華ノ道標-華罪捜査官-

山茶花

文字の大きさ
5 / 63
訳華、のちに

心の声

しおりを挟む

「試験勉強、どうするの?」



宴の翌日、早百合が心配そうに尋ねる。

この町には訳華学校の出身者は居ないと言われている。
それに、訳華学校の試験対策をするような施設もない。

早百合は、そんな環境をとても不憫に思った。



「勉強は…先生のところへ行くんだ」

「先生?」

「うん。海藤かいとう先生っていう、訳華にすごく詳しい人が来たって、団子屋のおばちゃんが教えてくれた」



梅乃が海藤先生と呼ぶ人物は、最近この町に姿を見せた女性のことだという。

早百合は初めて聞く名前に驚いていた。



「だからね、柊次さんと早百合ちゃんの家を離れなきゃいけないの。試験まで時間が無いから…」



両親が失踪してから6年、その間梅乃は我儘を全く言わなかった。
自分がやりたい事を堂々と言うような子どもではなかったのだ。

両親が居ない寂しさや悲しさも隠して過ごしてきた。

梅乃がそれでも穏やかに笑っていられたのは、紛れもなく柊次や早百合、町民たちが励ましていたおかげだ。

梅乃はまだ10歳という年齢だが、そろそろ恩返しの為にも巣立つ準備をしているということだろう。



「そうね……私も兄さんも寂しいけれど、
 でも一番大事なのは梅乃ちゃんの気持ちよ。
 やりたい事を、とことんやりなさい」

「ありがとう、ありがとう…!」



早百合と梅乃は互いに涙を流しながら抱き合った。

一方柊次は仕事帰りの姿のまま、女同士の会話に入りづらそうに、少し開いた襖の影から二人を見守っていた。



「兄さん?そこに居るの、分かってるわよ」

「柊次さん!!おかえりなさい!
 話、聞こえてた…?」



早百合にはお見通しだったようだ。

柊次のことを父親のように思っている梅乃は、柊次にすぐ飛びついて笑顔を見せた。



「ただいま。聞いてたぞ。
 梅乃、良い先生と知り合えたんだな」

「ありがとう、柊次さん。
 先生のところでたくさん勉強して、
 訳華学校に行って、ちゃんと戻ってくるからね!」



普段絶対に涙を流すことの無い柊次も、家族同様の梅乃の成長に、思わず目頭を熱くしていた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...