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第3話
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いつの間にか、私たちは眠ってしまっていた。
ふと目を覚ますと、彼は私の胸に顔を埋めて寝息を立てている。
昨晩、私を激しく責めた男と同じ人間とは信じられないほど穏やかな寝顔だった。
なあんだ、こうやって見てみると普通のかわいい男の子じゃない。
そう思うとなんだか急に愛しくなって、彼の金髪の頭をそっと撫でた。
「ん?ちいちゃんどうしたの?」
今ので彼を起こしてしまったみたいだ。
「ううん、なんでもない。ごめんね、起こしちゃって」
「ふーん?それよりさ、痛いところとかない?平気?昨日激しくし過ぎちゃったなあ…って思ってさ」
彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、大丈夫。でもこんなの初めてだからびっくりしちゃった。なんていうか…その、激しいの、好きなの?」
「うーん…そうだなあ…」
私は昨晩のちょっとした仕返しのつもりで、軽い気持ちで尋ねたのだが、彼は真剣に考え込んでいるようだった。
仰向けになって、天井を見つめている。
「なんていうかさあ、自分でもよくわかんないんだけど、可愛い子見ると泣かせたくなっちゃうんだよね。ほらよくさ、好きな子いじめる子供いるじゃん。あのまま大きくなっちゃったのかなあ…」
彼は天井を見つめたまま、独り言のように呟いた。
「まあでも、そういうのが好きか嫌いかって言われたら好きかな。ちいちゃんは激しいの嫌?」
「ううん、嫌じゃないよ…」
「そっかあ、良かった。引かれちゃったらどうしようかと思った」
心の底から安心したように無邪気に笑って、私を強く抱き締めた。
「正輝くん、そんなに強く締めたら苦しいよ」
私は笑って解こうとしたが、彼の腕ががっちりと絡みついたままだった。
Tシャツ越しに、彼の鼓動が聞こえてくる。
彼の心臓が、力強く脈打つのを感じ、じっと黙って耳を澄ませていた。
「…ねえ、ちいちゃん」
彼は私の顔をじっと覗き込んで言った。
「ちいちゃんさえ良かったら、俺ん家に来て一緒に住もうよ。独り暮らしだし、前の彼女と別れたばっかで淋しいんだよね」
私は彼の前髪をかき分けるように弄びながら黙って耳を傾けていた。
「どうして前の彼女と別れたの?」
「大学のサークルの後輩とつきあってたんだけど、前の彼女には俺のそういう趣味のこと話してなかったんだよね。でもどっかで勘づかれて、とてもついていけないって言われてあの子サークルも辞めちゃった。」
「そうだったの。ごめんなさい、変なこと聞いて。」
私はじっと彼の目を見つめた。
彼が瞬きする度、長いまつ毛がぱたぱたと揺れ動く。
「いや、もうあんまり気にしてないんだけどさ、ちいちゃんさえいてくれたらそれでいいかなって」
彼はもうすっかりその気で、そう信じて疑っていないようだった。
私は今更ながら、自分の軽率な行動に罪悪感が湧きあがってきた。
私は彼の期待に応えることはできない。
私には孝明さんがいて、家で私の帰りを待っているのだから。
それなのに、どうしてこんなことしてしまったのだろう。
「ちいちゃん?」
彼は不安げに、私の目をじっと見つめた。
いつの間にか私は、彼の目から視線をそらしてしまっていたのだ。
「…ごめんなさい、私、そろそろ帰るしたくしないと」
これだけ言うのが精一杯だった。
「そうだね、じゃあ、駅まで送るから先にシャワー浴びてきていいよ」
彼はさほど気にしていない、といった様子だった。私は少し安心した。
駅までの道中は、他愛もない話をして歩いた。
彼の気持ちを弄ぶようで胸が痛いが、このまま何事もなく家に帰ったら、これからもずっと、何事もない生活が続けられる、そんな気がしていた。
「ちいちゃん、いつでもいいからまた連絡して」
別れ際に彼の言った言葉が頭から離れない。
