偽りの聖女にすべてを奪われたので、真実を見抜く『鑑定眼』で本物の逸材たちと逆襲します

希羽

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第六話:首都の動揺と、新たな災いの兆し

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 王都は、北の川岸で起きた一夜の「奇跡」の報せに揺れていた。

 私が騎士団長ギデオン・エアハルトに突きつけた反逆。そして、それを遥かに凌駕する、治水という圧倒的な事実。彼の報告は、王城の評議会を大いに混乱させた。法を破った罪人を罰するべきか。民を救った英雄として賞賛するべきか。答えの出ない議論が、ただ時間だけを浪費していた。

 その混乱の中心に、聖女セレスティーナは、いつもと変わらぬ穏やかな微笑を浮かべて立っていた。

「ああ、私の愛する姉、アニエス……。婚約を破棄された心の傷が、あの方をそのような無謀な行いに走らせてしまったのでしょうか」

 玉座の前で、彼女は悲しげに瞳を伏せる。その姿は、愚かな姉を憂う、慈愛に満ちた聖女そのものだった。

「ですが、皆様、お忘れなきよう。ヴァレリウスという男は、かつてその古びた知識で、国の発展を妨げようとした人物。そのような者の、付け焼刃の工事が、いつまでもつでしょう。いえ、むしろ……」

 そこでセレスティーナは言葉を切り、まるで天啓を得たかのように、はっと顔を上げた。

「恐ろしいことが視えます。無理に捻じ曲げられた水の流れが、大地の怒りを呼び覚ましました。濁った水は、やがて腐り、人々の体を蝕む、恐ろしい病をまき散らすでしょう!」

 彼女の「預言」に、大臣たちは息を呑んだ。それは、アニエスの功績を、より大きな災いの前兆へとすり替える、悪魔的な一手だった。そして、その災いを鎮めることができるのは、この国でただ一人、聖女である自分だけだと、暗に示していた。

 その日の午後、セレスティーナは「大いなる浄化の儀」を執り行うと宣言した。北河に聖なる力を注ぎ、来るべき厄災から民を守るのだという。王都の民は、再び聖女の名を熱狂的に讃え、辺境で起きた小さな町の出来事など、たちまちのうちに忘れ去っていった。

 その頃、北の町は、復興への活気に満ちていた。

 町の広場に事務所を構えた私とヴァレリウスのもとには、感謝する町の人々からの差し入れがひっきりなしに届いていた。ヴァレリウスは、町の若者たちに自身の技術を教えながら、北河全域にわたる恒久的な治水計画の策定に着手している。彼のオーラは、もはや一点の曇りもない、力強い花崗岩の輝きを放っていた。

 ギデオン率いる騎士団は、丘の上から我々を「監視」しているだけで、手出しはしてこない。否、できなかった。町の人々が、今や私たちの最も強固な盾となっていたからだ。

 穏やかな日々が数日続いたある日の午後、事務所に一人の男が血相を変えて駆け込んできた。下流の村の村長だった。

「た、助けてくだせぇ! 村で、奇妙な病が……!」

 彼の話は、にわかには信じがたいものだった。三日ほど前から、村人たちが次々と高熱を出して倒れ、体には不気味な紫の斑点が浮かび上がっているという。家畜も同じように次々と死に、村の井戸水は、なぜか奇妙な甘い香りと共に、僅かに濁っているのだと。

 私は、背筋が凍るのを感じた。セレスティーナの、あの「預言」が現実になっている。

「ヴァレリウス、すぐに村へ案内してもらいます。これは、ただの病ではないかもしれません」

 ヴァレリウスも事の重大さを理解し、すぐさま馬車を準備させた。

 村に到着した私たちが目にしたのは、まさに地獄絵図だった。あちこちの家から苦しげなうめき声が聞こえ、道端には死んだ家畜が打ち捨てられている。村全体が、死の匂いに満ちていた。

 私は問題の井戸へと向かい、桶で水を汲み上げた。村長の言う通り、水は微かに白く濁り、腐った蜜のような甘い匂いを放っている。私は、この水に『鑑定眼』を向けた。

 水そのもののオーラは、澄んだ青色のはずだ。しかし、目の前の水は、毒々しいほどの紫黒色のオーラを放っていた。それは、自然界には存在しない、人の手によって作り出された、悪意の色。

 間違いない。誰かが、井戸に毒を盛ったのだ。

 セレスティーナの顔が、脳裏に浮かぶ。自らの預言を成就させ、アニエスの功績を災いの元凶に仕立て上げるために、彼女がこの村を生贄に捧げたのだ。

(なんてこと……。自分の名声のために、罪のない人々を!)

 込み上げる怒りに、体の芯が震える。だが、今は怒りに身を任せている場合ではない。一刻も早く、この毒の正体を突き止め、解毒薬を作らねばならない。

 しかし、宮廷付きの優秀な薬師や医師は、皆、聖女であるセレスティーナの配下だ。私に力を貸してくれる者などいるはずもない。

 いや、一人だけいる。

 私の脳裏に、もう一つの「色」が浮かび上がっていた。かつて宮廷薬師の座を追われ、「禁断の研究に手を出した異端者」として、今は人里離れた森の奥で暮らしている、一人の男が。

 人々は彼を忌み嫌う。だが、私の『鑑定眼』だけが知っている。彼が放つ、夜空のように深く、無数の星々を宿した紺青色のオーラを。それは、あらゆる薬草の知識を知り尽くした、天才だけが持つ輝きだった。

「ヴァレリウス。急いで、人を探しに行かなければなりません」

 私は、決意を固めて立ち上がった。次なる逸材は、この国で最も嫌われた、孤高の天才薬師だ。
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