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最終章 転生野球大戦編
294 縁の下の力持ち
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2回の裏。イタリア代表の攻撃は4番バッターのルカ選手からの打順だった。
その彼は鋭く曲がってストライクゾーンから外れた磐城君のシンカーをうまいこと弾き返してツーベースヒットで出塁し、今はノーアウトでランナー2塁の場面。
長打を放ってセカンドベースの上にいるルカ選手は、しかし、自分の思い描いた通りの結果を出すことができなかったのか、俺を睨みつけているが……。
正直なところ、そうしたいのは出塁を許してしまったコチラの方だ。
チームの顔として真っ先に挙げられる彼の活躍は、それこそイタリア代表全体を勢いづかせる切っかけにもなりかねない。
そうでなくとも、アウトにできるのであれば当然それに越したことはない。
しかし、扇の要のキャッチャーとしては平静でいる必要がある。
なので、狙い通りだったかのように不敵な態度を見せつけておく。
それによって尚一層のこと、ルカ選手は苛立ったような表情を浮かべていた。
試合の真っ只中であれ、自分の感情を素直に出すことに変わりはないようだ。
彼は熱い気持ちを顕にすることで牽引していくタイプでもあるのかもしれない。
一方で、先程の打席のルカ選手には超集中状態に入る気配が全くなかった。
わざとではないだろう。
これまでのルカ選手の言動と今正に塁上で明らかに不満げな様子を見せていることから考えても、単純に入りたくても入れなかったと考えるのが妥当だ。
もしかすると彼は、転生時にデフォルトで与えられた【離見の見】を超集中状態に対応した一種のトリガーとして活用できていないのかもしれない。
まあ、俺だって野球ゲームの経験からうまいこと紐づけできなかったら、パブロフの犬の如く条件づけが完了した状態にまで至れなかったはずだしな。
実際にゾーンに入ったことのあるスポーツ選手でもない限り、前世と今生をひっくるめた己の過去にヒントがなければ大幅に難易度が変わってきてしまうだろう。
真っ当なスポーツマンがあのタイミングで魂ドラフトに残っている訳もない。
あの時点で神の食指が動いていない味噌っカスがあの視点を疑似的にでも体験できる何かがあるとすれば、割とゲームぐらいのもののような気がする。
更に言えば、前世のお国柄というのも若干はありそうだ。
ヨーロッパの中では強豪とは言え、イタリア人に馴染み深いのはサッカーだ。
サッカーのスポーツ中継は俯瞰がメインだし、ゲームにしても基本的には同じ。
シームレスでクローズアップされることもあるが、おおよそ流れの中でのこと。
1球毎に仕切り直しするバッティングとかピッチングは中々難しく感じる。
フリーキックやコーナーキック、PKだったら割と近い部分があるかもしれないが、それは試合全体で見ると時間的に大きな割合を占める要素ではない。
そういった部分もまた、ルカ選手が【離見の見】をうまく活用できていない要因の1つになっていると言えるのかもしれない。
そんな風に考察しながら彼の厳しい視線はサラッと受け流し、左のバッターボックスに入った5番バッターのアントニーノ選手を観察する。
ルカ選手共々彫りが深いイタリア人のイケメンだが、少々系統が異なっている。
プラチナブロンド(天然かは不明)のおかげか爽やかなタイプのルカ選手とは違い、黒髪で口髭と顎髭が濃いアントニーノ選手は非常にワイルドな印象がある。
見た目だけだったら、こっちの方が豪快に長打を放ちそうだ。
とは言え、数字の上では彼は巧打者という評価の方が相応しい。
【成長タイプ:マニュアル】でステータスはカンストしているのでパワーもチーム随一だが、ランナーがいる場面ではチームバッティングに徹しているためだ。
今は4点差という状況も相まって、イタリア代表チームとしては是が非でもこのランナーを得点に繋げたいはず。
そう考えると、チャンスで彼の打順を迎えるのは好ましい状況ではあるだろう。
『よろしくお願いします。アントニーノ選手』
『………………ああ』
