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貴女の花
突然の雨
しおりを挟む梅の華墨が入った赤子は、両親の名前から一文字ずつとって「梅乃」と名付けられた。
梅乃は瞳をキラキラと輝かせてよく笑う、とても可愛らしい女の子だ。
貴梅は梅乃をそれはそれは溺愛し、大切に育てた。
紫乃も同様に大切に、そして女として強くあってほしいという考えから、時に厳しくしつけた。
町民は皆女の子の誕生を祝福して、町は春の風と共に活気づいていった。
梅乃はすくすくと成長し、ひとりで歩けるようになると、すぐに屋敷を飛び出して町を歩き回るようになった。
都会なら車が走っていたり危険が伴うところだが、この町ではそんなことはない。
梅乃は隣人である神之池 柊次という男性によく懐いていて、決まって出かける時は柊次の手を引いて歩き回っていた。
「あら梅乃ちゃん。こんにちは!」
「梅乃ちゃんは今日も可愛いね~」
梅乃が町を歩けばすれ違う人々皆が笑顔になる。
両親も大切にしていたが、町全体が梅乃を大事に育てていた。
そして今日は3月3日、梅乃の4歳の誕生日だ。
いつものように梅乃は柊次の手を引き町を歩いていた。
「しゅーじさん!おだんごたべよう!」
「昨日も食べただろう…仕方ないな」
普段は厳格な柊次も可愛い笑顔でねだる梅乃には叶わないようだ。
梅乃が毎日のように行きたがる団子屋に寄り、みたらし団子を手に庭園の椅子に腰掛ける。
梅乃は美味しそうに団子を頬張る。
そこには穏やかで優しい時間が流れていた。
「梅乃ちゃん!梅乃ちゃんっ!!」
「おいおい、どうした?」
「神之池さん!貴梅さんと、紫乃さんが……」
凄まじい勢いで貴梅の同僚が駆け込んできた。
梅乃に何かを必死で伝えようとしている。
息を切らし、咳込みながらも同僚は話を続けた。
「梅乃ちゃん…落ち着いて、聞いてね…
お父さんとお母さんが……居なくなったんだ」
「おとうちゃんと、おかあちゃんが…?」
梅乃は状況が飲み込めず、ポカンとしている。
一方、柊次はすぐに形相を変えた。
最近この平和な町にも噂がまわってきていた。
ある特定の華墨をもつ人間が何者かに狙われている、ということ。
目的や理由は分からないが、主に梅の華墨が狙われているらしく、今回もその一例になってしまったのではないか、と同僚は話した。
柊次は急いで梅乃を連れて早河の屋敷へ戻った。
やはりそこには貴梅と紫乃の姿はなく、虚しくも庭の花たちがかすかに薫っているだけだった。
梅乃と柊次は立ち尽くし、空からは雨が降り始めた。
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