満面の笑みで手を振る彼に向ってそっと微笑んで手を振って、電車に乗った。
ふと目を覚ますと、彼は私の胸に顔を埋めて寝息を立てている。
昨晩、私を激しく責めた男と同じ人間とは信じられないほど穏やかな寝顔だった。
なあんだ、こうやって見てみると普通のかわいい男の子じゃない。
そう思うとなんだか急に愛しくなって、彼の金髪の頭をそっと撫でた。
「ん?ちいちゃんどうしたの?」
今ので彼を起こしてしまったみたいだ。
「ううん、なんでもない。ごめんね、起こしちゃって」
「ふーん?それよりさ、痛いところとかない?平気?昨日激しくし過ぎちゃったなあ…って思ってさ」
彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、大丈夫。でもこんなの初めてだからびっくりしちゃった。なんていうか…その、激しいの、好きなの?」
「うーん…そうだなあ…」
私は昨晩のちょっとした仕返しのつもりで、軽い気持ちで尋ねたのだが、彼は真剣に考え込んでいるようだった。
仰向けになって、天井を見つめている。
「なんていうかさあ、自分でもよくわかんないんだけど、可愛い子見ると泣かせたくなっちゃうんだよね。ほらよくさ、好きな子いじめる子供いるじゃん。あのまま大きくなっちゃったのかなあ…」
彼は天井を見つめたまま、独り言のように呟いた。
「まあでも、そういうのが好きか嫌いかって言われたら好きかな。ちいちゃんは激しいの嫌?」
「ううん、嫌じゃないよ…」
「そっかあ、良かった。引かれちゃったらどうしようかと思った」
心の底から安心したように無邪気に笑って、私を強く抱き締めた。
「正輝くん、そんなに強く締めたら苦しいよ」
私は笑って解こうとしたが、彼の腕ががっちりと絡みついたままだった。
Tシャツ越しに、彼の鼓動が聞こえてくる。
彼の心臓が、力強く脈打つのを感じ、じっと黙って耳を澄ませていた。
「…ねえ、ちいちゃん」
彼は私の顔をじっと覗き込んで言った。
「ちいちゃんさえ良かったら、俺ん家に来て一緒に住もうよ。独り暮らしだし、前の彼女と別れたばっかで淋しいんだよね」
私は彼の前髪をかき分けるように弄びながら黙って耳を傾けていた。
「どうして前の彼女と別れたの?」
「大学のサークルの後輩とつきあってたんだけど、前の彼女には俺のそういう趣味のこと話してなかったんだよね。でもどっかで勘づかれて、とてもついていけないって言われてあの子サークルも辞めちゃった。」
「そうだったの。ごめんなさい、変なこと聞いて。」
私はじっと彼の目を見つめた。
彼が瞬きする度、長いまつ毛がぱたぱたと揺れ動く。
「いや、もうあんまり気にしてないんだけどさ、ちいちゃんさえいてくれたらそれでいいかなって」
彼はもうすっかりその気で、そう信じて疑っていないようだった。
私は今更ながら、自分の軽率な行動に罪悪感が湧きあがってきた。
私は彼の期待に応えることはできない。
私には孝明さんがいて、家で私の帰りを待っているのだから。
それなのに、どうしてこんなことしてしまったのだろう。
「ちいちゃん?」
彼は不安げに、私の目をじっと見つめた。
いつの間にか私は、彼の目から視線をそらしてしまっていたのだ。
「…ごめんなさい、私、そろそろ帰るしたくしないと」
これだけ言うのが精一杯だった。
「そうだね、じゃあ、駅まで送るから先にシャワー浴びてきていいよ」
彼はさほど気にしていない、といった様子だった。私は少し安心した。
駅までの道中は、他愛もない話をして歩いた。
彼の気持ちを弄ぶようで胸が痛いが、このまま何事もなく家に帰ったら、これからもずっと、何事もない生活が続けられる、そんな気がしていた。
「ちいちゃん、いつでもいいからまた連絡して」
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満面の笑みで手を振る彼に向ってそっと微笑んで手を振って、電車に乗った。
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