キャッチャースボックスから声をかけると、大分遅れて返事が来る。
イタリア人ながら、無駄口を叩かないタイプのようだ。
いや、試合中に反応してくれただけ十分社交的と言っていいかもしれない。
いずれにしても、ステレオタイプな人間ばかりでもないのは当然の話だ。
まあ、内面はイタリア人らしい情熱的な人間である可能性も勿論あるけれども。
『……ルカ選手をコントロールするのは大変じゃないですか?』
磐城君とサイン交換を行ないながら、ささやきを実行して情報収集を試みる。
対するアントニーノ選手は無言。
それはそれで彼自身の人となりが僅かなりとも分かるので無駄にはならない。
結局、返答がないまま磐城君が1球目を投じた。
「ボールッ!」
アウトコース高めの明らかな見せ球。
162km/hの直球をアントニーノ選手は軽く見送って1ボール。
ルカ選手もさすがに3盗を仕かけてくる気配はなさそうだな。
そう思いながらボールを磐城君に戻す。
それから、もう少し何か別方向から囁こうかと考えていると──。
『アイツは自由にやらせるのがいいし、誰にもそれを邪魔させはしない』
アントニーノ選手から答えが返ってきた。
その声色にはルカ選手に心酔しているような雰囲気が滲み出ていた。
【成長タイプ:マニュアル】のアントニーノ選手だ。
彼もまた運動音痴として不遇な少年時代を過ごしていたのだろう。
そして、その状況からルカ選手に救われた。どのような形であれ。
そう考えると、彼を慕うのも無理もない話だ。
ルカ選手第一主義のようなことを言い出すのも頷ける。
『他の皆さんも同じ方針ですか』
『当然だ』
まあ、実際にそこまで強い気持ちを抱いているのは同じキウーザ・カネデルリの選手だけだろうとは思うけれども。
やはり【成長タイプ】と【体格補正】の格差は如何ともしがたいからな。
女性選手に関しても、尽く叶わぬ夢を叶えて貰ったようなものだろうし。
人生を丸ごと救われたように感じていても不思議ではない。
ルカ選手が自分本位に目立とうとし、しかし、周りはそれを当たり前のことのように受け入れて自主的に盛り立てていく。
それがイタリア代表の基本的なスタイルなのだろう。
そして実際に、今のイタリア代表にとってはそれが最善の戦略に違いない。
彼に匹敵するレベルの2番手ピッチャーを作らない限りはそれ以外にない。
『……それではWBWを勝ち抜けませんよ』
『アメリカ代表に勝つ可能性はその方がある』
それは……そうかもしれない。
注目が分散するとルカ選手のパフォーマンスが下がる恐れもあるからな。
一点集中してプレイのクオリティを上げた方が勝率は高そうだ。
限りなくゼロに近い確率の中で、誤差にしか思えない程度かもしれないが。
しかし、余りにも1人に集約し過ぎているのは怖い。
俺にはそんな選択はできないな。手札はあるだけ欲しいし。
いずれにしても、そういった相手の攻略方法は単純だ。
『……であれば、こちらはルカ選手を封じ込める方向で戦います』
『想定内だ』
ルカ選手と心中するようなチームの方針なら、その彼を叩く。
イタリア代表チーム側も当然、その程度のことは理解している。
ストロングポイントが明確なだけに、そこを活かすか、潰せるか。
その攻防こそがこの特別強化試合の肝だと改めて思わされる。
とは言え、まずは目の前のこと。
アントニーノ選手との勝負に意識を集中する。
チームバッティングを優先させる彼だ。
狙いはルカ選手を本塁に返すこと。最低限は彼の進塁。
となれば、左バッターの彼は1塁方向に引っ張ろうとするだろう。
基本的には転がして、間を抜けていけば万々歳。
彼らが縁の下の力持ちとして、自分達は少しでも確率の高い野球をする。
だからこそルカ選手が輝く。
【戦績】からもそういった考えが透けて見える。
そうした前提の下。
一応はルカ選手の3盗も警戒しながら、磐城君へのサインは速い変化球。
ワンシームをアウトコース低めストライクゾーンいっぱいに要求する。
結局のところ、この場は高めに投げて長打を浴びてしまう方が怖い。
低めに投げ、アントニーノ選手の思惑に乗ってゴロを打って貰った方がいい。
球数を増やすよりはいいという判断だ。
――カツンッ!
