3 / 8
第3話
しおりを挟む
いつの間にか、私たちは眠ってしまっていた。
ふと目を覚ますと、彼は私の胸に顔を埋めて寝息を立てている。
昨晩、私を激しく責めた男と同じ人間とは信じられないほど穏やかな寝顔だった。
なあんだ、こうやって見てみると普通のかわいい男の子じゃない。
そう思うとなんだか急に愛しくなって、彼の金髪の頭をそっと撫でた。
「ん?ちいちゃんどうしたの?」
今ので彼を起こしてしまったみたいだ。
「ううん、なんでもない。ごめんね、起こしちゃって」
「ふーん?それよりさ、痛いところとかない?平気?昨日激しくし過ぎちゃったなあ…って思ってさ」
彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、大丈夫。でもこんなの初めてだからびっくりしちゃった。なんていうか…その、激しいの、好きなの?」
「うーん…そうだなあ…」
私は昨晩のちょっとした仕返しのつもりで、軽い気持ちで尋ねたのだが、彼は真剣に考え込んでいるようだった。
仰向けになって、天井を見つめている。
「なんていうかさあ、自分でもよくわかんないんだけど、可愛い子見ると泣かせたくなっちゃうんだよね。ほらよくさ、好きな子いじめる子供いるじゃん。あのまま大きくなっちゃったのかなあ…」
彼は天井を見つめたまま、独り言のように呟いた。
「まあでも、そういうのが好きか嫌いかって言われたら好きかな。ちいちゃんは激しいの嫌?」
「ううん、嫌じゃないよ…」
「そっかあ、良かった。引かれちゃったらどうしようかと思った」
心の底から安心したように無邪気に笑って、私を強く抱き締めた。
「正輝くん、そんなに強く締めたら苦しいよ」
私は笑って解こうとしたが、彼の腕ががっちりと絡みついたままだった。
Tシャツ越しに、彼の鼓動が聞こえてくる。
彼の心臓が、力強く脈打つのを感じ、じっと黙って耳を澄ませていた。
「…ねえ、ちいちゃん」
彼は私の顔をじっと覗き込んで言った。
「ちいちゃんさえ良かったら、俺ん家に来て一緒に住もうよ。独り暮らしだし、前の彼女と別れたばっかで淋しいんだよね」
私は彼の前髪をかき分けるように弄びながら黙って耳を傾けていた。
「どうして前の彼女と別れたの?」
「大学のサークルの後輩とつきあってたんだけど、前の彼女には俺のそういう趣味のこと話してなかったんだよね。でもどっかで勘づかれて、とてもついていけないって言われてあの子サークルも辞めちゃった。」
「そうだったの。ごめんなさい、変なこと聞いて。」
私はじっと彼の目を見つめた。
彼が瞬きする度、長いまつ毛がぱたぱたと揺れ動く。
「いや、もうあんまり気にしてないんだけどさ、ちいちゃんさえいてくれたらそれでいいかなって」
彼はもうすっかりその気で、そう信じて疑っていないようだった。
私は今更ながら、自分の軽率な行動に罪悪感が湧きあがってきた。
私は彼の期待に応えることはできない。
私には孝明さんがいて、家で私の帰りを待っているのだから。
それなのに、どうしてこんなことしてしまったのだろう。
「ちいちゃん?」
彼は不安げに、私の目をじっと見つめた。
いつの間にか私は、彼の目から視線をそらしてしまっていたのだ。
「…ごめんなさい、私、そろそろ帰るしたくしないと」
これだけ言うのが精一杯だった。
「そうだね、じゃあ、駅まで送るから先にシャワー浴びてきていいよ」
彼はさほど気にしていない、といった様子だった。私は少し安心した。
駅までの道中は、他愛もない話をして歩いた。
彼の気持ちを弄ぶようで胸が痛いが、このまま何事もなく家に帰ったら、これからもずっと、何事もない生活が続けられる、そんな気がしていた。
「ちいちゃん、いつでもいいからまた連絡して」
別れ際に彼の言った言葉が頭から離れない。
満面の笑みで手を振る彼に向ってそっと微笑んで手を振って、電車に乗った。
