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第3話 茘枝、残り香
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――ホテルのベッド――
目を開けると、隣にInkが寝ていた。
「起きたか?」
「うわっ……痛っ!」
体を起こそうとした瞬間、勢い余ってベッドから……落ちた。
静かに微笑むInk。落ち着いているのに、どこか俺様な余裕。髪の流れ、整った顔立ち、肌の色……どこを見ても完璧すぎて眩しい。
「大丈夫か?」
声は低く、柔らかいのに力強い。見ているだけで胸がざわつく。
俺は慌てて床に散らばった服を拾い、そそくさと着替える。
――昨日の自分の振る舞いを思い出して、顔が熱くなる――
――ああ、俺はいったい何をしていたんだ……。
荷物をまとめ、勢いよくホテルのドアを開ける。
「……じゃ、じゃあ俺、行くから!」
外に出ると、まだ早朝なのに、日差しが俺の気持ちを追い立てる。
額からひとつ汗が流れる
「夏が近いな」
タクシーに飛び乗ると、スーツの後ろポケットに何かがあることに気づく。Inkから昨日もらった名刺だ。
裏を見ると、文字が書かれていた。
Misted Tropics
Nattapong Wirachai
湿度を抱く国でしか
生まれない色があります
その言葉を見て、再び顔が熱くなる。
――ああ……何だこれ……なんでこんなにも、俺は興奮しているんだ……
窓の外を流れる街並みを眺めながら、心臓はまだざわついている。
――昨日の夜、俺は……でも、嫌じゃなかった……むしろ、楽しかった……
タクシーの風が、少しだけ胸のざわつきを落ち着けてくれた。
――九州・百貨店――
タイ人 電話好き
カウンターの端で、検索していた俺の携帯が震える。画面に表示された名前を見て、思わずため息をつく。
あの夜の後、次の日から立て続けに電話がなる。
用があるならメッセージでください。
そう言っても、電話を寄越す男がいる
タイ人ってみんなこうなの…?
少し迷って、画面をスワイプする。
「……はい、もしもし」
「Rio、少し時間はあるか?」
電話越しでも分かる。こちらの都合を優先しているようで拒否権を与えないという確固たる自信。
「え…はい……」
俺がしぶしぶ答えると、彼は間髪入れず続ける。
「来週の便でバンコクに来てほしい。君に見せたいものがある」
見せたいもの――この間の展示会で目にしたあの生地か?
「え、来週…?そんな急に……」
「急ではない。準備はしてある。
君の目でこの国の空気、温度、光を確かめてほしい」
Inkの声は俺の耳に切なく響き、理性で押さえようとする俺の心を、軽く揺さぶる。
「……わかりました」
拒めない。
「よし。それで決まりだな。詳細はまたメッセージで送る」
電話の向こうの彼はどこか嬉しそうだった。
――俺は電話を切る前から、もう胸がざわついて仕方がない。
棚の商品の間に目をやり、現実の百貨店の雑踏に目を戻す。
でも頭の中は、すでにあの南国の光と、Inkのするどい瞳に占拠されていた。
目を開けると、隣にInkが寝ていた。
「起きたか?」
「うわっ……痛っ!」
体を起こそうとした瞬間、勢い余ってベッドから……落ちた。
静かに微笑むInk。落ち着いているのに、どこか俺様な余裕。髪の流れ、整った顔立ち、肌の色……どこを見ても完璧すぎて眩しい。
「大丈夫か?」
声は低く、柔らかいのに力強い。見ているだけで胸がざわつく。
俺は慌てて床に散らばった服を拾い、そそくさと着替える。
――昨日の自分の振る舞いを思い出して、顔が熱くなる――
――ああ、俺はいったい何をしていたんだ……。
荷物をまとめ、勢いよくホテルのドアを開ける。
「……じゃ、じゃあ俺、行くから!」
外に出ると、まだ早朝なのに、日差しが俺の気持ちを追い立てる。
額からひとつ汗が流れる
「夏が近いな」
タクシーに飛び乗ると、スーツの後ろポケットに何かがあることに気づく。Inkから昨日もらった名刺だ。
裏を見ると、文字が書かれていた。
Misted Tropics
Nattapong Wirachai
湿度を抱く国でしか
生まれない色があります
その言葉を見て、再び顔が熱くなる。
――ああ……何だこれ……なんでこんなにも、俺は興奮しているんだ……
窓の外を流れる街並みを眺めながら、心臓はまだざわついている。
――昨日の夜、俺は……でも、嫌じゃなかった……むしろ、楽しかった……
タクシーの風が、少しだけ胸のざわつきを落ち着けてくれた。
――九州・百貨店――
タイ人 電話好き
カウンターの端で、検索していた俺の携帯が震える。画面に表示された名前を見て、思わずため息をつく。
あの夜の後、次の日から立て続けに電話がなる。
用があるならメッセージでください。
そう言っても、電話を寄越す男がいる
タイ人ってみんなこうなの…?
少し迷って、画面をスワイプする。
「……はい、もしもし」
「Rio、少し時間はあるか?」
電話越しでも分かる。こちらの都合を優先しているようで拒否権を与えないという確固たる自信。
「え…はい……」
俺がしぶしぶ答えると、彼は間髪入れず続ける。
「来週の便でバンコクに来てほしい。君に見せたいものがある」
見せたいもの――この間の展示会で目にしたあの生地か?
「え、来週…?そんな急に……」
「急ではない。準備はしてある。
君の目でこの国の空気、温度、光を確かめてほしい」
Inkの声は俺の耳に切なく響き、理性で押さえようとする俺の心を、軽く揺さぶる。
「……わかりました」
拒めない。
「よし。それで決まりだな。詳細はまたメッセージで送る」
電話の向こうの彼はどこか嬉しそうだった。
――俺は電話を切る前から、もう胸がざわついて仕方がない。
棚の商品の間に目をやり、現実の百貨店の雑踏に目を戻す。
でも頭の中は、すでにあの南国の光と、Inkのするどい瞳に占拠されていた。
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