案の定。アントニーノ選手は無理矢理引っ張った。
打球は1、2塁間を抜けようかというゴロ。
しかし、それを【軌道解析】で読んだ倉本さんがダイビングキャッチする。
バットの先端ながら自前のパワーによって打球速度はかなり速かったが、こうなるとルカ選手の進塁を妨げるものはない。
立ち上がった倉本さんは無理せず1塁の黒井選手に投げて1アウト。
ルカ選手は1つ塁を進んでランナー3塁となった。
アウトカウントには余裕があり、ゴロやフライでも行方によっては1点入る。
続く6番DHのリリアナ選手の狙いの最低ラインは犠牲フライというところか。
ならば高めを待つだろうと、一先ず低めの球で2ストライクまで追い込む。
どうやらリリアナ選手はかなり素直な人柄のようだ。
追い込まれて、分かりやすく構えが変わる。
3球目。高めの変化球で仕かける。
自分の体に向かってくるシュート。
高さもストライクゾーンから外れ、コースも内だ。
それでもリリアナ選手は振りに行く。
――カンッ!
打球は上がったが、バットの芯より内側。
詰まった当たり。
普通なら内野フライに打ち取った感覚だが――。
「……やっぱ生半可なスペックじゃないな」
【比翼連理】は持たずとも【パトロネージュ(対女性)】の影響下にある選手だ。
カンストしたステータスの上に【体格補正】のマイナスも緩和されている。
並の選手と同一視できるはずもなく、打球は高々と上がってキッチリと外野の定位置より少し先まで飛んでいく。
ルカ選手はタッチアップの構え。
レフトの山崎選手は後ろに下がって落下地点を少し過ぎる。
彼はそこから助走をつけて飛球を捕り、レーザービームの如くバックホーム。
ストライク返球だった。
それこそ普通の野手なら刺すことができただろう。
しかし――。
「……速いな。これはレジェンド級か」
ルカ選手のスピードはこの試合の出場者の中では間違いなく最速。
彼は俺のタッチよりも僅かに早くホームを陥れていた。
結果としてリリアナ選手の犠牲フライによって1点。
スコアは4-1。
しっかりとヒット以外で点を取ってくる姿勢は強敵と呼ぶに相応しい。
そうして点差は縮まってしまったものの、一方でランナーはいなくなった。
尚且つ2アウト。
磐城君としては気が楽になった部分もあるだろう。
俺もまた続く7番のベアトリーチェ選手の打席では、彼女にだけ集中できた。
多段変化で幻惑して仕留め、2回の攻防もまた終わりを告げる。
3回の表はバッターとしてピッチャーのルカ選手との対戦がある。
1点取られてしまったからには取り返してやらなければ。
その彼は鋭く曲がってストライクゾーンから外れた磐城君のシンカーをうまいこと弾き返してツーベースヒットで出塁し、今はノーアウトでランナー2塁の場面。
長打を放ってセカンドベースの上にいるルカ選手は、しかし、自分の思い描いた通りの結果を出すことができなかったのか、俺を睨みつけているが……。
正直なところ、そうしたいのは出塁を許してしまったコチラの方だ。
チームの顔として真っ先に挙げられる彼の活躍は、それこそイタリア代表全体を勢いづかせる切っかけにもなりかねない。
そうでなくとも、アウトにできるのであれば当然それに越したことはない。
しかし、扇の要のキャッチャーとしては平静でいる必要がある。
なので、狙い通りだったかのように不敵な態度を見せつけておく。
それによって尚一層のこと、ルカ選手は苛立ったような表情を浮かべていた。
試合の真っ只中であれ、自分の感情を素直に出すことに変わりはないようだ。
彼は熱い気持ちを顕にすることで牽引していくタイプでもあるのかもしれない。
一方で、先程の打席のルカ選手には超集中状態に入る気配が全くなかった。
わざとではないだろう。
これまでのルカ選手の言動と今正に塁上で明らかに不満げな様子を見せていることから考えても、単純に入りたくても入れなかったと考えるのが妥当だ。
もしかすると彼は、転生時にデフォルトで与えられた【離見の見】を超集中状態に対応した一種のトリガーとして活用できていないのかもしれない。
まあ、俺だって野球ゲームの経験からうまいこと紐づけできなかったら、パブロフの犬の如く条件づけが完了した状態にまで至れなかったはずだしな。
実際にゾーンに入ったことのあるスポーツ選手でもない限り、前世と今生をひっくるめた己の過去にヒントがなければ大幅に難易度が変わってきてしまうだろう。
