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第十七話:最後の番人
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絶望的なまでの番人が、出口を塞ぐように立ちはだかる。その巨体から放たれるプレッシャーは、ダイアアウルフの群れなど比較にもならないほど、濃密な死の匂いを孕んでいた。
「レオン、待って!」
激情に駆られて飛び出そうとするレオンを、私は冷静な声で制した。
「あれはただのゴーレムではありません。自己修復機能、および、中央の水晶からの無尽蔵な魔力供給を受けている可能性が極めて高い。闇雲な攻撃は、あなたの魔力を浪費させるだけですわ」
私の分析を裏付けるかのように、ゴーレムの体表を覆う黒い鉱物が、蠢き、その巨腕をより鋭利な刃へと変形させた。
「じゃあ、どうするんだ! こいつを倒さなきゃ、ここから出られねえぞ!」
「……ええ。ですから、倒します。ただし、最も合理的な方法で」
私はレオンの背中に隠れながら、この絶望的な戦場を、冷徹な思考で分析していた。敵の行動パターン、魔力供給の経路、そして、この空洞の構造。全ての変数を、勝利という解を導き出すための方程式へと組み込んでいく。
やがて、私は一つの解を見出した。
「レオン。あなたの役目は、ただ一つ。あのゴーレムの注意を引きつけ、可能な限り、この場所――座標α-3(アルファスリー)に、30秒間だけ、釘付けにすることです」
「30秒だと? それが何になる!」
「十分すぎますわ。その30秒で、わたくしがこの戦いの前提条件を、根底から覆しますから」
私の揺るぎない自信に、レオンは一瞬ためらった後、覚悟を決めたように頷いた。
「……分かった。あんたを信じる。30秒、何が何でも稼いでやる!」
レオンが、雄叫びを上げてゴーレムへと突進する。彼の放つ風の刃がゴーレムの胴体に叩きつけられるが、黒い鉱物は傷一つ負わず、むしろそのエネルギーを吸収しているかのように、より禍々しい光を放った。
しかし、レオンの目的は攻撃ではない。陽動だ。彼は私の指示通り、ゴーレムの巨腕を巧みにかわし、挑発するように、指定された座標へと後退していく。
全ての注意がレオンへと向いた、その一瞬の隙を、私は見逃さなかった。
私はレオンとは逆方向へ、壁際を疾走する。私の目標は、ゴーレム本体ではない。中央の黒水晶から、床を這うようにゴーレムへと繋がっている、最も太い鉱物の魔力供給ラインだった。
私は供給ラインの前に立つと、ドレスのポケットから、数本の銀の針を取り出した。それは、私がこの遺跡の調査のために、特殊な金属を配合して自作した、魔力伝導率を極限まで高めた避雷針のようなものだった。
私は、地面に描いた数式(ヘルムホルツ方程式の応用式)に従い、完璧な位置に、寸分の狂いもなく銀の針を突き立てていく。それは、魔力の流れを断ち切るのではない。意図的に、流れを乱し、ショートさせるための、精密なトラップだった。
「レオン、今です! 最大出力で、ゴーレムの右腕を狙って!」
私の合図を受け、レオンが渾身の魔力を込めた風の刃を放つ。ゴーレムはそれを、いつものように吸収しようと、右腕の鉱物を活性化させた。
それこそが、私の狙いだった。
ゴーレムが魔力を最大に取り込もうとしたその瞬間、私が設置した銀の針が、その過剰なエネルギーに反応して、一斉に輝きを放った。
バチチチチチチッ!!
