華ノ道標-華罪捜査官-

山茶花

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総力戦

花の咲く庭園

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柊次や早百合と別れ、三人は巡回警備を再開。

町の住民に一人ひとり挨拶をし、何かあった際に助けを呼びやすい環境をつくっていった。

一般人の華捜に対する印象は堅苦しく、厳しいものであったが、三人は優しく声をかけ続けた。



「懐かしい…皆、変わっていない」

「梅乃さんのその顔、久しぶりに見ましたよ」



梅乃の表情が穏やかになり、銀壱が話しかける。

自然が豊かな町、三人の肩の力も抜けていった。


すると突然、前田の無線機が着信した。



「こちら前田、どうした?」

「九重班です。榛名班から要請を受け、
 応援に向かいます!」

「了解。何とかなりそうか?」

「問題ありません!」

「頼んだぞ。連絡ありがとう」



本部で待機していた九重班からの連絡だった。

榛名班が警備していた村で、何らかの事件が発生した為の応援要請を受けたとの報告。

女性班は強いが、応援が居た方が素早く片付くだろう。

怪我人や犠牲が出ないよう、前田たちは祈るばかりだ。

この町でも警備を続けているが、警桜笛が鳴る気配はなく平穏である。



そしてこの1ヶ月間は担当の場所で寝泊まりをし、毎日警備することになっている。

三人は宿屋を借りず、梅乃の屋敷で過ごすことにした。


今は誰も使っていないようだが、柊次たちが毎日掃除や庭の手入れをしてくれていたらしい。



「ここが、私の実家です。
 遠慮せず、くつろいでくださいね」

「すごい広い…しかも綺麗に手入れされている。
 良いところで育ったな」

「いえ、それほどでも。
 しっかり休養して、出動に備えましょう!」



梅乃は久しぶりの我が家へ帰宅したことになる。
それでも冷静なのは、警備中だからだろう。

柊次たちが生活できる環境にしておいてくれたおかげで、水道や火も使うことが出来る。


梅乃は湯を沸かしお茶を淹れた。



「この庭は、母の唯一の趣味でした。
 色々な植物を植え、花が咲く度に喜びました」

「隣人の神之池さんだったか、
 ずっとここを守り続けてくれたと…」

「はい。私からは何も言わなかったのですが、
 帰ってくると信じて、保ってくれていたようです」

「素敵なお知り合いですね」



今も数種類の花が咲く庭を眺めながら、三人は語らう。

小さな頃の記憶だが、幸せな日々を梅乃は思い起こしていた。



――約10年前


優しく、誰からも好かれていた父 貴梅。

引越しをしてきてから新しい会社に勤めていたが、そこで実力を評価され、役職者に昇進した時のこと。


妻である紫乃は、家でお祝いをしようと普段より豪勢な料理を作り、家の至る所に花を飾った。

花を愛でていた紫乃は、決まって嬉しいことがあると花を飾るのだ。



「今日はね、お父さんのお祝いをするのよ。
 梅乃も手伝ってちょうだい」

「おいわい?どーして?」

「お父さんは会社でたくさん褒められて、
 偉い人になったの」

「わあ、おとうちゃん、すごい!」



紫乃と梅乃は喜んで準備をした。
幼い梅乃も、自分から率先して手伝いをしていた。


しかし貴梅はその晩、夜遅い帰宅になってしまった。

もう梅乃が眠りについた後だった。
折角たくさん用意した料理も冷めきっていた。


梅乃を寝かしつけて帰りを待っていた紫乃が、貴梅に理由を聞いた。



「お疲れ様。何かあったの?」

「すまなかった。実は昇進のことで、
 先輩に呼び止められて…話をしていたんだ」

「話?どんなことかしら」

「僕は最近入社したばかりで、それなのに
 先輩より先に出世するのはおかしい、と…」

「そんなことを言われたのね…
 あらあなた、口に傷が!」

「大したことない。ちょっと言い争いになって、
 揉み合ったら転んでしまったんだ」



会社の厳しい先輩から貴梅は理不尽なことを言われ、感情的になって話が長引いたのだという。

怪我をしているにも関わらず、貴梅は待たせてしまった妻と娘に謝っていた。

そして翌日、貴梅は仕事を休み、家族で改めて昇進祝いをした。


しかし前日の紫乃と貴梅の会話を、梅乃はちょうど目が覚めて聞いてしまった。

そのお祝いをした同じ週、柊次と梅乃が出かけている間に二人は居なくなったのだ。


あの理不尽な先輩社員以外、貴梅は人の恨みを買うような人間ではなかった。

紫乃が一緒に居なくなったのも何かあの話と関係があるのではないか、と梅乃は考えていた。



「早河?どうした?ボーッとして」

「あぁ、すみません。昔のことを思い出して…」

「そうだよな。今日はゆっくり休め。
 俺はまた巡回してくる。銀壱も、行くぞ」

「あ、はい!」



前田は気を遣って銀壱と二人、外へ出て行った。

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