「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第51話:魔界の荒野を耕したら、伝説のマグマ・トマトが育った

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 ポチの里帰りを終えた俺たちは、再び魔王城へと戻っていた。
 俺が案内されたのは、城の裏手にある広大な中庭だ。

「……ここか」

 そこは、赤黒い岩が剥き出しになり、硫黄の煙が立ち上る不毛の荒野だった。
 地面には無数のひび割れが走り、奥には処刑に使われていたであろう断頭台や鉄の檻が放置されている。

「お父様、なんでこんな物騒な場所を案内したんですの?」

 ローズが顔をしかめる。
 魔王ヴェルザードが、申し訳なさそうに頭をかいた。

「いや、ジン殿が『一番広い土地を使わせろ』と言うからな。ここ元々は処刑場兼、魔獣の闘技場だったのだが……見ての通り、草一本生えぬ死の大地よ」

 魔王の言葉に、ヴォルカンら魔族たちも頷く。
 魔界の土地は、強酸性の雨と高熱のせいで、植物が育つ環境ではない。彼らの食料は、もっぱら魔獣の肉か、人間界からの略奪(輸入)品だった。

「死の大地、ねぇ」

 俺はしゃがみ込み、ひび割れた黒い土を手に取った。
 熱い。だが、指先で土を砕くと、サラサラとした感触の中に、凝縮された魔素マナの輝きが見えた。

「……やっぱりな」

 俺はニヤリと笑った。

「ここは死んでない。むしろ栄養過多でパンク寸前だ」
「えっ?」
「火山の噴火によるミネラル豊富な火山灰土。降り注ぐ高濃度の魔素。そして適度な地熱。……ここは、とんでもない『宝の山』だぞ」

 俺は立ち上がり、愛用のクワを構えた。

「フタバ、やるぞ。魔界でしか育たない、最高の野菜を作ってやる」
「うん! フタバもやるー!」

 フタバもマイ・クワ(ピンク色)を構える。

「まずは土壌改良だ。グラビティ・プラウ!」

 ズドォォォォォンッ!!

 俺がクワを振り下ろすと、中庭全体に重力の波紋が広がった。
 カチカチに固まっていた岩盤が粉砕され、地中深くの空気が混ざり合い、一瞬にしてふかふかの黒土へと変貌する。
 放置されていた断頭台も、ついでに粉砕して肥料にした。

「な、なんだと……!? 岩山が一瞬で農地に!?」
「ワシらが百年かけても開墾できなかった土地だぞ!?」

 魔族たちがどよめく中、俺は聖域から持参した「トマト」と「トウモロコシ」の種を蒔いた。

「さあフタバ、仕上げだ」
「はーい! おおきくな~れ! おいしくな~れ!」

 フタバが種に向かって、生命の魔力を込めたじょうろ(水は聖水)を振りかける。

 すると。

 ボッ!!!

 種が発芽した瞬間、小さな爆発音がした。

「え?」

 芽吹いたのは、普通の緑色の茎ではなかった。
 燃え盛る炎のような真紅の茎。そして葉脈には溶岩のような光が脈打っている。

 グググググッ……!

 植物たちは魔界の過酷な熱気と魔素を貪欲に吸収し、恐ろしい速度で成長していく。

 数分後。

 そこには、たわわに実った真っ赤に発光するトマトと、黒焦げのようなトウモロコシの森が誕生していた。

「か、完成だ……」

 俺も予想外の見た目に少し引いたが、俺の勘が『Sランク食材』と告げている。

「パパ! トマト、熱いよ!」

 フタバが収穫しようとしたトマトは、表面温度が60度くらいありそうだった。

「よし、実食だ。ヴォルカン、お前火属性だよな? 毒見してみろ」
「えっ、ワシ!? ……し、仕方あるまい!」

 ヴォルカンはおそるおそる、燃えるように赤いトマトを手に取り、ガブリと齧り付いた。

 ブシュゥッ!!

 果汁が飛び散り、ヴォルカンの口から蒸気が噴き出した。

「!!!???」

 ヴォルカンが白目を剥いて硬直する。
 そして。

「カァァァァァァァッ!!!!!(辛いッ!!!)」

 ヴォルカンの口から、猛烈な火炎ブレスが放射された。
 空に向かって伸びる火柱。

「しょ、将軍が火を吹いたぞ!」
「毒か!? やはり毒草か!?」
「ま、待て……こ、これは……ッ!」

 ヴォルカンが震えながら叫んだ。

「う、美味いッ!!! なんだこの濃厚な旨味は! 口の中が焼けるように辛いが、その奥から爆発的な甘みが押し寄せてくる! それに、身体の奥から力が……!」

 ゴゴゴゴゴ……!

 ヴォルカンの筋肉が膨張し、魔力が全回復どころか限界突破した。

「名付けて『マグマ・トマト』だ。カプサイシンと魔素の塊だぞ」
「素晴らしい! これさえあれば、ワシの炎はさらに熱くなる!」

 ヴォルカンが貪るようにトマトを食い始めた。
 それを見た他の魔族たちも、ゴクリと喉を鳴らす。

「俺も食ってみたい……」
「辛いのか? でも美味そうだ……」

 次々と兵士たちが手を伸ばし、「辛えぇぇぇ!」「美味ぇぇぇ!」と絶叫しながら火を吹き始めた。
 中庭が火炎地獄のような光景になったが、全員幸せそうだ。

「パパ! こっちのトウモロコシは?」
「ああ、そっちは火を通すと美味そうだ」

 俺は黒いトウモロコシをもぎ取り、ポチに合図した。

「ポチ、軽く炙ってくれ」
「ワンッ!(お安い御用!)」

 ポチがヘル・ファイアを吹きかける。
 その瞬間。

 パンッ! パパパパンッ!! ドォォォン!!

 トウモロコシの粒が弾け飛び、機関銃のように四方八方へ発射された。

「うわぁっ!? 襲撃だぁ!?」
「違う! これ、ポップコーンだ!」

 弾けた粒は、空中でフワフワの巨大なポップコーンに変貌していた。
 フタバが空中でキャッチしてパクりと食べる。

「おいしー! スパイシー!」
「これはビールが進みますわね!」

 ローズも優雅にキャッチして食べている。
 こうして、魔王城の中庭は、殺伐とした処刑場から、豊穣の農園へと生まれ変わった。

「信じられん……」

 魔王ヴェルザードが、マグマ・トマトを齧りながら涙ぐんでいた。

「魔界の土から、こんなに美味いものが採れるとは……。ワシらは今まで、宝の山の上で飢えていたのか」
「使いようですよ、じいじ」

 俺はクワを肩に担いで言った。

「環境が悪いと嘆く前に、その環境に合った作物を育てればいい。それが農家の流儀です」
「おお……! ジン殿、やはり貴殿は魔王の器よ!」
「農家です」

 その日以来、魔界では奇妙な現象が起きた。
 武器を捨て、クワを手にする魔族が急増したのだ。

 『侵略するより、耕した方が飯が美味い』。

 後に「魔界農業革命」と呼ばれる歴史的転換点は、俺とフタバの気まぐれな里帰りから始まったのだった。
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