華ノ道標-華罪捜査官-

山茶花

文字の大きさ
30 / 63
やるべき事

救える命

しおりを挟む

三人は、京の居る街「鹿戸しかど」に戻ってきた。
夜は明け、もう昼になろうとしていた。


京は街で怪しまれないよう、商店を経営しているとの情報があった。
街に溶け込み、裏では悪さを働かせている。
何とも卑怯な奴だ。


直接屋敷に行くより、濃紺の桜を外して商店を訪れた方が安全だと考え、まずは前田ひとりで店へ行く。



「こんにちは」

「いらっしゃいませ」



出迎えたのは、屋敷で出逢った女の子だった。

ここには、京本人は居ないのかもしれない。



「何か、お探しですか?」

「この街には初めて来たもので…
 何か伝統的な品物をいただきたい」

「でしたら、こちらはいかがでしょう?
 この店のお勧め品です」



女の子は、疑うことも無く前田に接客している。

そして勧められたのは、盗難品として被害の報告があった豪華な壺だ。

どこで盗まれた物かは資料を見ないと分からないが、確実に前田は見た事のある物だった。



「そちらは…どのようなものか」

「伝統的な手法で造られた壺にございます。
 買付師が富豪から譲り受けました」

「譲り受けた…それは本当か?」



前田は怒りの感情をあらわにした。
目的があるのにも関わらず、ここまでになるのは珍しい。

徐ろに濃紺の桜を取り出し、女の子の口を手で強く塞いだ。



「俺は華捜だ。昨日会ったのをもう忘れたか?」

「んんっ!?」

「黙って聞け。
 お前の屋敷に、京 美藤という女が居るだろう」



女の子が抵抗しなくなったことを確認し、塞いでいた手を離す。



「はぁ……
 い、居ますけれど…」

「君は京が何者か、知らんのか?」

「母親です…」



やはり、と前田は顔をしかめる。
女の子の育ての親なのだと感じ取った。

女の子には龍の印と華狩の印があるが、華捜にも警戒せず、態度はあまり変わらない。


まだ自らが何をさせられているのか、理解していないのだろう。



「君が売っているこの壺は、買い付けた物ではない」

「でも、お母様はそのように――」

「騙されている。…壺は盗難品だ」



女の子が大きな目を更に広げて驚く。
そして息を飲み込んだ。

本当に知らなかった、という表情だ。

京は恐らく、この女の子をずっと騙してきたのだ。



「いいか、君の母親だと思っている女は、
 犯罪者なんだ」

「そんなはずは…!」

「君は拾い子だろう。
 華罪組織の華狩や龍華会を知っているか?」

「聞いた事はありますが…」

「京 美藤は…その組織の幹部だ」



膝から崩れ落ちそうになる女の子を、前田が咄嗟に支える。
そのまますぐに女の子は泣き出してしまった。

そうなるのも無理はない。
しかし、前田の言うことをしっかり信じているようだ。


その後も前田の話を聞き、ようやく自分の身分を明かしてくれた。



「私は、真藤まなとといいます。
 4歳の時、お母様に拾われました」

「そうか。それからどうやって暮らした?」

「この店で7歳頃から手伝いをしています。
 それまでは屋敷から出してもらえませんでした」



真藤は自分がどのようにして育ってきたかを詳しく話した。

7歳まで、屋敷の外には出られなかった事。
店の手伝いをするようになって、高価な物が多いと気づいた事。

7歳以降も、店と屋敷しか出入りを許されなかった事。


そしてもう一つ、大事なことを打ち明けてくれた。



「ずっと、店と屋敷だけの生活……
 もう飽きてしまいました」

「抜け出したい、ということか?」

「正直に言えばそうです。
 でもお母様に逆らうと、きつい罰があるのです」



京は、真藤が少しでも口答えをすると、暴力を振るったという。
痣になっても目立たないよう、お腹や背中ばかりを狙って叩いたり蹴ったりされたらしい。

どこまで酷い心の持ち主だろうか。


真藤は痛い思いをしたくない一方で、最近はこの生活から脱出する方法を探していた、と話す。



前田は、真藤なら京や紫の詳しい情報を持っている可能性が高いと判断した。

そして真藤を連れ出し、守る代わりに捜査本部に情報提供するよう交渉した。



「私なんかで、お力になれるなら…」

「大丈夫。俺たちは強い。
 それに、今の捜査には君が必要だ」



華捜の三人が真藤を守ると約束し、真藤を店から連れ出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~

楠富 つかさ
ファンタジー
 都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。

処理中です...