ふと目を覚ますと、彼は私の胸に顔を埋めて寝息を立てている。
昨晩、私を激しく責めた男と同じ人間とは信じられないほど穏やかな寝顔だった。
なあんだ、こうやって見てみると普通のかわいい男の子じゃない。
そう思うとなんだか急に愛しくなって、彼の金髪の頭をそっと撫でた。
「ん?ちいちゃんどうしたの?」
今ので彼を起こしてしまったみたいだ。
「ううん、なんでもない。ごめんね、起こしちゃって」
「ふーん?それよりさ、痛いところとかない?平気?昨日激しくし過ぎちゃったなあ…って思ってさ」
彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、大丈夫。でもこんなの初めてだからびっくりしちゃった。なんていうか…その、激しいの、好きなの?」
「うーん…そうだなあ…」
私は昨晩のちょっとした仕返しのつもりで、軽い気持ちで尋ねたのだが、彼は真剣に考え込んでいるようだった。
仰向けになって、天井を見つめている。
「なんていうかさあ、自分でもよくわかんないんだけど、可愛い子見ると泣かせたくなっちゃうんだよね。ほらよくさ、好きな子いじめる子供いるじゃん。あのまま大きくなっちゃったのかなあ…」
彼は天井を見つめたまま、独り言のように呟いた。
「まあでも、そういうのが好きか嫌いかって言われたら好きかな。ちいちゃんは激しいの嫌?」
「ううん、嫌じゃないよ…」
「そっかあ、良かった。引かれちゃったらどうしようかと思った」
心の底から安心したように無邪気に笑って、私を強く抱き締めた。
「正輝くん、そんなに強く締めたら苦しいよ」
私は笑って解こうとしたが、彼の腕ががっちりと絡みついたままだった。
Tシャツ越しに、彼の鼓動が聞こえてくる。
彼の心臓が、力強く脈打つのを感じ、じっと黙って耳を澄ませていた。
「…ねえ、ちいちゃん」
彼は私の顔をじっと覗き込んで言った。
「ちいちゃんさえ良かったら、俺ん家に来て一緒に住もうよ。独り暮らしだし、前の彼女と別れたばっかで淋しいんだよね」
私は彼の前髪をかき分けるように弄びながら黙って耳を傾けていた。
「どうして前の彼女と別れたの?」
「大学のサークルの後輩とつきあってたんだけど、前の彼女には俺のそういう趣味のこと話してなかったんだよね。でもどっかで勘づかれて、とてもついていけないって言われてあの子サークルも辞めちゃった。」
「そうだったの。ごめんなさい、変なこと聞いて。」
私はじっと彼の目を見つめた。
彼が瞬きする度、長いまつ毛がぱたぱたと揺れ動く。
「いや、もうあんまり気にしてないんだけどさ、ちいちゃんさえいてくれたらそれでいいかなって」
彼はもうすっかりその気で、そう信じて疑っていないようだった。
私は今更ながら、自分の軽率な行動に罪悪感が湧きあがってきた。
私は彼の期待に応えることはできない。
私には孝明さんがいて、家で私の帰りを待っているのだから。
それなのに、どうしてこんなことしてしまったのだろう。
「ちいちゃん?」
彼は不安げに、私の目をじっと見つめた。
いつの間にか私は、彼の目から視線をそらしてしまっていたのだ。
「…ごめんなさい、私、そろそろ帰るしたくしないと」
これだけ言うのが精一杯だった。
「そうだね、じゃあ、駅まで送るから先にシャワー浴びてきていいよ」
彼はさほど気にしていない、といった様子だった。私は少し安心した。
駅までの道中は、他愛もない話をして歩いた。
彼の気持ちを弄ぶようで胸が痛いが、このまま何事もなく家に帰ったら、これからもずっと、何事もない生活が続けられる、そんな気がしていた。
「ちいちゃん、いつでもいいからまた連絡して」
別れ際に彼の言った言葉が頭から離れない。
満面の笑みで手を振る彼に向ってそっと微笑んで手を振って、電車に乗った。
3
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる