19 / 23
第十九話:観閲式の招待状と、小さな協力者
しおりを挟む
別邸での一件から二日、観閲式を明日に控えたその日、ラプレース家にも王宮から正式な招待状が届いた。
父様や母様は、年に一度の華やかな式典を前に、どこか浮き足立っている。けれど、私にとってその招待状は、決戦の場への召集令状のように思えてならなかった。
(観閲式で、ゲルハルト侯爵が動く…。でも、一体何を…?)
自室に戻った私は、カイル公爵様から預かったままになっている黒いマントを手に取った。
あの日以来、私は何度となくこのマントに触れ、彼の残響が聞こえないか試していた。しかし、あの時のような鮮明な声は、二度と聞こえることはなかった。
彼が今、どこで、何をしているのかを知る術はない。
ただ待っているだけではダメだ。
私にも、何かできることがあるはず。
私は、観閲式の次第が書かれた書類に目を落とした。国王陛下の閲兵、新型魔導兵器のお披露目、そして騎士団による模擬戦…。
(新型魔導兵器の燃料利権…公爵様の残響は、そう言っていたわ)
その兵器が、今回の騒動の鍵を握っていることは間違いない。
けれど、一介の伯爵令嬢である私に、軍の機密である新型兵器について調べる術などない。
途方に暮れかけた、その時だった。
ふと、私の脳裏に、ある人物の顔が思い浮かんだ。
明るくて、お喋りで、そして誰よりも王宮の噂話に精通している友人――マーサ様だ。
彼女の父親である子爵様は、確か、軍の兵站部に所属していたはず。もしかしたら、何か知っているかもしれない。
藁にもすがる思いで、私はマーサ様を訪ねることにした。
「まあ、エメリア様! 明日の観閲式、楽しみですわね! なんでも、今年はものすごい新型兵器がお披露目されるそうですわよ!」
お茶会に招くと、マーサ様は案の定、開口一番そう言って目を輝かせた。
私は、さりげなさを装って相槌を打つ。
「ええ、私も伺いましたわ。確か、燃料に特殊な鉱石を使うとか…」
「そうなの! 北方の蒼炎石という、ごく稀な魔石らしいですわ。父が申しておりましたけれど、その採掘権を巡って、最近貴族たちの間できな臭い動きがあるとかないとか…」
蒼炎石。
ゲルハルト侯爵が狙う鉱山は、きっとそれだ。
私は、さらに慎重に言葉を選んで尋ねた。
「その新型兵器、お披露目の際はどなたが操作を?」
「それが、まだ正式には発表されていないのですって。けれど、噂では、開発責任者であるゲルハルト侯爵様ご自身が、デモンストレーションを行うのではないか、と言われておりますわ」
「!」
ゲルハルト侯爵が、自ら。
国王陛下や貴族たちの目の前で、強力な兵器を操作する…。
その事実が、私の胸に不吉な影を落とした。彼は、一体その場で何をしようとしているのか。
「…ありがとう、マーサ様。とても参考になったわ」
「まあ、どういたしましたの? でも、お役に立てて嬉しいわ!」
友人との何気ない会話の中で、私は確かな手ごたえを感じていた。
侯爵の狙いは、観閲式という晴れの舞台で、新型兵器の性能を最大限にアピールし、その燃料である蒼炎石の利権を独占すること。そして、その過程で、邪魔なカイル公爵を何らかの形で陥れるつもりなのだ。
屋敷に戻る馬車の中、私は固く拳を握りしめた。
私にできることは、あまりにも小さいかもしれない。
けれど、明日の観閲式、私はただの観客でいるつもりはなかった。
カイル公爵様が光の当たる場所で戦うというのなら、私は、影の中から彼を支える。
たとえ、それが誰にも気づかれない、孤独な戦いだとしても。
明日のために、私は一つの小さな計画を立て始めた。
それは、あまりにも無謀で、しかし、今の私にできる、唯一の反撃の狼煙だった。
父様や母様は、年に一度の華やかな式典を前に、どこか浮き足立っている。けれど、私にとってその招待状は、決戦の場への召集令状のように思えてならなかった。
(観閲式で、ゲルハルト侯爵が動く…。でも、一体何を…?)