真っ当なスポーツマンがあのタイミングで魂ドラフトに残っている訳もない。
あの時点で神の食指が動いていない味噌っカスがあの視点を疑似的にでも体験できる何かがあるとすれば、割とゲームぐらいのもののような気がする。
更に言えば、前世のお国柄というのも若干はありそうだ。
ヨーロッパの中では強豪とは言え、イタリア人に馴染み深いのはサッカーだ。
サッカーのスポーツ中継は俯瞰がメインだし、ゲームにしても基本的には同じ。
シームレスでクローズアップされることもあるが、おおよそ流れの中でのこと。
1球毎に仕切り直しするバッティングとかピッチングは中々難しく感じる。
フリーキックやコーナーキック、PKだったら割と近い部分があるかもしれないが、それは試合全体で見ると時間的に大きな割合を占める要素ではない。
そういった部分もまた、ルカ選手が【離見の見】をうまく活用できていない要因の1つになっていると言えるのかもしれない。
そんな風に考察しながら彼の厳しい視線はサラッと受け流し、左のバッターボックスに入った5番バッターのアントニーノ選手を観察する。
ルカ選手共々彫りが深いイタリア人のイケメンだが、少々系統が異なっている。
プラチナブロンド(天然かは不明)のおかげか爽やかなタイプのルカ選手とは違い、黒髪で口髭と顎髭が濃いアントニーノ選手は非常にワイルドな印象がある。
見た目だけだったら、こっちの方が豪快に長打を放ちそうだ。
とは言え、数字の上では彼は巧打者という評価の方が相応しい。
【成長タイプ:マニュアル】でステータスはカンストしているのでパワーもチーム随一だが、ランナーがいる場面ではチームバッティングに徹しているためだ。
今は4点差という状況も相まって、イタリア代表チームとしては是が非でもこのランナーを得点に繋げたいはず。
そう考えると、チャンスで彼の打順を迎えるのは好ましい状況ではあるだろう。
『よろしくお願いします。アントニーノ選手』
『………………ああ』
キャッチャースボックスから声をかけると、大分遅れて返事が来る。
イタリア人ながら、無駄口を叩かないタイプのようだ。
いや、試合中に反応してくれただけ十分社交的と言っていいかもしれない。
いずれにしても、ステレオタイプな人間ばかりでもないのは当然の話だ。
まあ、内面はイタリア人らしい情熱的な人間である可能性も勿論あるけれども。
『……ルカ選手をコントロールするのは大変じゃないですか?』
磐城君とサイン交換を行ないながら、ささやきを実行して情報収集を試みる。
対するアントニーノ選手は無言。
それはそれで彼自身の人となりが僅かなりとも分かるので無駄にはならない。
結局、返答がないまま磐城君が1球目を投じた。
「ボールッ!」
アウトコース高めの明らかな見せ球。
162km/hの直球をアントニーノ選手は軽く見送って1ボール。
ルカ選手もさすがに3盗を仕かけてくる気配はなさそうだな。
そう思いながらボールを磐城君に戻す。
それから、もう少し何か別方向から囁こうかと考えていると──。
『アイツは自由にやらせるのがいいし、誰にもそれを邪魔させはしない』
アントニーノ選手から答えが返ってきた。
その声色にはルカ選手に心酔しているような雰囲気が滲み出ていた。
【成長タイプ:マニュアル】のアントニーノ選手だ。
彼もまた運動音痴として不遇な少年時代を過ごしていたのだろう。
そして、その状況からルカ選手に救われた。どのような形であれ。
そう考えると、彼を慕うのも無理もない話だ。
ルカ選手第一主義のようなことを言い出すのも頷ける。
『他の皆さんも同じ方針ですか』
『当然だ』
まあ、実際にそこまで強い気持ちを抱いているのは同じキウーザ・カネデルリの選手だけだろうとは思うけれども。
やはり【成長タイプ】と【体格補正】の格差は如何ともしがたいからな。
女性選手に関しても、尽く叶わぬ夢を叶えて貰ったようなものだろうし。
人生を丸ごと救われたように感じていても不思議ではない。
ルカ選手が自分本位に目立とうとし、しかし、周りはそれを当たり前のことのように受け入れて自主的に盛り立てていく。
それがイタリア代表の基本的なスタイルなのだろう。
そして実際に、今のイタリア代表にとってはそれが最善の戦略に違いない。
彼に匹敵するレベルの2番手ピッチャーを作らない限りはそれ以外にない。
『……それではWBWを勝ち抜けませんよ』
『アメリカ代表に勝つ可能性はその方がある』
それは……そうかもしれない。
