華ノ道標-華罪捜査官-

山茶花

文字の大きさ
45 / 63
標的の花

怪しい香り

しおりを挟む

前を行く特捜班は、足音を立てないよう忍び足で進む。
会議の行われる部屋まではまだ距離がある。

人の話し声が聞こえてこないのは、壁が厚いからなのか。



「伏せろっ!!」

「危ない!!」



すると突然、何本もの鋭い矢がこちらに飛んできた。

咄嗟に頭を伏せる捜査官たち。
どこから飛んできたのか分からない速さだった。


梅乃は矢を見て以前鹿戸に来た時のことを思い出した。
矢には鷲の羽根がついていたのだ。

あの時も屋敷の前に鷲の羽根が落ちていた。
やはり矢が放たれたのはこの屋敷だったのかもしれない。



「完全にこちらを警戒しているな」

「このまま進んで大丈夫でしょうか…」

「特捜班は俺たちより遥かに強い。
 それにここに来た意味はもう一つあるだろう」



この屋敷には部外者の侵入を防ぐ仕掛けがなされているのだろうと他の捜査官も話す。

その仕掛けに気をつけながら、また前へ進む。


そう、ここに来た目的はもう一つ、京の髪の毛を持ち帰るという重要な任務。

一本でも研究室へ持ち込むことが出来れば検査は容易なのだ。


そしてこの屋敷の一番奥の部屋が目的地である。
襖は閉まっていて明かりが漏れている。

そこからは小さな話し声が聞こえた。
間違いなく人が居る。



「何かしらの攻撃をまた仕掛けてくるかもしれない。
 心してかかれ、行くぞ」



特捜班の班長が捜査官全員に合図した。
同時に襖を勢いよく開ける。


中にいたのは案の定瞼にバツ印のある華狩の男たち。

一斉にこちらに目を向けた。



「やっぱり来やがったな…」

「こちらの台詞だ。かかって来い」

「袋叩きにしてやるよ!!」



部屋にいる華狩の幹部たちは全部で5人。
かなり少なく見えた。

屋敷に入っていった人数は明らかにもっと多かったはず。

梅乃はその矛盾に違和感を感じながらも、目の前の敵を倒す為に竹刀を構えた。



「女…俺が相手だ!」

「私は、負けない!!」



梅乃に向かって突っかかる華狩。
それに負けまいと強く竹刀を振る。

やはり幹部だけあって動きも強さも下っ端とは違う。

しかし今回は味方の数も多い。
諦めない心をもって華狩に挑んでいた。


そして前田や銀壱も他の捜査官と一緒に闘っていた。



特捜班と梅乃たちは次々と華狩を倒し、意識を失った幹部たちを外へ運んだ。

全員を確保できたのは大きな成果だが、やはり京の姿が見当たらない。



「前田さん、京が居ないですね…」

「そうだな。俺たちに気付いて逃げたのかもしれん」

「…何か、花の香りがしませんか?」

「確かにするな」



華狩の幹部が居なくなった部屋。
ほのかに、花の香りが漂い始めた。

部屋には梅乃と前田、銀壱だけ。


すると、花の香りと足音がこちらに近づいてきた。



「あら、またお会いできて嬉しいわ」

「京…!」

「悪いけど、私はその女の子と話がしたいの。
 他のお二人は席を外してくださる?」

「早河、大丈夫か?」

「私は大丈夫です。ここは指示通りに…」



あの花の香りは、京の着物についているお香の香りだったようだ。


京を刺激しない為に、梅乃は前田たちに屋敷から出るよう促した。

自分が狙われているのかもしれない、だとしたら助かる命はできるだけ敵から遠ざけたい、梅乃はそういう考えだった。



「分かった。俺たちは外へ出る。
 早河を傷つけたらすぐに駆けつけるからな」

「心配いらないわ。さようなら」



京は前田と銀壱が部屋から出るとすぐに部屋の襖を閉め、梅乃に近づいてきた。



「話とは、何でしょうか」

「今日、私の可愛い部下がたくさん捕まった。
 そして会議も中止…悲しいわ」

「あなた方が罪を犯すのを見逃す訳にはいきません。
 私たちの使命なのです」

「でも私にとっては大切な仲間なの。
 ひとつ、頼みを聞いてくれないかしら」



京は梅乃の右手を握って話し始めた。

花の香りが更に強くなる。
以前会った時には感じなかった香り。


京のように悪の組織に属しながら、怖いもの知らずで捜査官にここまで近づくなど、有り得ないことだ。



「頼み…ですか」

「ええ。今日捕まった5人を解放してくれたら、
 今後、華罪を犯さないと誓うわ」

「そんな言葉…私が信じると思いますか!!」


――バチン!!


梅乃は心底怒った。
腸が煮えくり返るとはまさにこの事だ。

挑発するような京の口調に、竹刀を振るわずには居られなかった。


あっという間に壁まで京を追いやり、形相を変えた梅乃が更に言葉を放つ。

京も突然の変貌ぶりに驚いているようだった。



「悪が許される世の中ではありません!
 あなたの仲間は解放しませんし、
 あなたもいずれ私たちが逮捕します!」

「生意気ね…!もういいわ。
 私の頼みを聞かなかったこと、後悔するわよ」

「痛っ!」



京は懐から小さな睡眠薬が入った注射器を出し、梅乃の首に針を刺した。

竹刀を握っていた手も力を無くして梅乃は膝から崩れ落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...