自室に戻った私は、カイル公爵様から預かったままになっている黒いマントを手に取った。
あの日以来、私は何度となくこのマントに触れ、彼の残響が聞こえないか試していた。しかし、あの時のような鮮明な声は、二度と聞こえることはなかった。
彼が今、どこで、何をしているのかを知る術はない。
ただ待っているだけではダメだ。
私にも、何かできることがあるはず。
私は、観閲式の次第が書かれた書類に目を落とした。国王陛下の閲兵、新型魔導兵器のお披露目、そして騎士団による模擬戦…。
(新型魔導兵器の燃料利権…公爵様の残響は、そう言っていたわ)
その兵器が、今回の騒動の鍵を握っていることは間違いない。
けれど、一介の伯爵令嬢である私に、軍の機密である新型兵器について調べる術などない。
途方に暮れかけた、その時だった。
ふと、私の脳裏に、ある人物の顔が思い浮かんだ。
明るくて、お喋りで、そして誰よりも王宮の噂話に精通している友人――マーサ様だ。
彼女の父親である子爵様は、確か、軍の兵站部に所属していたはず。もしかしたら、何か知っているかもしれない。
藁にもすがる思いで、私はマーサ様を訪ねることにした。
「まあ、エメリア様! 明日の観閲式、楽しみですわね! なんでも、今年はものすごい新型兵器がお披露目されるそうですわよ!」
お茶会に招くと、マーサ様は案の定、開口一番そう言って目を輝かせた。
私は、さりげなさを装って相槌を打つ。
「ええ、私も伺いましたわ。確か、燃料に特殊な鉱石を使うとか…」
「そうなの! 北方の蒼炎石という、ごく稀な魔石らしいですわ。父が申しておりましたけれど、その採掘権を巡って、最近貴族たちの間できな臭い動きがあるとかないとか…」
蒼炎石。
ゲルハルト侯爵が狙う鉱山は、きっとそれだ。
私は、さらに慎重に言葉を選んで尋ねた。
「その新型兵器、お披露目の際はどなたが操作を?」
「それが、まだ正式には発表されていないのですって。けれど、噂では、開発責任者であるゲルハルト侯爵様ご自身が、デモンストレーションを行うのではないか、と言われておりますわ」
「!」
ゲルハルト侯爵が、自ら。
国王陛下や貴族たちの目の前で、強力な兵器を操作する…。
その事実が、私の胸に不吉な影を落とした。彼は、一体その場で何をしようとしているのか。
「…ありがとう、マーサ様。とても参考になったわ」
「まあ、どういたしましたの? でも、お役に立てて嬉しいわ!」
友人との何気ない会話の中で、私は確かな手ごたえを感じていた。
侯爵の狙いは、観閲式という晴れの舞台で、新型兵器の性能を最大限にアピールし、その燃料である蒼炎石の利権を独占すること。そして、その過程で、邪魔なカイル公爵を何らかの形で陥れるつもりなのだ。
屋敷に戻る馬車の中、私は固く拳を握りしめた。
私にできることは、あまりにも小さいかもしれない。
けれど、明日の観閲式、私はただの観客でいるつもりはなかった。
カイル公爵様が光の当たる場所で戦うというのなら、私は、影の中から彼を支える。
たとえ、それが誰にも気づかれない、孤独な戦いだとしても。
明日のために、私は一つの小さな計画を立て始めた。
それは、あまりにも無謀で、しかし、今の私にできる、唯一の反撃の狼煙だった。
66
あなたにおすすめの小説
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
【完結】断罪された占星術師は、処刑前夜に星を詠む
佐倉穂波
恋愛
星は、嘘をつかない。嘘をついていたのは——わたし自身だった。
王宮の卜部に勤める十七歳の占星術師リュシア・アストレアは、ある日、王太子妃候補の婚儀に「凶」の星を読んだ。星が告げるままに報告したに過ぎなかったのに、翌朝には牢に入れられていた。罪状は「占星術を用いて王家を惑わせ、王太子暗殺を画策した」こと。
言いがかりだ。
しかし、証明する術がない。
処刑は五日後の朝と告げられ、リュシアは窓もない石の牢に閉じ込められた。
そこで彼女は気づいてしまう。占いが外れ続けていた本当の理由に。
道具も星図もない暗闇の中で、生まれて初めて、星の声を正しく聞いた。
瞼の裏に広がる夜空が、告げる。
【王太子が、明後日の夜に殺される】
処刑前夜に視た予言を、誰が信じるというのか。それでも、若き宰相クラウス・ベルシュタインは深夜の牢へ足を運び、断罪された少女の言葉に耳を傾けた。
二人の出会いは、運命をどう変えていくのかーー。
能ある妃は身分を隠す
赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。
言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。
全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
政略結婚の果て、私は魔女になった。
黒蜜きな粉
恋愛
政略結婚で冷酷と噂される辺境伯のもとへ嫁いだ魔術師の娘フリーデ。
努力すれば家族になれると信じていたが、初夜に「君を抱くつもりはない」と突き放される。
義母の「代わりはいくらでもいる」という言葉に追い詰められ、捨てられたくない一心でフリーデは子を宿すため禁じられた魔術に手を染める。
短いお話です。
悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました
ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。
壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる