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総力戦
儚き故郷
しおりを挟む片桐、榛名両班を見送った前田たちは、最後に本部を出た。
梅乃はいつもより緊張していた。
なぜなら、桜木に旅立って以降、初めての里帰りがこの警備だからだ。
濃紺の桜を右手にきつく縛り、改めて気合いを入れた。
「早河、大丈夫か?」
「はい。でもやはり、少し構えてしまいますね」
「梅乃さんは久しぶりの帰省になるのでは?」
「久々が警備とは、皮肉なものです…」
そんな話をしながら、車で梅乃の地元へ向かう。
梅乃は今、実家である屋敷がどうなっているか、柊次や早百合がまだ町に居るのかすら知らなかった。
自分が知らない間の変化が大きければ、動揺してしまうだろう。
車で数十分、目的地へ到着した前田班。
町長には警備が配置されることを伝えているが、住民は知っているだろうか。
「町長、華捜 派遣捜査係の前田です。
本日から宜しくお願いします」
「よく来て下さいました。
こちらこそ宜しくお願い致します」
「この町は、班員の早河 梅乃の故郷なのです。
精一杯お守りします」
「梅乃ちゃん!帰ってきたのか!」
町長は梅乃の顔を見るなり、飛びついて笑顔で握手をする。
小さな頃、梅乃は町長によくお世話になっていた。
隣人である神之池 柊次や早百合と同様に、何かとお祝いをしてくれたり、家族のように愛してくれていた。
幼少期の面影はまだ残っているようで、町長は大きくなった梅乃に感心している。
「帰ってきたというか…仕事ですけれど」
「いいんだそれでも。顔が見られて安心した!」
苦笑いの梅乃をよそに、梅乃に会えたことで町長の機嫌は非常に良くなった。
一方梅乃は危機感もあった。
故郷だから、と贔屓目で見るのは良くない。
尚更警戒して人々を守らなければならない。
それに、もし知り合いや大切な人が狙われたら、自分で自分を制御できるかが不安だったのだ。
もうこれ以上、大切な人を失いたくない、梅乃は思いを馳せた。
町長への挨拶も終わり、前田たちは他の班と同様に梅の家系をまわって警桜笛を配る。
梅乃も見知った顔ばかりで少し緊張が解れた。
「あら…!梅乃ちゃんじゃない!?
大きくなったわね!」
「立派になったものだ」
後ろから懐かしい男女の声が。
梅乃は思わず、すぐに振り返る。
そこに立っていたのは、変わらぬ印象の柊次と早百合だった。
「柊次さん!早百合ちゃん!」
「おかえりなさい。身長が、すごく伸びたのね」
「元気で良かったよ」
旅立つ前は早百合よりも断然身長が小さかった梅乃だが、ここ最近は伸び盛りでいつの間にか早百合を越していた。
小さい頃見上げていた柊次も、今や目線の高さはさほど変わらない。
家族のような温かさで迎えてくれた二人。
自然と梅乃の目頭も熱くなった。
二人には梅の華墨はない。
故に警桜笛は配らなかったが、隣の家が梅の家系であることから、注意喚起をした。
「本当に、気をつけてください。
奴らは善良な振りをして近づいてくるものです」
「分かりました。前田さんありがとうございます。
梅乃、頑張ってな」
「梅乃ちゃんが頑張るようなことが、
この町で起きないのが理想的ね」
梅乃にとってここは懐かしく、心地よい空間だった。
柊次や早百合も、笑顔で梅乃たちと世間話をしていた。
しかし、この幸せなひと時が続かないことは、梅乃が一番よく分かっていることだった。
幸せはいつか壊されてしまう儚いもの、そういう認識が梅乃の心にはずっと残っているのだ。
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