐藤壱郎選手は快足を飛ばし、送球より早く1塁を駆け抜けてセーフ。
 これはさすがに気持ちが緩み過ぎたか。
 もう磐城君との対戦はないだろうと、少し落胆していたのは正直否めない。
 気持ちを引き締め直さなければ。
 そう自らに言い聞かせたが……。
 油断によって1度作られた悪い流れは、容易く引き戻せないものなのだろう。

 ――カンッ!

 2番の塩口選手に投じた内角低めへのカットボールはショートへのゴロ。
 打ち取った当たりだった。
 2塁ベースの真横だったこともあり、アンダートスでボールをセカンドへ。
 これでアウトかと思いきや、佐藤壱郎選手はその前に2塁に滑り込んでいた。
 結果、オールセーフ。
 フィルダースチョイスとなってしまい、2アウトランナー1塁2塁。

 ――カンッ!

 続く3番の山選手の打球はセカンド真正面への何の変哲もないゴロ。
 これは倉本さんが捕球し、落ち着いて1塁に送球する。

「あ」

 しかし、幾度かの代打と守備交代を経て9回裏からファーストに入っていた藤川選手はイージーなそれを弾いてしまった。
 転がったボールを俺がバックアップとして拾い上げるまでの間に山選手は出塁。
 早々に1塁は無理だと判断していた俺は、3塁に行った佐藤壱郎選手が隙をついてホームを陥れようとしないようにそちらを注視した。
 彼が3塁ベース上で動かないのを確認してから警戒を解く。
 記録はファーストのエラー。2アウト満塁。
 仕組まれたかのように4番の磐城君の打席が巡ってきた。
 そう簡単には勝たせないと何者かが告げているかのようだ。

「……まあ、今は真剣勝負ができると喜んでおくか」

 マウンドの上から彼の表情を確認し、呟きながら自然と口元に笑みを浮かべる。
 構えを取った磐城君の目線は真っ直ぐにこちらに向いていた。
 しかし、その瞳は俺という人間を捉えているような感じがしない。
 友人ではなく、越えるべき壁をただただ冷徹に見据えているかのようで……。
 今までとは纏っている気配からして全く違っていた。
 前の打席にはあった雑念のようなものは、もはや欠片も存在していない。

 第1打席は1回裏。1回表に特大ホームランを俺に打たれた直後のことだった。
 第2打席は倉本さんへの不本意な申告敬遠の後。
 第3打席も俺と倉本さんに繰り返し申告敬遠した影響がどことなく感じられた。
 僅かに申し訳なさが混じっているような……。
 真剣に勝負には臨んでいるものの、完全には集中し切れていない印象があった。

 それとは対照的に、今の磐城君は余計なしがらみから完全に解放されている。
 いくら満塁の状況になったとは言え、ホームランを打ったところで6-4。
 勝利の可能性は限りなく低い。
 同点にしなければ10回表の登板機会も訪れない。
 だから一先ず試合の勝敗も、ピッチャーとしての責任も全部脇に置いて。
 純粋に投手野村秀治郎に挑むことだけに心血を注ごうとしている。
 間違いなく超集中状態に入っている。
 マウンドから見ても、そうだと分かった。

「正樹に触発されたんだろうな」

 9回表に代打で出場し、復帰第1打席目を満塁ホームランで飾った正樹。
 そんな彼の極まった集中力を真正面から目の当たりにしたことによって。
 ようやく目の前の打席に専念するというバッターの基本に立ち返れたのだろう。
 おかげで、バッティングに没頭した磐城君と今日初めて対峙することができた。
 そう考えると、彼まで打順が回ってよかったとも思う。

 磐城君には本来、超集中状態に至れるだけの十分な集中力がある。
 アマチュア時代、彼が実際にこの境地に入ったのを見たこともあるからな。
 ただ、この試合では立ち上がりホームランで出鼻を挫かれたり、野球人生を通じて稀な申告敬遠を無理に受け入れたりしたことがノイズになってしまっていた。
 それを精神的な脆さと言われてしまったら否定することはできないが……。
 さすがに二刀流の選手に多くを求め過ぎだろう。
 エースピッチャーと主軸打者。
 レギュラーシーズンからこっち、新人選手に重責を負わせ続けているのだ。
 チーム全体で全面的にバックアップする体制を作ってもいいぐらいだ。
 ……話が逸れたな。

 何はともあれ。
 磐城君には改めてこの感覚を己に刻みつけ、どうにか意識的に超集中状態へと移行できるように自分なりのやり方を掴んで欲しい。
 地力で劣る俺達にとって、これは打倒アメリカのために不可欠な技術だからな。
 アメリカ代表クラスのバッターとの対戦経験を日本国内で得るのにも使える。
 安定して超集中状態を扱うことのできる人材は何人いたっていい。