凄まじいスパークと共に、魔力供給ラインが暴走する。行き場を失った膨大な魔力が逆流し、ゴーレムの体内で、破壊的なエネルギーとなって炸裂した。
「グオオオオオオオッ!?」
ゴーレムが、初めて苦悶の叫びを上げる。その体表を覆っていた黒い鉱物が、内側からの衝撃でひび割れ、剥がれ落ちていく。自己修復機能が、完全に停止したのだ。
「――終わりですわ」
私は、最後の銀の針を、逆流する魔力で無防備になった、ゴーレムの胸の中心――かつて核があったであろう場所へと、力強く投げつけた。
針は、吸い込まれるようにゴーレムの胸に突き刺さる。それを合図に、ゴーレムの全身の亀裂から、制御を失った魔力の光が溢れ出した。
次の瞬間、ゴーレムは、音もなく、光の粒子となって霧散し、完全に消滅した。
後に残されたのは、不気味な静寂と、依然として邪悪な鼓動を続ける、中央の黒水晶だけだった。
「……やったか」
レオンが、疲労困憊の様子で、その場に膝をつく。
「ええ。ですが、稼げたのは、時間だけですわ。この遺跡は、いずれまた新たな番人を生み出すでしょう」
私たちは、互いに頷き合うと、迷わず出口へと向かった。今は、この絶望的な情報を、一刻も早く村へ持ち帰らなければならない。
世界の終わりまで、あと28日。
「レオン、待って!」
激情に駆られて飛び出そうとするレオンを、私は冷静な声で制した。
「あれはただのゴーレムではありません。自己修復機能、および、中央の水晶からの無尽蔵な魔力供給を受けている可能性が極めて高い。闇雲な攻撃は、あなたの魔力を浪費させるだけですわ」
私の分析を裏付けるかのように、ゴーレムの体表を覆う黒い鉱物が、蠢き、その巨腕をより鋭利な刃へと変形させた。
「じゃあ、どうするんだ! こいつを倒さなきゃ、ここから出られねえぞ!」
「……ええ。ですから、倒します。ただし、最も合理的な方法で」
私はレオンの背中に隠れながら、この絶望的な戦場を、冷徹な思考で分析していた。敵の行動パターン、魔力供給の経路、そして、この空洞の構造。全ての変数を、勝利という解を導き出すための方程式へと組み込んでいく。
やがて、私は一つの解を見出した。
「レオン。あなたの役目は、ただ一つ。あのゴーレムの注意を引きつけ、可能な限り、この場所――座標α-3(アルファスリー)に、30秒間だけ、釘付けにすることです」
「30秒だと? それが何になる!」
「十分すぎますわ。その30秒で、わたくしがこの戦いの前提条件を、根底から覆しますから」
私の揺るぎない自信に、レオンは一瞬ためらった後、覚悟を決めたように頷いた。
「……分かった。あんたを信じる。30秒、何が何でも稼いでやる!」
レオンが、雄叫びを上げてゴーレムへと突進する。彼の放つ風の刃がゴーレムの胴体に叩きつけられるが、黒い鉱物は傷一つ負わず、むしろそのエネルギーを吸収しているかのように、より禍々しい光を放った。
しかし、レオンの目的は攻撃ではない。陽動だ。彼は私の指示通り、ゴーレムの巨腕を巧みにかわし、挑発するように、指定された座標へと後退していく。
全ての注意がレオンへと向いた、その一瞬の隙を、私は見逃さなかった。
私はレオンとは逆方向へ、壁際を疾走する。私の目標は、ゴーレム本体ではない。中央の黒水晶から、床を這うようにゴーレムへと繋がっている、最も太い鉱物の魔力供給ラインだった。
私は供給ラインの前に立つと、ドレスのポケットから、数本の銀の針を取り出した。それは、私がこの遺跡の調査のために、特殊な金属を配合して自作した、魔力伝導率を極限まで高めた避雷針のようなものだった。
私は、地面に描いた数式(ヘルムホルツ方程式の応用式)に従い、完璧な位置に、寸分の狂いもなく銀の針を突き立てていく。それは、魔力の流れを断ち切るのではない。意図的に、流れを乱し、ショートさせるための、精密なトラップだった。
「レオン、今です! 最大出力で、ゴーレムの右腕を狙って!」
私の合図を受け、レオンが渾身の魔力を込めた風の刃を放つ。ゴーレムはそれを、いつものように吸収しようと、右腕の鉱物を活性化させた。
それこそが、私の狙いだった。
ゴーレムが魔力を最大に取り込もうとしたその瞬間、私が設置した銀の針が、その過剰なエネルギーに反応して、一斉に輝きを放った。
バチチチチチチッ!!
凄まじいスパークと共に、魔力供給ラインが暴走する。行き場を失った膨大な魔力が逆流し、ゴーレムの体内で、破壊的なエネルギーとなって炸裂した。
「グオオオオオオオッ!?」
ゴーレムが、初めて苦悶の叫びを上げる。その体表を覆っていた黒い鉱物が、内側からの衝撃でひび割れ、剥がれ落ちていく。自己修復機能が、完全に停止したのだ。
「――終わりですわ」
私は、最後の銀の針を、逆流する魔力で無防備になった、ゴーレムの胸の中心――かつて核があったであろう場所へと、力強く投げつけた。
針は、吸い込まれるようにゴーレムの胸に突き刺さる。それを合図に、ゴーレムの全身の亀裂から、制御を失った魔力の光が溢れ出した。
次の瞬間、ゴーレムは、音もなく、光の粒子となって霧散し、完全に消滅した。
後に残されたのは、不気味な静寂と、依然として邪悪な鼓動を続ける、中央の黒水晶だけだった。
「……やったか」
レオンが、疲労困憊の様子で、その場に膝をつく。
「ええ。ですが、稼げたのは、時間だけですわ。この遺跡は、いずれまた新たな番人を生み出すでしょう」
私たちは、互いに頷き合うと、迷わず出口へと向かった。今は、この絶望的な情報を、一刻も早く村へ持ち帰らなければならない。
世界の終わりまで、あと28日。
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