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やるべき事
救える命
しおりを挟む三人は、京の居る街「鹿戸」に戻ってきた。
夜は明け、もう昼になろうとしていた。
京は街で怪しまれないよう、商店を経営しているとの情報があった。
街に溶け込み、裏では悪さを働かせている。
何とも卑怯な奴だ。
直接屋敷に行くより、濃紺の桜を外して商店を訪れた方が安全だと考え、まずは前田ひとりで店へ行く。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは、屋敷で出逢った女の子だった。
ここには、京本人は居ないのかもしれない。
「何か、お探しですか?」
「この街には初めて来たもので…
何か伝統的な品物をいただきたい」
「でしたら、こちらはいかがでしょう?
この店のお勧め品です」
女の子は、疑うことも無く前田に接客している。
そして勧められたのは、盗難品として被害の報告があった豪華な壺だ。
どこで盗まれた物かは資料を見ないと分からないが、確実に前田は見た事のある物だった。
「そちらは…どのようなものか」
「伝統的な手法で造られた壺にございます。
買付師が富豪から譲り受けました」
「譲り受けた…それは本当か?」
前田は怒りの感情をあらわにした。
目的があるのにも関わらず、ここまでになるのは珍しい。
徐ろに濃紺の桜を取り出し、女の子の口を手で強く塞いだ。
「俺は華捜だ。昨日会ったのをもう忘れたか?」
「んんっ!?」
「黙って聞け。
お前の屋敷に、京 美藤という女が居るだろう」
女の子が抵抗しなくなったことを確認し、塞いでいた手を離す。
「はぁ……
い、居ますけれど…」
「君は京が何者か、知らんのか?」
「母親です…」
やはり、と前田は顔をしかめる。
女の子の育ての親なのだと感じ取った。
女の子には龍の印と華狩の印があるが、華捜にも警戒せず、態度はあまり変わらない。
まだ自らが何をさせられているのか、理解していないのだろう。
「君が売っているこの壺は、買い付けた物ではない」
「でも、お母様はそのように――」
「騙されている。…壺は盗難品だ」
女の子が大きな目を更に広げて驚く。
そして息を飲み込んだ。
本当に知らなかった、という表情だ。
京は恐らく、この女の子をずっと騙してきたのだ。
「いいか、君の母親だと思っている女は、
犯罪者なんだ」
「そんなはずは…!」
「君は拾い子だろう。
華罪組織の華狩や龍華会を知っているか?」
「聞いた事はありますが…」
「京 美藤は…その組織の幹部だ」
膝から崩れ落ちそうになる女の子を、前田が咄嗟に支える。
そのまますぐに女の子は泣き出してしまった。
そうなるのも無理はない。
しかし、前田の言うことをしっかり信じているようだ。
その後も前田の話を聞き、ようやく自分の身分を明かしてくれた。
「私は、真藤といいます。
4歳の時、お母様に拾われました」
「そうか。それからどうやって暮らした?」
「この店で7歳頃から手伝いをしています。
それまでは屋敷から出してもらえませんでした」
真藤は自分がどのようにして育ってきたかを詳しく話した。
7歳まで、屋敷の外には出られなかった事。
店の手伝いをするようになって、高価な物が多いと気づいた事。
7歳以降も、店と屋敷しか出入りを許されなかった事。
そしてもう一つ、大事なことを打ち明けてくれた。
「ずっと、店と屋敷だけの生活……
もう飽きてしまいました」
「抜け出したい、ということか?」
「正直に言えばそうです。
でもお母様に逆らうと、きつい罰があるのです」
京は、真藤が少しでも口答えをすると、暴力を振るったという。
痣になっても目立たないよう、お腹や背中ばかりを狙って叩いたり蹴ったりされたらしい。
どこまで酷い心の持ち主だろうか。
真藤は痛い思いをしたくない一方で、最近はこの生活から脱出する方法を探していた、と話す。
前田は、真藤なら京や紫の詳しい情報を持っている可能性が高いと判断した。
そして真藤を連れ出し、守る代わりに捜査本部に情報提供するよう交渉した。
「私なんかで、お力になれるなら…」
「大丈夫。俺たちは強い。
それに、今の捜査には君が必要だ」
華捜の三人が真藤を守ると約束し、真藤を店から連れ出した。
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