ループ7回目の公爵令嬢は、もう恋愛も復讐も面倒なので、前世の知識で「魔導カフェ」を開き、異世界初のバリスタになります

希羽

文字の大きさ
13 / 13

最終話 7回目のループの終わりと、始まりのブレンド

しおりを挟む
 舞踏会での「焙煎事件」から数日後。

 カフェ『クロノス』には、いつもの朝日が差し込んでいた。
 古時計が時を刻む音。湯気が立つ音。

 そして──

「アリス! 城の料理長を解雇して君を雇おうと思うんだが、どうかな!」
「却下です」
「アリス、防犯設備を強化した。窓ガラスを全て防弾仕様の魔導ガラスに変えておいたぞ」
「過剰です」
「……アリス、俺、今日からここの2階に住むことにした。家賃は体で払う」
「不法侵入で通報します」

 ……訂正しよう。

 静寂など微塵もない、いつもの「戦場」だ。

 カウンターには、懲りもせず来店したヘリオス殿下、ジークハルト騎士団長、そして元暗殺者のレンが並んで座っている。

 さらに。

「お姉様! わたくしにもその『モーニング』というのを作りなさい! トマトは抜いてくださいね!」
「フン……アリス、今日のコーヒーは酸味が強いな。豆の選定を変えたか?」

 テーブル席には、なぜか聖女リリアナと、私の父であるローゼンバーグ公爵が陣取っている。

 リリアナは文句を言いながらも毎日通ってくるし、お父様は仕事の合間(サボり?)に必ず顔を出すようになった。

 私の店は、いつの間にか「王都で最も人口密度の濃いVIPルーム」になってしまったようだ。

(……はぁ。私のスローライフ、どこ行ったのよ)

 私は深いため息をつきながら、ドリッパーにお湯を注ぐ。
 あの舞踏会の夜、バルコニーにいた「犯人」──とある男爵令嬢は、すぐに捕まった。

 彼女は「転生者」だったらしい。「なんでシナリオ通りにいかないのよ!」と叫んでいたが、王宮の地下牢で頭を冷やしているそうだ。

 こうして、「断罪イベント」という名の時限爆弾は完全に撤去された。

 本来なら、これで私は自由の身。どこへでも行けるし、何でもできる。

 なのに。

「……アリス」

 ヘリオス殿下が、真剣な顔で私を見つめた。

 その手には、王家の紋章が入った指輪が握られている。

「もう一度、正式に申し込む。……王宮に来てくれないか? 君の淹れるコーヒーがない人生なんて、もう考えられないんだ」
「殿下、抜け駆けはずるいですよ。アリス、俺なら君の店ごと騎士団の敷地内に移築できる」
「俺なら、一生皿洗いをしてもいい」

 男たちが身を乗り出す。

 リリアナが「お姉様が王妃なんて生意気ですわ!」と騒ぎ、父が「嫁にはやらん」と新聞をバサッと広げる。

 カオスだ。

 本当に、面倒くさい人たち。

 でも。

(……不思議ね)

 私は彼らの騒がしい声を聞きながら、不思議と心地よさを感じていた。

 1回目から6回目までの人生。私はずっと孤独だった。
 愛されようと必死で、空回りして、最後は誰にも理解されずに死んでいった。

 けれど、7回目の今。

 私は誰にも媚びず、好きなことをして、塩対応を貫いている。
 それなのに、私の周りにはこんなにも人が溢れている。
 私が淹れたコーヒーを、美味しいと笑ってくれる人たちがいる。

「……お断りします」

 私はきっぱりと告げた。

 全員が「えっ」と固まる。

「私は王妃にもならないし、騎士団の専属にもなりません。私はただの『カフェの店主』です」

 私はサーバーを持ち上げ、それぞれのカップに琥珀色の液体を注いでいく。

「それに……ここで貴方たちの相手をするので手一杯なんですよ。これ以上、仕事を増やさないでください」

 私が苦笑しながら言うと、ヘリオス殿下が、そしてみんなが、ぽかんとして──

 次の瞬間、店中に爆笑の渦が巻き起こった。

「ははは! そうか、振られたか! いや、保留か?」
「手一杯と言われてしまっては仕方がないな」
「……ま、この席が空いてるなら、それでいいや」

 彼らは清々しい顔で、それぞれのカップを手に取った。
 今日淹れたのは、私のオリジナルブレンド「クロノス」。
 苦味、酸味、甘味、コク。

 どれか一つが突出するのではなく、全てが複雑に絡み合いながら、一つのハーモニーを奏でる味。

 それはまるで、この騒がしい日常そのものだ。

 ズズッ。

 全員が同時にコーヒーをすする。
 そして、同時に「ふぅ」と安堵の息を吐く。
 その幸せそうな顔を見て、私は確信した。

 ──もう、ループはしない。

 「タイムカード」を押して退勤する必要なんてない。
 だって、ここが私の居場所だから。

「……おかわり、いりますか?」

 私がぶっきらぼうに聞くと、全員が満面の笑みで答えた。

「「「喜んで!」」」

 ループ7回目の公爵令嬢アリス・フォン・ローゼンバーグ。

 恋愛も復讐も面倒なので全部捨てたら、代わりに最高の「居場所」と「仲間」が手に入りました。

 私の淹れるコーヒーの香りは、今日も路地裏から王都へと広がっていく。

 騒がしくも愛おしい、最高の日常の香りとして。

(完)
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

sakura
2026.01.09 sakura

なぜ7回もループしたのか の謎解きがなくてあれ? と思いました。
できましたら加筆お願いしますm(_ _)m

解除

あなたにおすすめの小説

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。