注目が分散するとルカ選手のパフォーマンスが下がる恐れもあるからな。
一点集中してプレイのクオリティを上げた方が勝率は高そうだ。
限りなくゼロに近い確率の中で、誤差にしか思えない程度かもしれないが。
しかし、余りにも1人に集約し過ぎているのは怖い。
俺にはそんな選択はできないな。手札はあるだけ欲しいし。
いずれにしても、そういった相手の攻略方法は単純だ。
『……であれば、こちらはルカ選手を封じ込める方向で戦います』
『想定内だ』
ルカ選手と心中するようなチームの方針なら、その彼を叩く。
イタリア代表チーム側も当然、その程度のことは理解している。
ストロングポイントが明確なだけに、そこを活かすか、潰せるか。
その攻防こそがこの特別強化試合の肝だと改めて思わされる。
とは言え、まずは目の前のこと。
アントニーノ選手との勝負に意識を集中する。
チームバッティングを優先させる彼だ。
狙いはルカ選手を本塁に返すこと。最低限は彼の進塁。
となれば、左バッターの彼は1塁方向に引っ張ろうとするだろう。
基本的には転がして、間を抜けていけば万々歳。
彼らが縁の下の力持ちとして、自分達は少しでも確率の高い野球をする。
だからこそルカ選手が輝く。
【戦績】からもそういった考えが透けて見える。
そうした前提の下。
一応はルカ選手の3盗も警戒しながら、磐城君へのサインは速い変化球。
ワンシームをアウトコース低めストライクゾーンいっぱいに要求する。
結局のところ、この場は高めに投げて長打を浴びてしまう方が怖い。
低めに投げ、アントニーノ選手の思惑に乗ってゴロを打って貰った方がいい。
球数を増やすよりはいいという判断だ。
――カツンッ!
案の定。アントニーノ選手は無理矢理引っ張った。
打球は1、2塁間を抜けようかというゴロ。
しかし、それを【軌道解析】で読んだ倉本さんがダイビングキャッチする。
バットの先端ながら自前のパワーによって打球速度はかなり速かったが、こうなるとルカ選手の進塁を妨げるものはない。
立ち上がった倉本さんは無理せず1塁の黒井選手に投げて1アウト。
ルカ選手は1つ塁を進んでランナー3塁となった。
アウトカウントには余裕があり、ゴロやフライでも行方によっては1点入る。
続く6番DHのリリアナ選手の狙いの最低ラインは犠牲フライというところか。
ならば高めを待つだろうと、一先ず低めの球で2ストライクまで追い込む。
どうやらリリアナ選手はかなり素直な人柄のようだ。
追い込まれて、分かりやすく構えが変わる。
3球目。高めの変化球で仕かける。
自分の体に向かってくるシュート。
高さもストライクゾーンから外れ、コースも内だ。
それでもリリアナ選手は振りに行く。
――カンッ!
打球は上がったが、バットの芯より内側。
詰まった当たり。
普通なら内野フライに打ち取った感覚だが――。
「……やっぱ生半可なスペックじゃないな」
【比翼連理】は持たずとも【パトロネージュ(対女性)】の影響下にある選手だ。
カンストしたステータスの上に【体格補正】のマイナスも緩和されている。
並の選手と同一視できるはずもなく、打球は高々と上がってキッチリと外野の定位置より少し先まで飛んでいく。
ルカ選手はタッチアップの構え。
レフトの山崎選手は後ろに下がって落下地点を少し過ぎる。
彼はそこから助走をつけて飛球を捕り、レーザービームの如くバックホーム。
ストライク返球だった。
それこそ普通の野手なら刺すことができただろう。
しかし――。
「……速いな。これはレジェンド級か」
ルカ選手のスピードはこの試合の出場者の中では間違いなく最速。
彼は俺のタッチよりも僅かに早くホームを陥れていた。
結果としてリリアナ選手の犠牲フライによって1点。
スコアは4-1。
しっかりとヒット以外で点を取ってくる姿勢は強敵と呼ぶに相応しい。
そうして点差は縮まってしまったものの、一方でランナーはいなくなった。
尚且つ2アウト。
磐城君としては気が楽になった部分もあるだろう。
俺もまた続く7番のベアトリーチェ選手の打席では、彼女にだけ集中できた。
多段変化で幻惑して仕留め、2回の攻防もまた終わりを告げる。
3回の表はバッターとしてピッチャーのルカ選手との対戦がある。
1点取られてしまったからには取り返してやらなければ。
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