 なんて俺の願望こそ試合中にはノイズだな。
 今の磐城君は正にこの試合最大の強敵。
 最後の最後にやってきた大一番。しかも満塁という大ピンチ。
 ここを抑えてこそ、この試合でなすべきことを全てなしたと言えるだろう。
 後は日本シリーズ準決勝ステージを突破するだけだ。

「さて……」

 4打席目にして遂に最高の状態となった磐城君に対し、まずは1球目。
 外角低めからボールゾーンに逃げていくシュートを投げ込む。
 彼はスイングを始動していたものの、超集中状態の引き伸ばされた時間の中で正確に変化を見極めてバットを途中でとめた。

「ボール」

 あーちゃんが球審にチェックを要請するも、1塁塁審はセーフのジェスチャー。
 その間も磐城君は集中を乱されることはなかった。
 早々にバットを構え、静かに投球を待つ。
 こういう場面でキャッチャーがタイムをかけて間を取ったりするのも1つの手ではあるけれども、さすがにこの場では無粋というものだろう。
 そういった形で集中力を乱しに行くのはまた別の機会でいい。
 それよりも──。

「もう1歩進めようか」

 2球目はカーブ。内角低めいっぱいに決まる軌道。
 それを狙っていたかのように、磐城君はフルスイングですくい上げようとした。

 ──カキンッ!
「ファウル!」

 恐ろしい速度でレフトへ飛んだ打球は、しかし、ファウルゾーンで場外へ。
 スイングのタイミングが僅かに早かった。
 今投げたのは単なるカーブではない。割と遅めのカーブだ。
 かと言ってスローカーブではなく、それに比べると少し速い。
 変化量は中程度。
 速度も完全に制御して段階をいくつか作れば、選択肢は倍以上になる。
 加えて、この組み合わせは初。
 超集中状態となった磐城君でも捉え切れなかったようだ。
 しかし、後少し溜めることができていればホームランにされていただろう。

 これもまた紙一重、だな。

 そう思いながら投球モーションに入る。
 3球目はアウトコース低めいっぱいへのストレート。

 ──カキンッ!
「ファウル!」

 緩いカーブから170km/hのフォーシーム。
 さすがの磐城君も差し込まれてしまったようだ。
 それでもライトポール際への超特大ファウル。
 またも紙一重。
 投球の幅を更に広げていなければ、間違いなくホームランにされていただろう。

 それにしても。
 何故か磐城君までフライボール革命染みたアッパースイングを使ってきてるな。
 リハビリ中にその考え方に触れていた正樹はともかくとして。
 磐城君は【生得スキル】【模倣】の隠し効果か何かだろうか。
 テキストにはそんな記載はなかったはずだが……。
 意図してのことか無意識でのことかは分からないが、俺と正樹のバッティングを目の当たりにしてそれに倣ったのかもしれない。
 学ぶは真似ぶ。何も悪いことではない。
 だが、絶対的に有効だと妄信し、固執してしまってはいけない。

「それを使うにしても、メリットとデメリットをちゃんと把握してるか?」

 このアッパースイングには明確な欠点がある。
 とにかく高めの速い球が打ちにくい。
 低めを打つにはいいが、高めは打ち上げるだけになってしまう懸念が大きい。
 下手をすると、悲しくなるぐらい不細工な空振りに終わりかねない。
 だからこそ前世のフライボール革命は高めを攻められ、下火となってしまった。
 トレンドは巡るもの。
 変に癖がつく前に、ここで先手を打って弱点を突かせて貰うとしよう。
 フライボール革命で満足して歩みをとめることのないように。

 そして俺はプレートの左端に立ち……。
 極々僅かにストライクゾーンを通過するクロスファイヤーで内角高めを抉った。
 1ボール2ストライクからの4球目。
 追い込まれていた磐城君は、窮屈な形でアッパースイングをしてしまった。

 ――パァンッ!

 ボールは彼のバットに掠りもせず、あーちゃんのキャッチャーミットに収まる。
 空振り三振。3アウト。3者残塁。

「ゲーム(セット)!」

 これによって日本シリーズ準決勝ステージ初戦は決着。
 エースで負けてしまった兵庫ブルーヴォルテックスに、もはや勝機はなかった。
 村山マダーレッドサフフラワーズは神戸エメラルド球場での2試合目に勝利。
 戦いの場を山形きらきらスタジアムに移し、2連勝。
 こうして日本シリーズ準決勝ステージを負けなしの4連勝で突破した俺達は、東京プレスギガンテスとの決勝ステージに駒を進めたのだった。
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