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訳華、のちに
明日へ続く道
しおりを挟む「柊次さん、早百合ちゃん。町の皆さん。
私を育ててくれてありがとうございました。
桜木の、海藤先生のところに行ってきます」
「結構遠いぞ…一人で大丈夫か?」
「もう!兄さん、梅乃ちゃんは大丈夫よ!
梅乃ちゃん、気をつけてね。応援してる」
「早百合ちゃんありがとう!行ってきます!」
柊次が心配そうに見つめる中、梅乃は笑顔で町を発つ。
梅乃が目指す桜木という場所は、この町から遠く離れた大きな川沿いの土地だ。
梅乃は華隠織を首に軽く巻き、出発前に町民たちから贈られた美しい着物に袴を履いてひたすら歩いていた。
桜木までは、徒歩では到着がいつになるのか予想できない距離である。
「あの…梅乃さん、ですか?」
突然、若い男が梅乃に声をかけた。
身長は高く、落ち着いた色合いの袴の上には華隠織で造られた丈の長い羽織。
背中には何故か弓矢を背負っている。
怪しい装いに、梅乃は少し身構えて顔を見上げた。
「すみません。僕は佐佐木 銀壱と申します。
海藤先生から頼まれて、梅乃さんを捜していたんです」
「海藤先生からですか?」
「はい。桜木までは道のりが長いですので、梅乃さんを護衛しろと…」
海藤から信頼の厚い銀壱。
弓道で彼の右に出る者はいない。
その腕前と頭の良さから、護衛を任せたのだろう。
銀壱はまだあどけない梅乃の真っ直ぐな視線に、少し動揺しているようだ。
「案内していただけるのですね。
ありがとうございます。私は早河 梅乃と申します」
梅乃は深々と頭を下げ、見た目より遥かに大人びた口調で話した。
二人は早速桜木に向かって歩き始めた。
歩きながら、梅乃は海藤に出逢った経緯や両親失踪事件のことを話した。
「銀壱さんは、なぜ海藤先生のところに?」
「僕は…6年前、母親が殺されました」
銀壱は目を伏せ、そしてまた続けた。
「当時、母の華墨は梅でした。
父親とは僕の幼い頃に別れていて、僕が母を守らなければならなかったのに……
僕が弓道の練習から帰ってきた時、母は既に倒れていたのです」
衝撃的な過去に、梅乃も驚きを隠せない。
銀壱の母親が殺されたのは、やはり梅乃の両親が失踪した同じ年だった。
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